『亜シンメトリー』十市社

●今回の書評担当者●精文館書店中島新町店 久田かおり

 これ、表紙きれいですよねぇ。都会的っていうんですか?とってもおしゃれです。そして真ん中にドーンっ!と書いてある「亜」の文字。この文字の白い線が交わってるところを見るとぼんやりと黒い丸が見えますね。これね、目の錯覚なんですよ。ええ、本当は白と白が交差してるだけで真っ白なんです、なのに黒い点が見える。いやぁ、人間の眼って不思議ですよね。

 それがどうした、なにを言ってるんだ、早く内容を紹介しろ!と叱られそうですね、ごめんなさい。いや、アタクシもスパっスパっスパっ!!と紹介したいんです、紹介したいのはやまやまなれど、悩んでるんですよ。どうやって紹介しようか、と。

 これ、究極の紹介困難本なんです。

 出版社のサイトに「難易度MAXな挑戦状」とありますが、挑戦するためには余計な情報を入れてしまうともったいないわけですわ。十市さんが全力で突きつけた挑戦を真っ向から受けて立つには、無垢な心で挑むべきでして。
 つまり、ネタバレレビューは万死に値する、と。

 なので、悩みつつ書いております。みなさんが先に知っていても大丈夫なことだけ書く。

 まず。これは4つの章からなる短編集で、第三章は第一章の完結編となっております。いわゆる受けの章。

 ではでは、内容紹介いっちゃいましょう。

 第一章【枯葉にはじまり】は、大学生と高校生の男女三人の思惑と、とある謎解き。これは気持ちよく読める。ほっほぉ、そういうことでしたか、なるほどなるほどやられましたわ、とまだまだ余裕で楽しめる。読みながら感じる小さな躓きに注意。 

 第二章【薄月の夜に】は簡単に言うと「浮気」の話なのだけど、これは「え?」と「あ!」のあとに「ええ?」がきて、読み終わった後、すぐ冒頭に戻りましたね。うわー!私頭悪いし!全然気づかなかったよ!と落ち込む落ち込む。

 第三章【三和音】は第一章の登場人物三人のその後。9年ぶりに再会した三人の関係がとんでもないことになってて、本筋に関係なくまず驚く。いやぁ、多様性多様性。そして、人生をかけた壮大な伏線回収。すごいなぁ。にやにやしながらこの三人のそのまた数年後の話も読みたくなる。

 そして問題の第四章表題作でもある【亜シンメトリー】。「アシンメトリー」とはご存じのように「左右非対称」ってことですね。アタクシ10年位前の一時期左右非対称な長さの髪型をしてました、関係ないですけど。

 で登場人物の二人の女性はバスの中でシンメトリーな漢字を使ったゲームをするんですね。このゲーム、なかなか難しくて楽しくて。答えを追ってる間にどんどん話が進んでいって肝心な部分に気付かない。終わったときには頭の中が完全無欠の大渋滞、なんて間抜けなことになってしまう。

 なんだなんだ、何が起こってたんだ、と混乱しながら深呼吸して最初から読み直す。今度はじっくりと漢字ゲームに気を取られないように、じっくりと。

 多分、じっくり読んでもまだ見落としているというか、ちゃんと把握できていないと思うのですよ。ミステリ読みの方々ならこんなことにはならないのかな、一読目で全部理解した人、天才だよな、と思いつつ、これ以上書くと未読の方の邪魔になるし、こんなレビューじゃ全然面白さが伝わらないし、と忸怩たる思いにさいなまれている公休日の午後三時半です。

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精文館書店中島新町店 久田かおり
精文館書店中島新町店 久田かおり
「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用されて17年目の、現在、妻母兼業の時間的書店員。経験の薄さと商品知識の少なさは気合でフォロー。小学生の時、読書感想文コンテストで「面白い本がない」と自作の童話に感想を付けて提出。先生に褒められ有頂天に。作家を夢見るが2作目でネタが尽き早々に夢破れる。次なる夢は老後の「ちっちゃな超個人的図書館あるいは売れない古本屋のオババ」。これならイケルかも、と自店で買った本がテーブルの下に塔を成す。自称「沈着冷静な頼れるお姉さま」、他称「いるだけで騒がしく見ているだけで笑える伝説製作人」。