『崖の館』佐々木丸美

●今回の書評担当者●文信堂書店長岡店 實山美穂

"この家には昔から血なまぐさい殺意がひそんでいた。"

 美しい伝説を秘めた百人浜の断崖にそびえる白い洋館。そこに住む資産家のおばのもとに、高校生の涼子は5人のいとこたちとともにやってきた。いつものように冬休みを過ごすために。しかし到着した当日に起きた絵画消失事件が、皆の間に暗い影を落とす。2年前に崖から転落したおばの愛娘・千波の死に関連しているのか? 凶事が続く閉ざされた館の中、犯人の悪意は涼子にも向けられる。大好きないとこたちの中に犯人がいるなんて信じられない。

 この作品は、〈館〉三部作第一弾で推理小説となっています。思春期の少女から見た事件が繊細な文章で綴られていて、この本を読んだ時は、文章の美しさと犯人の動機に驚き、もっとこの人の本を読みたいと思ったものでした。

 そして、続く『水に描かれた館』、『夢館』を読んだ時では、キャラクターのイメージだけでなく、作家の印象すら変わりました。そのくらいの衝撃でした。この世界観を味わうには、三部作をすべて読まないとわからないかもしれませんが、ひとまず『崖の館』だけでも楽しめます。

 この作品を書いた作家・佐々木丸美は、1949年北海道生まれ。75年『雪の断章』でデビュー。デビュー作は映画化されました。その後、約10年間に17作品を発表して、そのまま新作を出さないまま、沈黙。2005年12月に急性心不全で逝去。公にされている情報が少なく、ミステリアスです。長らく絶版でしたが、2006年から作品が復刊され、また読むことができるようになりました。ブッキングより復刊されたシリーズには、作家本人のあとがきも収録されていて、本人の声に触れることができます。こちらは図書館や古本で探してください。推理小説好きに、佐々木丸美入門書としておすすめします。〈館〉三部作には姉妹作もあります。

 もっとどっぷり少女小説を楽しみたい人には『雪の断章』からはじまる〈孤児〉四部作を。こちらは涙なくしては読めませんので、タオルを用意して読んでください。

 40年前に書かれた作品ですが、古臭さは感じません。新たなマルミストの誕生を願っています。

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文信堂書店長岡店 實山美穂
文信堂書店長岡店 實山美穂
長岡生まれの、長岡育ち。大学時代を仙台で過ごす。 主成分は、本・テレビ・猫で構成。おやつを与えて、風通しの良い場所で昼寝させるとよく育ちます。 読書が趣味であることを黙ったまま、2003年文信堂書店にもぐりこみ、2009年より、文芸書・ビジネス書担当に。 二階堂奥歯『八本脚の蝶』(ポプラ社)を布教活動中。