12月14日(金)大森望VS日下三蔵「時間」対決の勝者はどっちだ?
大森望編『revisions 時間SFアンソロジー』(ハヤカワ文庫)と、日下三蔵編『SFショートストーリー傑作セレクション 時間篇 人の心はタイムマシン/時の渦』(汐文社)が、ほぼ同時期に発売になった。どちらも「時間をテーマにしたSFアンソロジー」である。その収録作品は以下の通り。
〔大森望選〕
「退屈の檻」リチャード・R・スミス
「ノックス・マシン」法月綸太郎
「ノー・パラドクス」藤井太洋
「時空争奪」小林泰三
「ヴィンテージ・シーズン」C・L・ムーア
「五色の舟」津原泰水
〔日下三蔵選〕
「御先祖様万歳」小松左京
「時越半四郎」筒井康隆
「人の心はタイムマシン」平井和正
「タイムマシンはつきるとも」広瀬正
「美亜に贈る真珠」梶尾真治
「時の渦」星新一
作品は一つもだぶっていない。違いは、「日下三蔵編」が「小学校高学年から大学生くらいまでの若い読者」を意識して作られたこと。実際にこちらは、新刊書店の児童書のコーナーに置かれていた。だから、字も大きく、しかもルビつき。あとは、大森編は新しい作品が多い、ということも違いとしてはあるかも。
そういうふうに本としての違いはあるが、「日下三蔵編」の作品を見れば一目瞭然だが、これらの収録作品は児童向けに書かれた作品ではない。時をテーマにしたSF、ということでは大森本と同じであり、そういう中から傑作を選び抜くという点ではやはり同じ趣向の二冊といっていい。
だから、これらの本を見た瞬間、よおし、それではどっちがアンソロジー本として優れているか、私が勝手に判定してやろうと思った。ようするに、私が面白いと思った作品が多いほうが勝ち。勝手にシロクロつけるぞ、と張り切ったのである。
しかし途中ですぐに気がついた。こういうふうに考えること自体が、大森と日下の術中に嵌まっていると。
この二冊を編むにあたって、この二人が相談しあったわけではないだろうが、無言の連携プレイのような気がするのだ。つまり、日下三蔵編で、まだSFを読んだことのない年少読者を掴まえる。その網からこぼれた大人を、今度は大森望編で引きずり込む──そういう連携プレイではないのか。この二人はそうしてSFマーケットに読者を巧みに誘導しているのだ。どんどん読者を増やしているのだ。これが最初ではあるまい。そういう深慮遠謀を、この二人ならこれまでも考えていたに違いない。私が知らないだけで、これまでにもこういう連携プレイがあったのではないか。
だから、この二冊を見て、勝者はどっちだ、という企画を考えること自体、彼らの術中に嵌まっているのだと、気がついた。
勝者など、どっちでもいいのだ。大森望編は読んだことのない作品ばかりで、「ノックス・マシン」の続編を収録しているという角川文庫版を急いで買いに走ったし、日下三蔵編はさすがに全部読んでいたが、忘れているものが多いので、こちらも面白かった。
そうか、面白ければいいか。