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3月19日(木)

「あんたが神様に見えたよ」

 父親が退院することになり、実家に母親を迎えに行くと母親から言われた。大げさだよと笑って返したが、車も運転できずバスもなくタクシーを呼んだこともほとんどない80歳の母親にとって、病院に行き入院の荷物と足元不安定の父親と帰ってくるのはよほど心配だったのだろう。

 ずいぶんと回復した父親はリバビリのおかげかすたすたと歩き、誰の力も借りず車に乗り込んだ。「助かったよ」と言ったので自分の命かと思ったがどうやら私が車で迎えにきたことのようだった。

 病院から二人を乗せて実家に着くと、母親は「はい、お駄賃」と言っていつの間に買い求めていたカルピスウォーターを差し出した。なにもお礼も求めて車を出したわけではないけれど、お駄賃がカルピスだなんで小学生のときと変わっていない。

 いやしかしあの頃はカルピスはペットボトルのカルピスウォーターでなく、カルピスの原液を水で薄めるやつだった。近所の酒屋やたばこ屋にお使いを頼まれ走って帰ってきたとかときだけは、カルピスを少し濃くしてくれたものだ。

 行きの車の中で母親は、入院の間、あれ持ってきてくれ、これを用意してくれとわがまま放題だった父親の悪口ばかり言っていたが、ちょっと痩せた父親を乗せて帰るときには「お父さん、昨日布団干しといたからね」と目を細めていた。

 耳の悪い父親はどうやらよく聞こえていない様子で、道端に咲く木蓮を見上げ、「わあ、きれいだなあ」と声を上げていた。

3月18日(水)

  • 父・山口瞳自身: 息子が語る家族ヒストリー (P+D BOOKS)
  • 『父・山口瞳自身: 息子が語る家族ヒストリー (P+D BOOKS)』
    正介, 山口
    小学館
    715円(税込)
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 電子版『山口瞳電子全集』の各巻に掲載されいた回想録を大幅に加筆・修正した山口正介『父・山口瞳自身 息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS)読了。

 これまで山口瞳の息子である山口正介氏が書いた家族にまつわる作品は、どれも読み終えたあとにそんなものが読みたいわけじゃないんだよとフラストレーションが溜まっていたのだが、ここまで深く作品を読解し、そしてその作品で描かれなかった裏側の事実を補い,しかも自分の人生をかなり赤裸々に綴られており、もはやこの回想録自体が私小説のように思えてくる。550ページ近くを一気の読み進めてしまった。強烈。

 午前中、企画会議。

 午後、フェアの準備。

 明日は会社の入っているビルが給水設備工事で終日断水のため、テレワークとなるらしい。

3月17日(火)

 野村克也『野村ノート』(小学館文庫)読了。

 なるほど、こうして人を使うのか! こうやって人を育てるのか!と熱心に付箋を貼りながら読んでいたのだが、よく考えてみれば私には使う人も育てる相手もいなかった。

 編集の高野が私の好き勝手にいろんな原稿を集めて本にしたいです!と言ってできあがった『手のひら1』をもって取次店さんに見本出し。さすがに3月下旬搬入だけに専門書の受付は行列ができていた。仕入れ窓口で青土社のエノ氏と会う。4月中旬に「ユリイカ」の臨時増刊号で坪内祐三さんを出すという。

 午後、日本図書普及さんにお邪魔して、本の雑誌の人気連載「図書カード3万円お買い物」の打ち合わせ。この世でもらってうれしいものの筆頭はどんなときでも図書カードであり、私も一度でいいから3万円分をもって本屋さんに放たれてみたいものだ。

 会社に戻ってからは引き続き、追加注文殺到中の「本の雑誌」4月号を直納。吉祥寺のブックス・ルーエさんを訪れると、御書印が大人気だという。これは日本各地の参加書店さんを回って御書印帳にそれぞれお店独自のデザインのスタンプとコメントをもらうもので、本屋さんめぐりを楽しめる素晴らしいアイデア。番線印以上に欲しい。

3月16日(月)

  • 本の雑誌442号2020年4月号
  • 『本の雑誌442号2020年4月号』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
    1,100円(税込)
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 坪内祐三さんの追悼号である「本の雑誌」4月号の追加注文がどかどかと届く。強風に吹き飛ばされそうになりながらも、終日、アルバイトの助っ人学生と手分けして直納に勤しむ。

3月14日(土)

 父親が入院したりと気持ち落ち着かず、なかなか読み始められなかった絲山秋子さんの『御社のチャラ男』(講談社)を満を持して読みだすも、あまりに面白すぎて読み進むのがもったいなくなる。しかししかしこんなすごい小説を読まないわけにはいかないと身悶えながら読了。

 ユーモラスな比喩に笑っていると世の中の確信をつく文章に出会い、たくさん出てくる登場人物はしっかり書き分けられ、会話文もそこで話されているかのように生き生きとし、時代の空気や流れも完璧に捉え表現されている。"Top of 小説"だ、これは。

3月13日(金)

  • つげ義春日記 (講談社文芸文庫)
  • 『つげ義春日記 (講談社文芸文庫)』
    つげ 義春
    講談社
    1,430円(税込)
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  • 父・山口瞳自身: 息子が語る家族ヒストリー (P+D BOOKS)
  • 『父・山口瞳自身: 息子が語る家族ヒストリー (P+D BOOKS)』
    正介, 山口
    小学館
    715円(税込)
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  • 絶滅野生動物事典 (角川ソフィア文庫)
  • 『絶滅野生動物事典 (角川ソフィア文庫)』
    今泉 忠明
    KADOKAWA
    1,496円(税込)
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 息子、中学校の卒業式。しかしコロナウイルスの影響で生徒と教師のみの実施となり、親の列席は不可とのこと。

