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2月16日(金)

  • 幸福書房の四十年 ピカピカの本屋でなくちゃ!
  • 『幸福書房の四十年 ピカピカの本屋でなくちゃ!』
    岩楯幸雄
    左右社
    1,375円(税込)
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 9時出社。10時に本のフェス実行委員会のAさん来社。イベント全体の説明をいただく。楽しそう。

 11時半、駆け足で池袋へ。元パルコブックセンター(リブロ)の矢部さんをインタビュー。第2回めの今日は本の注文の仕方について。

 その後、新宿の書店さんを覗いて会社に戻る。

 18時半、編集の高野とともに千駄木の往来堂さんへ。『本の雑誌』3月号にご登場願った往来堂の笈入さんと学芸大学恭文堂の田中さんと打ち上げ。

 次から次へと業界のルールは守りつつも、常識を打ち破る工夫やアイデアが飛び出し、有意義で愉快な時間を過ごす。

 帰路、代々木上原在住の助っ人アルバイト・鈴木先輩に先行発売で買い求めてもらった岩楯幸雄『幸福書房の四十年 ピカピカの本屋でなくちゃ!』(左右社)を読み出す。

「ただただ真面目に、40年間本を売り続けて私は生きてきました。それは、私が本を売るのが好きだからです」

 すべての言葉を、すべての文章を、書き写したくなるほど愛おしい。閉店準備の忙しい中、というか日常だって朝7時から夜11時までずっと店に立ち、本を売っている中、このような本を残していただけたことに深く深く感謝す。

 幸福書房さんに限らず、一度でも本屋さんで本を買ったことがある人にはぜひとも読んで欲しい1冊。本を買うということの"幸福"が、この本の中にぎっしりつまっている。

2月15日(木)

  • ルポ 川崎(かわさき)【通常版】
  • 『ルポ 川崎(かわさき)【通常版】』
    磯部 涼
    サイゾー
    1,760円(税込)
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 礒部涼『ルポ川崎』(サイゾー)読了。

 てっきり版元も版元だし、なんてたって川崎だし、最近流行りのスラム・ツーリズムの本かと思いつつ読み始めたところ、いやはやそんな覗き見趣味のノンフィクションでなく、これは街とそこで生きる人達の魂を描いたルポルタージュの傑作。今のところ2018年ノンフィクションナンバー1。

 そしてこれまで一度もヒップホップやラップに心が動いたことがなかったのだけれど、本書の中で街の語り部の中心として扱われている「BAD HOP」の2WINによる「PAIN AWAY」を聴いて魂震える。これは私小説なのではないか。AppleMusicでダウンロードし、繰り返し聞く。

『絶景本棚』の見本が届いたので、取次店さんを廻る。著者献本分以外まったく在庫がないので、完全指定でお願いする。地方小出版流通センターさんにも在庫できず、頭を下げる。

 その足で中井の伊野尾書店さんに「本の雑誌」3月号追加注文分を直納。店長の伊野尾さんから「『本の雑誌』と『レコード・コレクターズ』は本当に優秀ですよ。毎号特集に左右されずちゃんと売れていきますから。今どきそんな雑誌ないですよ。あっ、雑誌じゃないのかもなあ。ファンブックなんですよね」と指摘される。

 営業、後、直帰して病院へ。私の前に診察を受けた3人は、みなインフルエンザ(Bふたり、Aひとり)。私は痛風。薬をもらって帰宅。

 夜、息子とさいたま市文化センターで開催される浦和レッズの「2018キックオフイベント」へ。社長のプレゼン、新入団選手のインタビュー、選手によるトークセッションと無料では申し訳ないほどの充実の内容。今年も一生懸命応援することを心に誓う。

 なるほど、ファンブックである「本の雑誌」もこういうことをすればいいのか。

2月14日(水)

『雪の鉄樹』『オブリヴィオン』の著者、遠田潤子さんがやってくる。「おすすめ文庫王国」や「本の雑誌」で1位に選んだことへのお礼のようだが、せっかくいらしていただいたのならこのチャンスは逃すべからずというわけで、三省堂書店さんにお連れし、図書カード3万円のお買い物企画に登場願う。

