12月2日(金)私家版

 ずっと昔、「笹塚日記」というものを「本の雑誌」に連載していた。その最終回が載ったのは2007年3月号である。ということは、あの日記が終了してからそろそろ10年になるのか。最近「本の雑誌」を読み始めたという人は、ですから、知らないかもしれません。この「笹塚日記」は「本の雑誌」に連載したあと、4冊の単行本にまとまっている。『笹塚日記』『笹塚日記 親子丼篇』『笹塚日記 うたたね篇』『笹塚日記 ご隠居篇』の四冊だ。

 その最後の「ご隠居篇」の帯に、こうある。

「半径500メートルのご近所エッセイ、ついに完結」

 ようするに、当時「本の雑誌」が入っていたビルの最上階に住み、そこでひたすら本を読み、原稿を書き、そこから競馬場に通っていた日々の記録である。ただいまその「ご隠居篇」を書棚から取り出して、ぱらぱらやっていたらつい読みふけってしまった。

 10年前のことだから、ほとんど内容を覚えていないから、自分の本ではあるものの、面白いのだ。会社に行くのが楽しくて仕方がないと言う浜田のところでは笑ってしまった。本当にヘンなやつだ。

「本の雑誌」の社員募集に3回も応募してきたので、3回目にとうとう根負けして採用となったのだが、こういう熱烈型は長続きしないことが多い。仕事の大半は雑事で面白くないし、イヤなことだってある。時には会社に行きたくない朝だってある。

 ところがこの浜田、夕方仕事が終わったときに、あ〜あ今日も楽しかったあと思うんである。月曜は会社に行くのが楽しくて仕方がないと言うんである。私生活が淋しいから、会社が楽しいのではないかと思う方がいるかもしれないが、プライバシーを尊重してここに詳しくは書かないが、私生活も充実しているのである。つまり、すべてが前向きなのだ。
 
 たとえば、『笹塚日記 ご隠居篇』に入っている2006年3月7日の日記。本を大量に処分した私が1階に降りていくと

 浜田「あんなに本を捨てちゃっていいんですか」
 目黒「オレは思い出だけあればもういいんだ」
 浜田「あたし、思い出もありません」
 目黒「君の場合はこれから思い出を作るんだよ」
 浜田「いやだあ目黒さん、あたしを口説いているんですかあ」

 ね、面白いやつでしょ。
 何の話かというと、この「笹塚日記」を終了して、代わりに書き始めたのが、WEB本の雑誌の「目黒考二の何もない日々」なのである。だからその第1回は、2007年の2月22日から始まっている。「笹塚日記」終了直後だ。これもご近所エッセイで、その点では「笹塚日記」と同様だが、町田に引っ込んだあとの日記であるから、もう杉江もいなければ浜田もいない。本を読んで原稿を書いている分には同じだが、書くことがそんなにないのである。私はもともと業界のパーティに出ることが滅多になく、しかも趣味が極端に少ないので(友人も少ないが)、日常に変化がない。

 それでも最初のうちはいろいろと書いていたが、年々すくなくなって、最近では月に一度書くかどうか。ツイッターをみると、みなさん、毎日よく書くことがあるよなあと驚いてしまう。それでも、そんな日記でも年数がたてば溜まるもので、古希になったのを記念してそれをまとめることにした。年下の知人たちが古希の会をやってくれるというので、私家版を作ってみなさんにお土産として持って帰ってもらおうと考えたのである。

 どうせなら余分に作っちゃえと、古希の会にきていただく人数分以上作ったので、それをただいま販売しています。本の雑誌WEBストア(サイン入り)を始め、ジュンク堂書店池袋本店、丸善丸の内本店で買うことが出来ます。ただし、売り切れたらごめんなさい。新書版292ページ2段組、1500円(税別)です。


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