『14歳、明日の時間割』鈴木るりか

●今回の書評担当者●勝木書店本店 樋口麻衣

「現役中学生作家」と言われれば、中学生がどんな小説を書くのか気になって、読んでみたくなりますよね? そんなわけで、現役中学生作家・鈴木るりかさんのデビュー作『さよなら、田中さん』を完全に興味本位で読んだのが2017年。結果的に2017年に私が読んで一番泣いた小説が『さよなら、田中さん』でした。とにかくすごい、もっと読みたいと、昨年から心待ちにしていた、鈴木るりかさんの二作目が発売されました。これがもっとすごかった! ということで、今回は、鈴木るりかさんの『14歳、明日の時間割』(小学館)を紹介させていただきます。

 舞台は中学校。全7編からなる短編小説で、それぞれの章が「1時間目 国語」、「2時間目 家庭科」、というように時間割に見立てて書かれています。

 現代っ子っぽい表現があるかと思えば、「学業優先の薬師丸ひろ子方式」などという、なぜ現役中学生が知っているのかと思うような昭和の香りが漂うような場面もあります。ユーモアもあって、文章のリズムもあるので、読みやすく、でも所々、ハッとするような名言や描写があって胸を打たれます。 

 特に強く印象に残ったのは、「5・6時間目 体育」の話です。

「世の中にたえて体育のなかりせばわれの心はのどけからまし 詠み人 星野茜」と歌を詠んでしまうほど体育が苦手な茜が、静かに最期の「その日」を待つ祖父のことを想って、マラソン大会で、ある挑戦をします。14歳、子どもではないから、自分の力ではどうしようもないことはわかっている。でも、どうすることもできずに、もがき、苦しむ。そんな中でも、ふと、キラキラ光るような瞬間もある。

 そんな中学生ならではの描写がある一方で、この章の大きなテーマは「生」と「死」。「どんな姿になっても、命の砂時計の最後のひと粒が落ちきる瞬間までは生きているんだよ。」、「年寄りが死ぬのは当たり前だ。自然の摂理ってやつだ。でも生きているのは、当たり前のことじゃないぞ。」中学生が書いたとは到底思えないような言葉が心に響きます。財布に残っていたレシートの日付を見て、このときにはまだ生きていたのに、今はもういない、そんなことにようやく気づくというシーンがとても印象的で、私たちがうまく言葉にできないようなことを、特徴的なストーリーで描いてくれています。

 そして、全7編に共通して、中原君という男の子が登場するのですが、彼がとにかくカッコいい。やっぱりどんな人にもさりげなく優しくできるっていいですよね。この中原君が各章をうまく結び付けてくれて、最終章でも、いい役割を果たしてくれます。中原君ファンの私としては、中原君にも注目して読んでいただけると嬉しいです。

 中高生が読めばきっと共感できるところが多いと思うし、大人が読めば共感と懐かしさを感じると思います。読後はすがすがしく、爽やかな気持ちになります。そして何より純粋に、本を読むことの楽しさを感じられる、ワクワクがたくさん詰まっています。

「もっと読ませてください。楽しみに待ってます。」作中の中原君の言葉ですが、これはきっと、読み終えた多くの人の言葉にもなるのではないかと思います。

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勝木書店本店 樋口麻衣
勝木書店本店 樋口麻衣
1982年生まれ。文庫・文芸書担当。本を売ることが難しくて、楽しくて、夢中になっているうちに、気がつけばこの歳になっていました。わりと何でも読みますが、歴史・時代小説はちょっと苦手。趣味は散歩。特技は想像を膨らませること。おとなしいですが、本のことになるとよく喋ります。福井に来られる機会がありましたら、お店を見に来ていただけると嬉しいです。