『コーネルの箱』チャールズ・シミック

●今回の書評担当者●文教堂書店青戸店 青柳将人

 2017年10月の開館から1年。草間弥生美術館は、常設展の他にも足を運ぶ度に新しい草間作品の魅力を発見出来る特設展等のイベントもあり、日々多くの来場客が訪れて草間作品の独特の世界観を堪能しているという。GINZA SIXがグランドオープンした時に、館内のインスタレーションが大きく話題になった事もまだ記憶に新しい草間弥生は、間違いなく日本を代表する美術家の一人だ。

 そして国内だけに留まらずグローバルに活躍している草間は、多くのアーティストとの親交を持ち、その中でも活動の拠点をニューヨークへ移した際に出会った、ジョセフ・コーネル(以下コーネル)との出会いについては、ここで語るまでもなく多くの書籍で書かれている。

 本書は草間のニューヨークでの活動を晩年まで公私共に支え続けたコーネルの作品群を、美術評論家であり、詩人でもある著者・チャールズ・シミックが、詩や散文を介して作品を紹介してくれている。しかも柴田元幸の名訳で文学的側面からも堪能でき、美術書と文芸書としての二面性を持った非常に特徴的な作品だ。

 木箱の中に敷き詰められた小さな小瓶、少女の写真が等間隔に貼られた額縁、木の枝に囲まれたフランス人形、真っ白い空間の中に無造作に置かれた白い球体。吉夢か。はたまた悪夢なのか。自宅の地下室に一人籠って作られたというコーネルの箱庭世界は、一つ一つの作品が上質な掌編集のような物語性を秘めていて、鑑賞する者によって作品の印象が変わるのも、単なる美術作品の枠では収まる事のないコーネル作品の魅力であろう。

 そんな一度見たら二度と忘れられない不思議な魅力に包まれているコーネル作品を、著者自身の詩や散文だけではなくボードレールやヴァレリーといった名だたる詩人から、小説家や劇作家、そして思想家まで、数多くの著名な作家の言葉が引用されており、それがまたコーネル作品との相性が非常に良く、より一層の深みを増して作品を鑑賞する事ができるのだ。

 著者自らが作中にある「ミニチュアの詩学」という散文で、コーネルの箱についてこう語っている。

「子供たちは、自分がいまだ世界の主人公である、時計のない幸福な孤独を生きている。箱は想像力が君臨していた日々の遺宝箱なのだ。むろん箱たちは、子供のころの夢想に立ち戻るように私たちを誘っている。」

 そう。私達はコーネル作品を覗く事で、世界がどこまでも広がっていると信じて疑わなかった、最も想像力のあった子供の頃を思い出し、そして二度と戻る事の出来ない時と邂逅するのだ。

 コーネル作品に言葉を乗せ、更なるイマジネーションの拡がりを与えてくれている本書は、美術書の解説本としてのあり方を一変させ、文芸作品としての新たな一面を与えてくれた。

 美術と文芸の親和性を高める事の一躍を担ってくれた本書は、これからも長く読み継がれていく事になるだろうし、本書に触れる事でコーネル作品に興味を抱き、実際に国内の常設美術館に足を運び、コーネルの箱を実際に覗いて、その神秘性に溢れた作品の魅力に触れてもらえる事を願う。

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文教堂書店青戸店 青柳将人
文教堂書店青戸店 青柳将人
1983年千葉県生まれ。高校時代は地元の美学校、専門予備校でデッサン、デザインを勉強していたが、途中で映画、実験映像の世界に魅力を感じて、高校卒業後は映画学校を経て映像研究所へと進む。その後、文教堂書店に入社し、王子台店、ユーカリが丘店を経て現在青戸店にて文芸、文庫、新書、人文書、理工書、コミック等のジャンルを担当している。専門学校時代は服飾学校やミュージシャン志望の友人達と映画や映像を制作してばかりいたので、この業界に入る前は音楽や映画、絵、服飾の事で頭の中がいっぱいでした。