1月8日(金)書評家4人の2015年解説文庫リスト

〔大森望〕

1月『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官』梶永正史/宝島社文庫
  『ガレキノシタ』山下貴光/実業之日本社文庫
2月『いなくなった私へ』辻堂ゆめ/宝島社
3月『はかぼんさん 空蝉風土記』さだまさし/新潮文庫
  『ザップ・ガン』フィリップ・K・ディック/大森望訳/ハヤカワ文庫SF※
6月『外資系オタク秘書 ハセガワノブコの華麗なる日常』泉ハナ/祥伝社文庫
  『折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選』大森望・日下三蔵編/創元SF文庫※
7月『皆勤の徒』酉島伝法/創元SF文庫
  『ショートショート・マルシェ』田丸雅智/光文社文庫
  『雲の王』川端裕人/集英社文庫
  『ブラックアウト』コニー・ウィリス/大森望訳/ハヤカワ文庫SF※
8月『双生児』クリストファー・プリースト/古沢嘉通訳ハヤカワ文庫FT
  『ヨハネスブルグの天使たち』宮内悠介/ハヤカワ文庫JA
  『謎の放課後 学校の七不思議』大森望編/角川文庫※
9月『まぼろしのパン屋』松宮宏/徳間文庫
  『かにみそ』倉狩聡/角川ホラー文庫
10月『ブラックライダー』東山彰良/新潮文庫
  『書き下ろし日本SFコレクション NOVA+ 屍者たちの帝国』大森望責任編集/河出文庫※
  『歪んだ時間 冒険の森へ 傑作小説大全8』浅田次郎・山田正紀ほか/集英社
11月『夜の底は柔らかな幻』恩田陸/文春文庫
  『オール・クリア』コニー・ウィリス/大森望訳/ハヤカワ文庫SF※
12月『百匹の踊る猫 刑事課・亜坂誠 事件ファイル001』浅暮三文/集英社文庫
  『パズル崩壊』法月綸太郎/角川文庫

 ぜんぶひっくるめて23冊。このうち自分の編訳書に書いた解説・あとがきが6冊(末尾に※を付した)。さらに、単行本『いなくなった私へ』と全集本の『歪んだ時間』の解説を除くと、純粋な文庫解説は15冊。2009年以降の推移は、12冊→13冊→14冊→13冊→15冊→10冊なので、過去7年間では最多タイ。もっとも『双生児』と『皆勤の徒』は単行本に書いた解説の改訂版ですが、ともに、小説の中身をこんなに詳しく〝解説〟してる解説も珍しいんじゃないかというタイプの解説です。


〔杉江松恋〕
1月『謎解きはディナーのあとで3』東川篤哉(小学館文庫)
2月『ブラッドショット 横浜市警第3分署』北國浩二(徳間文庫)
3月『深山の桜』神家正成(宝島社)※単行本
5月『助手席のチェット』スペンサー・クイン(古屋秀子訳。創元推理文庫)
  『三毛猫ホームズの仮面劇場』赤川次郎(角川文庫)
6月『高座の上の密室』愛川晶(文春文庫)
  『エンジェルメーカー』ニック・ハーカウェイ(黒原敏行訳。ハヤカワPB)
7月『蜃気楼家族1』沖田×華(幻冬舎文庫)
8月『ライフルバード 狙撃捜査』深見真(ハルキ文庫)
10月『悲しみのイレーヌ』ピエール・ルメートル(橘明美訳。文春文庫)
  『談志が死んだ』立川談四楼(新潮文庫)
  『届け物はまだ手の中に』石持浅海(光文社文庫)
11月『バーニングワイヤー』ジェフリー・ディーヴァー(池田真紀子訳。文春文庫)
  『ラストコード』堂場瞬一(中公文庫)
  『グランドマンション』折原一(光文社文庫)
  『ノックスマシン』法月綸太郎(角川文庫)
  『閃光スクランブル』加藤シゲアキ(角川文庫)
12月『代官山コールドケース』佐々木譲(文春文庫)
  『暗くて静かでロックな娘』平山夢明(集英社文庫)
  『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』ダヴィド・ラーゲルクランツ(ヘレンハルメ美穂・羽根由訳。早川書房)※単行本
  『夏服パースペクティヴ』長沢樹(角川文庫)
  『報復』ドン・ウィンズロウ(青木創・国弘喜美代訳。角川文庫)