『絶景本棚』の新刊紹介のツイートが、まさかのバズり。リツイート数が7000を越え、いいねは1万を越えてしまった。知らぬ間にインスタ映えしていたようだ。

 それとリンクして、Amazonの予約も急上昇。なんと売れ行きランキングが驚きの30位台へ。あわてて取次店さんに連絡し、すでに届いていたネット書店分の注文をいったん破棄、再注文していただく。

 夜、初回搬入分の注文を〆ると、なんとなんと在庫が限りなく0に近づく。あわわわ。危なかった。あわてて著者献本分を棚にしまい、まさかまさかの発売前重版を決める。

 いったいどうしたことか。本棚の写真などというのは決して真新しい企画でなく、過去に似たような本が出ているのだけれど、もちろん小社なりの取材力はあったにしても、ここまでの反響が、しかも発売前に起こるなんて、考えもしなかった。

 一周回って新しいということなのか、かつてより本棚への憧れが強まっているのか、あるいはこのようなビジュアル情報ほどSNSで拡散されやすいということなのだろうか。

 それにしたって2500円ほどの本が、たった数ページの画像情報によって瞬く間に予約されていくというこの現象は、とても2018年的な現象である。

 非常に興味深い......なんて現場はのんきなことは言ってられず、在庫どうすんだ!?と頭痛める。

2月13日(火)

  • 忘れられたワルツ (河出文庫)
  • 『忘れられたワルツ (河出文庫)』
    秋子, 絲山
    河出書房新社
    759円(税込)
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    honto

 絲山秋子さんとランチ。雑談しているうちにエッセイのネタに膨らみ、その場で原稿依頼。この世に今必要なのは雑談だ。

 中央線を営業。阿佐ヶ谷で古本屋ツアー・イン・ジャパンこと小山力也さんとばったり。「杉江さん、中央線は火曜日みんな休みですよ。西荻窪の盛林堂さんくらいしか空いてないですよ」とアドバイスいただく。

 小山さんはいったい私が何をしていると思ったのだろうか。

2月11日(日)

 結婚して家を出るまで、常にともにいたと言える友から電話があったのは先々週のことだ。両親から引き継いだお店を閉めることにしたという。

 お店は小学校の前にあるので駄菓子屋も兼ねているような小さな酒屋だった。昼には子どもたちが、夕方には近所の人たちが、小さな店内でザリガニ釣りに使うよっちゃんイカやその晩旦那さんが飲むビールを買い求めていた。

 開業して42年。その間にコンビニが生まれ、ドラッグストアができ、ショッピングモールが誕生し、ネットストアがオープンした。

 専門学校で簿記資格1級をとった友はお店を継ぐと酒蔵をまわり珍しい酒を仕入れ、楽天と取引し、朝はアルバイトをして店を支えた。努力はたくさんしたけれど、人々が酒屋という存在を忘れるスピードはもっと早かった。

「自分で開いたお店なら閉めるのにこんなに苦しまなかった」と大きなため息をついて、友は電話をきった。

 今日、お店に顔を出した。

 何度この店に来ただろうか。初めて来たときは友ともまだ出会っておらず、駄菓子を買うとおじさんから「ハイ、お釣り50万円」と50円玉を渡された。友と出会ってからは、お店を覗いてそのまま2階にあがり、テレビゲームに明け暮れた。そして20代の始め頃、私が仕事を決まらずにふらふらしていたとき、アルバイトさせてもらいもした。

 友とじっくり語り合い、商品の少なくなった棚からサントリーウイスキーローヤルを買い求めた。「ハイ、お釣り、20万円」と笑って、友は二千円を私に返した。このウイスキーは、無事還暦を迎えたら友と封を開けて飲もうと思う。

「立ち止まっていたら今と同じ景色しか見えない」とは、今、読んでいる北方謙三の『水滸伝』(集英社文庫)から手帳に抜き書きした言葉だ。友にその言葉を送る。

2月10日(土)

 20数年ぶりに買い求めた浦和レッズのレプリカユニフォームが到着。胸には燦然と輝く大きな星がふたつ。日本初。ランニング15キロ。終日、DAZNにてプレミアリーグを観戦。王様のブランチでも紹介していた『1ミリの後悔もない、はずがない』一木けい(新潮社)読了。

 夜、娘の17回目の誕生日パティー。17歳? マジかよ。

2月9日(金)

