『架空の犬と嘘をつく猫』寺地はるな

●今回の書評担当者●宮脇書店青森店 大竹真奈美

  • 架空の犬と嘘をつく猫 (単行本)
  • 『架空の犬と嘘をつく猫 (単行本)』
    寺地 はるな
    中央公論新社
    1,728円(税込)
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 これは、空に希望を、嘘にリボンをかけてくれる物語──。

「この家にはまともな大人がひとりもいない」そんな6人家族の羽猫家。

 突然「遊園地をつくる!」などと、思いつきで夢追う祖父と、なにやら怪しげな店で嘘を売る祖母。3人目の子どもを亡くし自分の世界に閉じこもる母と、西の魔女と呼ばれる愛人の元へとすぐ逃げる父。「嘘と嘘つきが大嫌い」と、家族みんなを否定し反発する姉と、母の世界や家族を肯定するために、嘘に寄り添う長男の山吹。

 猫の羽の部分は嘘でできている──。そう言えなくもないような、そんな羽猫家。いつも誰かがいない家。これは、そんなちょっと変わった、破綻した嘘吐き家族の物語である。

「嘘つきは泥棒の始まり」というように、人は大抵の場合、「嘘をつくことは悪いことだ」と教わって育つ。しかし山吹は、亡くなった弟を探し回る母を、安心させるために嘘をつく。弟が生きているという、母の嘘の世界を守るために嘘をつくのだ。

 生きている時間の全てが、真実だけでできていること。それがどれくらいの重要性があるだろう。嘘を孕んで生まれた世界。それが生きのびるためのひとつの方法だとしたら......。たとえ唯一前に進む道が逃げ道だとしても、今を生きるために必要であるならば──。


 嘘というものがこなす、「ない」ものの中に「ある」もの。それは、人を慰めたり助けたり。支えたり守ったり。時に、いろんなカタチの愛だったりするのではないか。

 たとえば物語を読むとき、私たちは嘘の中にいる。物語を読んで過ごすということは、現実の世界を抜けて、嘘の世界に身を投じるということだ。本の中に確かにある世界。架空の世界。そこにはなんにも「ない」だろうか。

 いや、なんにも「ない」わけが「ない」

 本に助けられる=嘘に救われている。そういった部分があることを感じずにはいられない。

 日々どこからか感じている後ろめたさや、罪悪感、向き合わずに現実逃避していることを「いいんだよ」と優しく認めてくれる。和みと歪みが共生する日常を受け止めて、そっと心に寄り添い、さらさらと浄化してくれる。これは、そんなあたたかさを感じる作品だ。

 たとえどんな空の下にいても、私たちはいつだって、空に架かる虹を描いてもいい。いつでも寄り添ってくれる架空の犬を飼って、寂しい時にそっと撫でたっていいのだ。

 かくいう私も、羽の生えた猫を見かけるようになった。その猫は空を飛び、希望という名の弧を描き、嘘にリボンをかける。それは直接舐めると苦いけれど、香り高く引き立てるバニラエッセンスのように、人生に深みをもたらすのである。

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宮脇書店青森店 大竹真奈美
宮脇書店青森店 大竹真奈美
1979年青森生まれ。絵本と猫にまみれ育ち、文系まっしぐらに。司書への夢叶わず、豆本講師や製作販売を経て、書店員に。現在は、学校図書ボランティアで読み聞かせ活動、図書整備等、図書館員もどきを体感しつつ、書店で働くという結果オーライな日々を送っている。本のある空間、本と人が出会える場所が好き。来世に持って行けそうなものを手探りで収集中。本の中は宝庫な気がして、時間を見つけてはページをひらく日々。そのまにまに、本と人との架け橋になれたら心嬉しい。