第10回 アイドルオタクの老後――「死んだら戒名つけてほしい」と、Zom氏(ハロヲタ、63歳)は言った。

 説明編が続いたので、今回は番外編。アイドルオタクの老後について考える。

 ハロヲタ(ハロー!プロジェクトオタク)の大先輩に、大阪在住の編集者O氏がいる。これまでTwitterなどでは、名字のイニシャルを使ってO氏と書いてきたけれど、なんだか他人行儀な感じがするので、ここではSFファン仲間での通称を採用して、〝Zom氏〟と呼ぶことにしたい。
 当欄でもちらっと書いた、2000年の武道館モーニング娘。コンサートに僕を誘ってくれた先輩編集者というのがこのZom氏です。

 Zom氏は、当年とって、63歳。草創期からモーニング娘。にハマり、推し箱(グループ)、推しメン(メンバー)を変えながらもハロヲタ道を突き進む。いまも関西を中心に年間80本前後の現場をこなし、推しメンのバースデーイベントや卒業イベントがあれば深夜バスで上京してくる古強者。
「さすがにハロヲタの中でも最年長ですかね?」と訊ねると、
「いやいや、もっと上がいてると思うけどなあ。でもこないだ、ぜったい年上やと思うたヲタに年齢きいたら、56や言うてたしなあ......」と笑う。

 去る3月1日、Berryz工房祭り2日目が終わったあと、そのZom氏と有明コロシアム前で落ち合って、東京駅構内のベジタリアン担々麺レストラン(時間が遅くてそこしか開いてなかったのです)で遅い夕食をとりながら、ひさしぶりにいろいろ話を聞いた。
 Zom氏は、武道館のBerryz工房ラストコンサートまで東京に3泊する予定だったのが、仕事で急な用事が入っていったん大阪に戻ることになり、八重洲口を23時10分に出る深夜バスに乗るのだという。

 Zom氏と知り合ったのは学生時代なのでもう35年くらい前ですが、印象はその頃からほとんど変わらない。
 SFオタクでマンガオタクでミリタリーオタクだったZom氏がとつぜんアイドルにハマったと風の頼りに聞いたのは25年ほど前。対象は、EPICソニーが集めた7人組のグループアイドル、東京パフォーマンスドール(TPD)。篠原涼子や穴井夕子がいたグループです(2013年になって、オーディションで集められた新メンバーで復活し、第2期の東京パフォーマンスドールとして活動中)。
 その頃は、とにかく給料をぜんぶ注ぎ込んでTPDのライブに行きまくってるという話だったんですが、TPDは1996年に活動を停止して自然消滅。そのあと、1998年夏にハマったのがモーニング娘。だった。

----なにがきっかけやったんですか?

「もともと、やっし(関西のSF仲間)が先にハマってたんやけど、イベントのチケットが余ったから譲るって言われて、『モーニング刑事。』の(ライブつき上映)イベントに行ったのが最初。一応、予習しとこかと思って曲聴いたら、なかなかええやんとなって。(3枚目シングル)「抱いてHOLD ON ME!」が出る直前やね。まだ福田明日香もいてて、イベントの最後に握手できた」

 この日からモーニング娘。にハマったZom氏は、これまでに歴代メンバー(現役含む)38人全員と握手しているという。モーニング娘。を振り出しに、ハロー!プロジェクトの歴代全グループを渡り歩き、すでに17年。

「こないだ行ったハロのイベントでは、受付に稲葉がいたから『おお、ひさしぶり』って挨拶したら、向こうがびっくりしてたな。あの子が19の時から見てるからなあ

 稲葉とは、元ハロプロの「太陽とシスコムーン」(T&Cボンバーと改名) に在籍していた稲葉貴子(いなば・あつこ)のこと。現在、41歳。ハロプロ入りする前は、19歳だった1993年から1997年の解散まで、大阪パフォーマンスドール(OPD)のメンバーだった。1999年、太陽とシスコムーンに加入。2000年のグループ解散後もハロー!プロジェクトに残り、活動を続けるが、2009年に卒業し、芸能活動から引退、裏方にまわって、アップフロントの関連会社のスタッフとなる。僕もファンクラブ・イベントで稲葉さんにチケット切ってもらったことがありますが、昨年からは、業務のかたわら、OPD時代の同僚・古谷文乃とユニット「Pirit color(ピリットカラー)」を組んで音楽活動を再開しているらしい。

----10年20年の単位でずっと見てると、そういうことがあるんですね。

「まあ、長いこと追いかけてると、いろいろ面白いこともあんねん。あかんことも多いけどな(笑)」

----ベリメン(Berryz工房のメンバー)も、キャプ(テンの清水佐紀)と(徳永)千奈美は事務所に残って、スタッフ的な立場になるみたいですね。ええと、ハロー!プロジェクト・アドバイザーだっけ。(Zom氏の推しメンの夏焼)雅ちゃんはファッション業界とかに行くかもしれないけど。

「そうなったら、どこまで追いかけられるかやな」

----え? たとえば、雅がモデルになったら、ファッションショーを観にいくとかですか?