 一昨年が12本、昨年が13本で微増だったのだが、今年は数えてみたら22本で大幅に増えていました。なぜか毎年同じで、前半よりも後半に多く依頼をいただきます。10月から12月にかけて13本も書いているのだけど、特に11・12月は5ずつ出ていて、このあたりをどういう風にしのいでいたのか、我ながら心配になりました。生きていたのか、私。
 比率としては海外ものが22本中6本で、去年は13本中7本だったので減少しているのだけど、その代わり偏愛するニック・ハーカウェイ、各ベストテンで1位を獲ったルメートルの作品を書かせてもらって満足です。この中でいちばん苦労したのはジェフリー・ディーヴァーの『バーニングワイヤー』でした。シリーズ途中の作品ということもあり、リンカーン・ライム&アメリア・サックス・シリーズに出てくる悪人・怪人を、ネタばらしなしで図鑑風に紹介するという試みに挑戦しました。また、『悲しみのイレーヌ』は編集者ナガシマがニヤニヤ笑いながら「絶対ネタバラシなしで書けないでしょう」という顔をして依頼してきたので、意地になってネタバラシ回避して書いた一本です。その他愛着があるのは『夏服パースペクティヴ』で作品とはまったく関係ない「仮面ライダーV3」オマージュで書いてみました。なんでV3なんだ。


〔池上冬樹〕
1月『千鳥舞う』葉室麟/徳間文庫
  『ベスト・アメリカン短篇ミステリ2014』ローラ・リップマン篇/DHC
2月『ハードラック』薬丸岳/講談社文庫
3月『冬芽の人』大沢在昌/新潮文庫
  『焚火の終わり』宮本輝/文春文庫
4月『勇者の証明』森村誠一/集英社文庫
  『よろづ情ノ字薬種控』花村萬月/光文社文庫
5月『マルセル』高樹のぶ子/文春文庫
   『冒険の森へ・傑作小説大全11/復活する男』/集英社
6月『棟居刑事 荒野の証明』森村誠一/中公文庫
7月『ネメシス 復讐の女神』ジョー・ネスボ/集英社文庫
  『大事なことほど小声でささやく』森沢明夫/幻冬舎文庫
8月『霧町ロマンティカ』唯川恵/新潮文庫
9月『勝手に! 文庫解説』北上次郎/集英社文庫 ※解説座談会
10月『悪い女』草凪優/実業之日本社文庫
11月『幻の女 新訳版』ウイリアム・アイリッシュ/ハヤカワ文庫
12月『たぶんねこ』畠中恵/新潮文庫
   『国境の雪』柴田哲孝/角川文庫

 今年は書いていないなあと思ったが、数えたら18冊もある(そのうちの一冊は座談会であるが)。昨年の大森さんと北上さんにならって過去5年間の解説本をあげると、2011年は20冊(うち新装版3冊)、12年は16冊(うち新装版2冊)、13年は22冊、14年は15冊となる。実質だけを数えるなら、17→14→22→15→17という推移である。
 冊数はともかく、満足でいうなら、15年もいい本を解説することができて幸せだった。全作お薦めだが、なかでも葉室麟の『千鳥舞う』は芸術家小説として素晴らしい完成度だし、森村誠一の『勇者の証明』は反戦青春ロードノベルとして新しいし、宮本輝『焚火の終わり』も箴言に彩られていて読み応えたっぷりだ。『ベスト・アメリカン短篇ミステリ2014』と『冒険の森へ・傑作小説大全11/復活する男』も傑作アンソロジーで必読。無冠の作家だが、『大事なことほど小声でささやく』の森沢明夫の解説を担当できたのも嬉しかった。


〔北上次郎〕
1月『ワン・モア』桜木紫乃(角川文庫)
2月『強襲』フェリックス・フランシス(北野寿美枝訳/イースト・プレス)
3月『キング・メイカー』水原秀策(双葉文庫)
4月『美しき一日の終わり』有吉玉青(講談社文庫)
5月『またやぶけの夕焼け』高野秀行(集英社文庫)
  『無罪』スコット・トゥロー(二宮磬訳/文春文庫)
6月『ギンカムロ』美奈川護(集英社文庫)
7月『泣いたらアカンで通天閣』坂井希久子(祥伝社文庫)
8月『天翔る』村山由佳(講談社文庫)
  『ラスト・タウン』ブレイク・クラウチ(東野さやか訳/ハヤカワ文庫)
9月『花のさくら通り』荻原浩(集英社文庫)
11月『灰色の犬』福澤徹三(光文社文庫)
  『デッドヒートFinal』須藤靖貴(ハルキ文庫)
12月『海狼伝 新装版』白石一郎(文春文庫)
  『はじめて好きになった花』はらだみずき(祥伝社文庫)

 本の雑誌増刊『おすすめ文庫王国2016』に「2015年にいちばん文庫解説を書いたのは誰だ?」という記事が載っていて、私が16冊で7位にランクされている。しかしこの冊数は、2014年10月から2015年9月までの1年間が対象になっている。2015年の1~12月に限定すると、上記の15冊だ。2月の『強襲』は単行本なので純粋な文庫解説は13冊である。これでも少し多かったよなというのが個人的な印象で、2016年は10冊程度にしたい。ちなみに、1~6位が誰なのかは『おすすめ文庫王国2016』をお読みください。ここで1位になった人とこの増刊号の発売直後に会ったら、2015年は少なかったですね(29点も書いているのに!)と言っていたことを付記しておきます。