『オイスター・ボーイの憂鬱な死』ティム・バートン

●今回の書評担当者●文教堂書店青戸店 青柳将人

  • オイスター・ボーイの憂鬱な死
  • 『オイスター・ボーイの憂鬱な死』
    ティム・バートン
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    3,132円(税込)
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 10月に入ってようやく秋らしくなったかと思えば、書店だけではなく、大型ショッピングモールや雑貨、洋菓子店、近所のスーパーまでもがハロウィン一色に染め上げられている。数年前までは、メディアが大きく取り上げる程、日本人がハロウィンという行事に盛り上がるようになるとは想像も出来なかった。

 けれど思い返してみれば、10年以上も前からディズニーランドではホーンテッドマンションというアトラクションを、毎年秋の到来と共に、ティム・バートン監督(以下ティム)の生み出した名作クレイアニメ「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」(以下ナイトメア)の世界観に模様替えし、ナイトメアの主人公・ジャック・スケリントンをはじめとする人気キャラクターがお出迎えしてくれていた。

 そんなティムの生み出すキャラクター達や世界観のルーツを探る事が出来る本書は、ハロウィンの時期になると読み返したくなる、子供でも大人でも楽しめる絵本になっている。

 ページを開くと、全身シミだらけのステインボーイやメロン頭のメロンヘッド、マッチ棒の身体を持つマッチ・ガール等、ティムらしいちょっと不気味だけれど愛嬌のあるキャラクターの物語が展開されていく、ティム作品のファンにはマストアイテムと言っても過言ではない位に有名な絵本だ。

 本書に登場する、果物や魚介、更には無機物と同化しているが為に、身体のどこかに障害を抱えているキャラクター達の大半は、自身と他者との違いによって、周囲からいじめや迫害を受け、非常に不幸な境遇の中で生活している。はっきり言って、ハッピーエンドという結末はこの作品のどこのページを開いても存在はしない。

 特に顕著なのは本書の表題にもなっている「オイスター・ボーイ」の物語だ。彼は「カキ」の頭を持って生まれて来たが故に、両親から名前を付けてもらえず、同世代の友人も作る事が出来ない。挙げ句の果てには就寝中に父親が寝室に忍び込み、頭のカキを食べて(殺して)しまう。そしてオイスター・ボーイの死後、両親は海辺に簡易的な墓を作っただけで、次は女の子が生まれるようにと語り合い、彼の死を悼みさえしない。

 あまりにも残酷な物語の背景には、身体障害者、先天性異常の明確な暗喩が示されているのは言うまでもなく、それがティムの今まで生み出してきた数々の映画、アニメーション作品に繋がっているのは、ナイトメアだけでなく「シザーハンズ」、「フランケンウィニー」といった作品群を見れば明瞭だと思う。

 そして本作が20年近く経た今でも重版を重ねて多くの人々に読まれ続けているのは、ティムの映画監督としての世界的な知名度の高さから影響しているものだけではない。それは本書が社会的弱者に対して、いかにして社会包摂の推進を図るべきかといった非常に重いテーマを、老若男女が読める絵本という媒体で描く事により、世代や性別、国を越え、千差万別の捉え方が出来る、素晴らしい文芸作品でもあるからだ。

 ティムが素晴らしい作品を生み出す度に本書は静かに重版を繰り返し続け、何世代にも渡って多くの人々に愛され続けていく事になるだろう。

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文教堂書店青戸店 青柳将人
文教堂書店青戸店 青柳将人
1983年千葉県生まれ。高校時代は地元の美学校、専門予備校でデッサン、デザインを勉強していたが、途中で映画、実験映像の世界に魅力を感じて、高校卒業後は映画学校を経て映像研究所へと進む。その後、文教堂書店に入社し、王子台店、ユーカリが丘店を経て現在青戸店にて文芸、文庫、新書、人文書、理工書、コミック等のジャンルを担当している。専門学校時代は服飾学校やミュージシャン志望の友人達と映画や映像を制作してばかりいたので、この業界に入る前は音楽や映画、絵、服飾の事で頭の中がいっぱいでした。