第79回

 7月号の進行中、「噂の真相」の川端さんから電話があった。

「パーティ取材、お願いできるかな?」

 スケジュール的に問題なかったのでOKし、ついでに4ヶ月以上机の肥やしになっている小川範子のロリータ・ヌード写真集の件を切り出した。

「川端さん、小川範子って知ってます? 去年の11月デビューした新人なんですけど」

「いやー、わからないな。そのコがどうしたの」

「そのコ、子役もやってて業界長いんですけど、6歳の時にロリータ・ヌード写真集に出てるんです。現物もありますよ」

「本当!? じゃ、取材の時に持ってきてよ」

「分かりました。それとは別件のネタもあるんで、それもその時に」

 元々は、自分の雑誌のためと思って探した写真集だったが、使ってもらえないとなれば、眠らしてしまうのは惜しい。また、最初は小川範子のスキャンダルとしてのネタだったが、よくよく考えてみると、所属していた劇団による斡旋の可能性も拭いきれない。幼児のヌードには親の承諾が必要なのだが、一般の人間が、ロリータ写真家との接点を持つというのはまずありえないといってよいだろう。誰かが仲介したのは間違いない。しかも、撮影時期は劇団に所属する前後。最初は、そんなことをする児童劇団があるとは思ってもみなかったが、そうでもない限りこの結果は生まれそうにない。

 自分でウラを取ることができれば、そうしたかったのだが、その頃のオレにはまだそうしたノウハウが身についていなかった。そこで、「噂の真相」に出すことで、週刊誌などが動き、オレの推理を裏付けてくれるのではないかと思ったのだ。

 

「早速見せてよ」

 パーティが行われたホテルのロビーで川端さんが促す。

「これなんですけどね。ちょっとこの場所じゃ、おおっぴらには開けないんですけど」

 写真集をカバンの中に入れたまま、問題のページを開いて見せた。

「このコ、有名なの?」

「まだ新人なんで、それほどではないですけど、マニアの間では評価が高いですね」

「ふ~ん」

 川端さんは、評価に戸惑っているようだった。

「とりあえず、預かっとくね。たぶん、使うと思うけど、プロフィールとか分からないんで、文章の方も頼むよ。それと別件のネタって?」

「実は、テレフォンカードのことなんですけど...」

 オレは、Fくんから聞いていたテレカ業界、ブローカー、雑誌のテレカプレゼントの裏側のことを簡単に話した。もちろん、オレが関わっている部分は伏せて。

「それ、面白そうじゃない」

「まだ、いろいろ調べないとならないんで、すぐには書けませんけど、書かせてもらえるなら、8月号に間に合うように取材しておきますよ」

 こうして、ネタは2つとも採用になった。

 

 8月号の入稿が終わった頃、「噂の真相」7月号が発売された。

 小川範子のネタは、巻頭1色グラビアの「Photo Scandal」の3番目に掲載されていた。

(これで、週刊誌がどう動くかだ)

 発売から2、3日して川端さんからうれしい悲鳴の電話があった。

「あのコ、そんなに人気があったの!? 事務所の電話が鳴りっぱなしだよ」

 後日、編集長の岡留さんがインタビューでこの件について中森さんに突っ込まれて、答えに窮していたが、編集部にしてもこれほどの反響があるとは思っていなかったのだろう(オレ自身も意外だった)。

 ところが、発売から一週間後、事態は思わぬ方向に進む。こんな見出しが朝刊に載っていた。

『過剰反応 幼児期の裸が雑誌に掲載 清純イメージに反する?! 防犯ポスター4万枚破棄』

 全国防犯協会連合会が7月1日から始まる全国青少年非行防止月間を盛り上げるため、小川範子を起用した非行防止ポスターを破棄していたことを伝える記事だった。

 この報道をきっかけに芸能週刊誌や女性週刊誌に追っかけ記事が掲載されるのだが、児童劇団とロリータ写真家の接点まで突き詰めたものではなく、小川範子への同情的な記事ばかりだった。

(問題の本質が違うだろーが!!)

 4万枚のポスター回収は、大事件なのかもしれないが、まったく本末転倒だ。日本のジャーナリズムもこんなもんかとあきれかけていると、「週刊文春」の追っかけ記事が出た。

『ロリコンヌードが出て回収された小川範子チャンの防犯ポスター』

 タイトルだけみると他の同情記事と変わらないものだったが、小川範子がロリータ・ヌード写真集に出た経緯もきちんと取材されていた。

(さすがは日本一の週刊誌!!)

 しかし、当時、悪質な社員のマネージャーがいて斡旋していたのだが、とっくの昔にクビになっているというもので、劇団の責任にまで言及するような内容ではなかった(ニュースソースが劇団社員なのだから仕方ないかもしれない)。一応、撮影したカメラマンの「これは正式に事務所を通した仕事」というコメントを掲載してはいたので、児童劇団がロリータ写真家にモデルを斡旋していた問題に関しては触れてはいたものの、消化不良は否めなかった。満足こそできないが、とりあえず、推理のウラが取れたのは収穫だった。