 9時出社。通勤読書は、角幡唯介さんの新刊『極夜行』(文藝春秋)。

 出張で溜まっていたデスクワークを片付け、座談会収録。座談会の間、一言も発しない人がいたが、おそらくテープ起こしをしたら一人減っていることだろう。

 午後営業。
「本の雑誌」3月号で原稿を頂戴したひるねこBOOKSさんや往来堂さん、そして常磐線の書店さんを訪問。

 礒部涼『ルポ川崎』(サイゾー)、石川桂郎『俳人風狂列伝 』(中公文庫)、穂積和夫『絵で見る明治の東京(草思社文庫)、エルゴラッソ特別編集『Jリーグ選手名鑑2018』などを買い求める。

 直帰。「FIFA2018」で対決するという息子との約束も守れず、10時にまぶたが閉じられる。

2月8日(木)

  • 本日の栄町市場と、旅する小書店
  • 『本日の栄町市場と、旅する小書店』
    宮里綾羽
    ボーダーインク
    1,760円(税込)
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 昨日、二泊三日の沖縄出張から帰ってきたのだけれど、帰ってきてすぐまた沖縄に行きたくなっている。それは決してスケジュールがぎちぎちで、我が愛する浦和レッズのキャンプが見学できなかったからではない。私が今すぐ沖縄にトンボ返りしたいのは、宮里綾羽『本日の栄町市場と、旅する小書店』(ボーダーインク)を読んだからだ。

 那覇市の職員を退職後、飲み歩いていた市場に居場所を作るためお父さんが始めたのが「宮里小書店」であった。小書店と書いて「こしょてん」と読む。写真で見るかぎり、まさに小さな書店のようで、主に古本を扱っているようだ。

 その宮里小書店を始めて一年後、父親は新たな仕事に就くことなり、その頃、休職中で職場復帰するか悩んでいた娘さんである著者は店番することになった。

 初日、すぐ隣で店を構える金城さんに著者が大きな声で挨拶をする。「今日からよろしくお願いします。わからないことばかりですが、がんばります!」と。

 それはそうだろう。父親から引き継いだとはいえ知らない世界だ。失礼がないよう心がけ、諸先輩方に前向きな姿勢を見せるのは当然のことだ。

 ところがもう自分自身もはっきり覚えてない頃からベビー服や肌着を扱う金城さんは身を乗り出してこう言ったのだそうだ。

「が、ん、ば、る、な」

 金城さんだけでない。栄町市場とその周辺には非常に魅力的な人たちであふれている。須賀敦子の本を夢中になって読む須賀敦子と同じ年の女性。70歳を越えて海外からも入門者が絶たない空手の名人。キューバのカストロを尊敬している艶子おばさん。昼はバイクで配達に勤しむが夜は飲み屋でギターをポロロンと弾く商店のおじさん。お客さんが選んだものをおすすめできないときは別の商品をおすすめする八百屋さん。そして著者のお父さん、お母さんなどなど素敵な人がどんどん紹介されていく。

 著者も含めてそういった人たちが営む市場で交わされるのは、商品でもお金でもなく、"心"なのだ。この本を読んでいてつくづくわかったのだけれど、商売というはお金のやりとりでなく、心のやりとりなのだった。レジや店内で交わされる会話は、まるでマッチ棒をマッチ箱にこすりつけるような行いであり、それでついた心の灯火が、お客さんの心にあたたかな熱を運んでいく。

 今や我が家の近所のチェーン本屋さんは無人レジが導入され、店員さんとのやりとりはクレーム以外ほとんどない。ものが手に入る以外にそこで味わう感動は何もなくお金は動くものの心はまったく動かず、amazonでポチっとするほうが荷物が届く喜びがあるほどなのであった。

 栄町市場では無人レジなんて考えられない。なにせ店主が不在の際は隣近所のお店の人や家族が店番をしてくれるのだから。きっとそこでものを買うことは商品を手にする以上にもっともっと豊かなものを心に運んでくれるはずだ。

「ありがとう」も「また来てね」もなく、身体がぶつかれば舌打ちが返り、コミュニケーションはすべてスマホによる心の冷え切った世界で生きていくのに疲労を感じている私は、栄町市場の灯火を受け取りに今すぐにでも沖縄に行きたい。できることなら観光などと言わず、この関係性のなかに包まれて暮らしてみたい。人が人として生きていられる場所で私は生きたい。

『本日の栄町市場と、旅する小書店』は包容力のある涙のあふれるエッセイなのであった。

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