 午後、「AERA」による矢部潤子さんのインタビュー立ち会い。

 夜、古本屋さん、東京堂書店さん、三省堂書店さん、丸善さんとハシゴして、本を買い求む。

 噂には聞いていたが、都心の本屋さんは金曜日の夜の売上がすごいらしく、丸善さんのレジも大行列。コロナウイルスの影響で、月曜から木曜まではどこにも立ち寄らずに家に帰り土日も出かけられないため、金曜日の夜に本屋さんに寄って、本をまとめ買いされているのだ。そして都心を一歩出た本屋さんでは、金曜夜だけでなく、連日学参を中心に本が売れているという。

つげ義春『つげ義春日記』(講談社文芸文庫)
山口正介『父・山口瞳自身』(P+D BOOKS)
小野寺史宜『今日も町の隅で』(KADOKAWA)
今泉忠明『絶滅野生動物事典』(角川ソフィア文庫)
野村克也『野村ノート』(小学館文庫)
安田剛士『DAYS』4巻、5巻 (講談社コミックス)
ブライアン・プラストン『最後の大アマゾン』(集英社)【古書】
高橋義孝『わたしの東京地図』(文藝春秋新社)【古書】

を購入。

3月12日(木)

  • Number(ナンバー)999「追悼特集 名将・野村克也が遺したもの」 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
  • 『Number(ナンバー)999「追悼特集 名将・野村克也が遺したもの」 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))』
    文藝春秋
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 東京堂書店さんから追加注文いただき「本の雑誌」4月号を直納。発売初日だけで30冊以上売れたらしい。坪内さんに報告したいことがたくさんある。

 昨日の訪問時にトイレットペーパーが買えないとこぼしていたので、BOOKS青いカバさんに自宅近くで買い求めたトイレットペーパーをお届けにあがる。埼玉はティッシュペーパーもトイレットペーパーもずいぶんと出回りだしたが、東京はまだ手に入りにくいようだ。

 コロナウイルスの騒動以来、営業に伺っていいのかよくないのか、出版社によっては自粛しているところもあれば、訪問した書店さんでこんなときに来るのかと叱られた営業マンの話を聞いたり、あるいは営業のメールがすごく増えているという話もあったり、いったいどれが正解なのかかわからないまま日々戸惑いながら営業している。

 オークスブックセンター南柏店さんにて野村克也追悼号の「NUMBER」999号を買う。涙涙でくれつつ読むが、森祇晶のページに掲載されている日本シリーズの監督会議時の写真の力にしびれる。さすがスポーツグラフィック誌。

3月11日(水)

 晴れ。暑いくらい。目黒さん家に向かい、「北上ラジオ」収録。今回は2本録り。その後、雑談。

 その雑談もめっぽう面白いのだけれど、受け手として自分が身分不相応というか力不足を感じずにはいられない。もっと他の人なら話が弾むか、あるいはより吸収できて役立つのではないか。それは坪内祐三さんとのお付き合いでもずっと感じていたこと。もっと勉強しなれければ。

 一旦会社に戻った後、駒込のBOOKS青いカバさんに「本の雑誌」4月号納品に向かう。

 夜、母親に電話すると、父親の入院している病院もコロナウイルス対策で面会が禁止されたそう。

3月10日(火)

  • 本の雑誌442号2020年4月号
  • 『本の雑誌442号2020年4月号』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
    1,100円(税込)
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    honto

 雨。朝9時集合で、西荻窪・今野書店さんの教科書販売お手伝い2日目。学生アルバイト6人とともに中高一貫校へ、2トンロングのトラックいっぱいに積んだ教科書を運びいれる。先日お手伝いした都立高校の搬入に比べると半分以下の量で、昼前にはすべて搬入完了。笠置そばで昼食の後、夕方までセット組み。

 夜、会社に行くと「本の雑誌」史上最大の厚みの4月号が無事できあがっている。この短期間にこれだけの分量の、そしてこれだけの愛情つまった雑誌を作れた編集部を誇りに思う。

3月9日(月)

 気温あがり、すっかり春の陽気。息子の県立高校の合格発表。会社を休めない妻に代わって、娘に連絡係として付き添ってもらう。9時少し過ぎて電話。「あったよ」と息子の声に一瞬戸惑い、喜ぶタイミングを見失ってしまう。自分の受験番号があったということなのだろうが、「受かったよ」と言ってほしかった。ふと高野秀行さんが『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞を獲ったときにかけてきた電話を思い出す。「聞いた?」と言われ、かなり戸惑ったのだった。

 なにはともあれ合格の報にほっとする。そして息子が夢に向かって突き進めるのがうれしい。

 息子と娘が帰ってきたので、すぐに書類を受け取り、娘に記入事項を埋めてもらい、銀行に向かう。県立高校の振り込み手続きをしている人と私立高校の入学金を払い込む人で銀行はかなりの混雑。

 入院している父親に報告した後、息子と約束していた合格祝いとしてNintendo Switchやサッカーのスパイクを買いに行く。

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