「そういうこともあるかもしれんな」

----そうかあ。東京ガールズコレクションとか、チケットとれるんですかね。

「まあ、そうなったらそうなったときに考えるけどな」

 頭の中では今から検討しているらしい。さすがすぎる......。

 そんなZom氏なので、当然、Berryz工房以外にも、ハロプロの現役全グループをちゃんとチェックして、関西で公演があればマメに足を運んでいるわけですが、いまのイチ押しはJuice=Juiceの高木紗友希。ファーストライブツアーは三重、和歌山、滋賀の全公演に入るとか。もちろん握手会も参加。

----たとえば、(握手券が付属する)シングルCDは毎回何枚ぐらい買うんですか?

「40枚かな。その前は30枚にしたんやけど、やっぱり30枚やとちょっと足りひんねん。あとからだいぶ買い足した」

----(CDに同梱される個別握手券は、握手できる相手がランダムなので)当然、交換もするわけでしょ?

「もちろん。わりあい集めやすいよ」

----(握手券を)どばっと束で出して、紗友希と何分もしゃべるわけですか?

「いや、Juiceの個別(握手会)は(握手券の)まとめ出しがないねん」

----じゃあ、ひたすらループ(くりかえし握手列に並ぶこと)ですか?

「そやな。最後のほうは、まわりが見たことあるやつばっかりになったりして(笑)。(モーニング)娘。とかと比べたら、並ぶ人数も少ないし」

 この2日後、Berryz工房ラストコンサートが開かれた武道館でも、ライブ前にJuice=Juiceの握手会(新譜を予約すると握手券がもらえる)があり、あとで聞いたら、Zom氏も当然ちゃんと並んでたそうです。いわく、
「紗友希のメンバーカラーが黄色やから、いつもはこの眼鏡の(と自分の眼鏡を指さし)、ツルが黄色いやつかけていくんやけどな、今日はベリのラストやから、(夏焼雅のメンバー色の)紫にしたんや。そしたら、5人のうち4人から、『きょう、眼鏡が違う!』って指さされたで」と、認知されてることを楽しそうに自慢するZom氏だった。

----それだけJuice=Juice推しになってたら、Berryz工房が解散してもあんまり影響ないですね。

「そんなことないよ! 今でもベリの現場は、関西でやるときはぜんぶ行ってるし。ライブに握手会にリリイベ(リリース・イベント)に、けっこう回数あるで」

----じゃあ、かなり日程が空きますね。

「そう。ベリが抜けたあとをどうするかが問題やな」

----流れるグループはいっぱいあるやないですか。カントリー・ガールズもあるし、こぶしファクトリーとか......。あ、でもまあ、あんまり若い子に流れると、生きてるうちに卒業まで見届けられるかどうか......。

「ほんまやなあ。(カントリー・ガールズの最年少、13歳の)小関舞とか推したら、向こうが20歳になるとき、こっちは70歳やで。さすがに70はあかんやろ

----え? あきませんか?

 うーん、70はちょっとどうかと思うなあ。体力的に。

----年寄りが新しいペットを飼うかどうか悩むみたいな話ですね。『いまから飼いはじめても、この子より先に自分が死ぬかもしれない』......って。

「ほんまや。まあ、そういう死に方が理想やけどな。いつも顔を合わせてるヲタ仲間から、『そういえば、あいつ、最近あんまり姿見んけど、どうしたんかな?』『あ、知らんかった? 先月、死んだらしいで』って言われるみたいな」

----「そうか、ももちの卒業を待たずに逝ったか......」みたいな。

「で、死んだら戒名つけてほしいな

----推しメンに、ですか?

「いや、さすがにそれは無理やろうから、ファンクラブに。これからはハロも、〝揺りかごから墓場まで〟を考えるべきやと思うねん」

----ああ、子供が生まれたら名前つけてくれるとか。そういえば、今日も来てた某社のベリヲタ編集者は、娘に〝梨沙子〟って名前つけたそうですよ。

「そういうこと。墓場のほうやったら、あらかじめ推しメンの名前を登録しとくと、死んだとき、その推しメンの名前で弔電が届くとかな。それくらい簡単にできるやろ。

----葬式でちゃんと読んでもらえるかどうかが問題ですけどね。あと、遺影が推しメンとの2ショットチェキとか......小さすぎるか。

「それと、推しメンの名前から1文字とって、戒名をつけてくれる。ぼくの場合は、(夏焼雅の)〝雅〟やな」

----〝波浪院苺工房雅居士〟みたいな。相当とられそうですね(笑)。

「どうせカネ払うなら、最後までハロプロに払いたいやろ」

 こうして、老ハロヲタの夜は更けていくのだった......。