『最後だとわかっていたなら』ノーマ コーネット マレック

●今回の書評担当者●ブックデポ書楽 長谷川雅樹

  • 最後だとわかっていたなら
  • 『最後だとわかっていたなら』
    ノーマ コーネット マレック
    サンクチュアリ出版
    950円(税込)
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「たしかにいつも明日はやってくる でももしそれが私の勘違いで 今日で全てが終わるのだとしたら、 わたしは 今日 どんなにあなたを愛しているか 伝えたい」

 この詩は、アメリカで生活していた女性ノーマ・コーネット・マレックが、若くして水難事故で亡くなった息子によせて書いた詩『最後だとわかっていたなら』(サンクチュアリ出版)の一節である。

 アメリカでの9.11のテロ事件をきっかけとして、この詩は広く知られるようになった。あの忌まわしき事件のあと、偶然誰かの目に留まったこの詩は、亡くなった方々を偲び、平和を訴えるためにと、チェーンメールとして拡散されていったのだ。ノーマに無断での行為ではあったが、ノーマは戸惑いを感じつつも、しかし平和的に読まれていることについて、むしろ光栄に思っていたという(本著『おわりに(佐川睦・著)』より引用)。あのとき、多くの想いが、この詩とともにあった。

 日本では2017年3月11日付の岩手日報に広告として掲載され、のちに広告賞を受賞したことで話題になったから、それをきっかけにこの詩を目にした方も少なくないと思われる。

 わたしは結婚し、子どもまで授かった結果、(以前この書評でご紹介させていただいた『おかあさんとあたし。(大和書房/k.m.p.・著)』の影響もあるだろうが)家族で過ごす日常の風景をできる限り目に焼付けようとし、慈しみ、感謝するようになったと思う。この詩の言うように愛する想いを大切な人に今きちんと伝えられているかは自信がないし、どうあってもやはりその日が来たら後悔してしまうのだと思うが、それでも、私自身、私なりに、いつも愛する人に感謝を伝えていきたいと強く願っている。

 愛する人に、愛する気持ちを伝えるのに、遅すぎるということはない。伝えないままにしては、もし明日が来なかったときに、きっと後悔する──この詩は、そんな大切なことを教えてくれている。この詩をきっかけに、世界の見え方が変わる可能性がある強い力を持った本なので、ぜひお手に取ってみてください。

 ところで、話は大きく変わるが、つい先日電子コミックスの売り上げが、紙コミックスを初めて上回る(2017年)というニュースが流れた。新刊主体の紙媒体と、新刊プラス過去数十年の人気作の電子化がなされた(しかも、たいていセールが行われている)電子コミックスとを単純比較していいかどうかはさておき、やはり出版業界に身を置くものとしては看過できない重要なニュースであることは間違いない。

『最後だとわかっていたなら』ではないが、書店として、書店員として、当たり前に本を販売させて戴いている今という時間が、もしかしたら明日、ふいになくなるのかもしれない、いつも来てくださっているお客様に本をお届けできなくなるのかもしれないという危機感を常に持ち、そのうえで日々を過ごさねばならないと感じている。業界では「本屋に行こうキャンペーン」のようなものをよく目にするが、最終的に選ぶのはお客様であり、お客様にネットよりもリアル書店で買う方が楽しいと感じていただくことでしか、最終的に「本屋に行こう」とはならないのである。好きになっていただくために、自らを磨かねばならないのは何も恋愛に限った話ではない。これはお客様あっての商売なのだ。書店はけして神が祀られている祠ではない。

 そのために、何ができるだろうか。著者様の講演会を開く、ネットを巡回するだけでは出会いにくい良書との出会いのサポートをする、目的にあった本選びのしやすい整然とした書棚をつくる、丁寧な接客をする、いるだけで居心地のいい空間を設計する......そのすべてだろうし、おそらくはこれだけでは足らないのだろう。その答えはまだ見つからない。書店と言うかたちが未来、変わっていく可能性まである。

 しかし、ひとつだけ断言できるのは、書店が生き残るにはお客様を愛し、本を愛することが何より大切で、それは時代が移り変わろうとけして変わらないだろうということだ。エビデンスもなく、根拠レスだが、なぜかこれだけは間違いないという確信がある。たぶん、それは本それじたいの持つあたたかさ、また、宇宙のように深く広がる世界そのものが、わたしにそう感じさせるのだと思う。リアリティに欠けるとの批判は甘んじて受けるが、きっと出版(業界)のすべては、今も昔もきっとそこからはじまっていた。そして、これからも、はじまっていくのだと思う。

 本とお客様のために。そして、当店を愛していただく、ごひいきにしていただくために。これからも粛々と働いていきたいと思う。

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ブックデポ書楽 長谷川雅樹
ブックデポ書楽 長谷川雅樹
1980年生まれ。版元営業、編集者を経験後、JR埼京線・北与野駅前の大型書店「ブックデポ書楽」に企画担当として入社。その後、文芸書担当を兼任することになり、現在に至る。趣味は下手の横好きの「クイズ」。書店内で早押しクイズ大会を開いた経験も。森羅万象あらゆることがクイズでは出題されるため、担当外のジャンルにも強い……はずだが、最近は年老いたのかすぐ忘れるのが悩み。何でも読む人だが、強いて言えば海外文学を好む。モットーは「本に貴賎なし」。たぶん、けっこう、オタク。