サッカー本ベストイレブンを作ろう!
文=本の雑誌特派員
赤青緑のサッカーばか三人組がついに立ち上がった。サッカー本のオールタイムベストイレブンを選出して世界にいざ、挑戦!さあ、「絶対負けられない戦いがここにある」のだ!
(『本の雑誌』2008年8月号より)
赤 ついにやってきました。絶対に負けられない戦いがここにある(笑)。
青 戦いだったのか(笑)。
赤 サッカー本のベストイレブンを決めるんですよ。これが戦いでなくて、何なんですか。
緑 世界初!ですからね。しかし、まさか同好の士がいたとは。
青 いや、結構いると思いますよ、サッカー本ファンは。
緑 外国文学ファンと同じくらいはいるんじゃないですか(笑)。
赤 問題は「本の雑誌」の読者にいるかどうか(笑)。とりあえず、それぞれがサッカー本ベスト10を持ってきたので、一冊ずつ語っていきましょう。
緑 十冊を選ぶのが大変だった。
青 ほんとに。だから僕が持ってきた十冊はすでに代表選手といっていい(笑)。
赤 しかしそれぞれのベストはほとんどダブりがないですね。あっ、木村元彦は三人とも持ってきてる。
緑 でもみんな推薦本が違う!
青 僕は『悪者見参』ですね。
赤 『誇り』。
緑 『オシムの言葉』。
青 "ユーゴ三部作"が揃っちゃった。
緑 青さんは、どうして『悪者見参』を選んだんですか。
青 もちろん『誇り』も『オシムの言葉』も大好きなんですけど、よりユーゴスラビアの人種間、政治情勢の問題とかいろんなものに踏みこんでるのが『悪者見参』かなと。
緑 『オシムの言葉』は学校の課題図書にもなったらしいよ。
青 漫画にもなるとか。
赤 僕は『誇り』が好きなんですよ。ユーゴ代表が国連制裁でユーロから試合をせずに戻される。その失意のどん底にいる選手が国の空港に着いたら......。
青 大勢の国民が待ってるんだよね。
赤 そう。ユーゴのコールをするんですよ。ああ、しゃべりながら泣きそうだ。
緑 僕は千葉の高校のサッカーを見に行って、オシムに会ったことがあるんです。こんなところまで見ているのか?って驚いちゃって。しかも握手してくれたんですよ。本当に尊敬できる人だと思いました。
青 木村元彦は今のサッカー本を語る上で、絶対外せない存在ですね。
赤 ですよね。で、木村さんが出てくる以前は、緑さんが持ってきた『日本サッカー史 代表篇 日本代表の85年』の後藤健生が、政治や社会をふまえてサッカーを書いていた。
緑 そうそう。それで、この本が後藤さんの集大成だと思って持ってきたんです。
青 名著っていうか、誰かがこういうことをしなきゃいけなかった。特別なドラマがあるわけじゃないんだけどね。ひたすら日本代表の歴史を描いている。
緑 歴史の教科書みたいな感じですよね。後藤さんは本当にサッカーを愛してる。相変わらず年間百数十試合は観てるみたいだし。実際、大学リーグの試合とか、客が百人くらいなのに、後藤さんはいる。東京駒沢第二球技場のあの狭いスタンドで、隣に後藤さんがいたことあります。
赤 そこに行ってる緑さんも恐い(笑)。
緑 ははは。
赤 サッカーの書き手でいうと、後藤さんがコツコツやっていたところに、金子達仁がどーんと出たって感じかな。『28年目のハーフタイム』は日本サッカー本の歴史を変えた一冊でしょう。初めてサッカー本がベストセラーになった。
青 エポックメーキングだよね。
赤 野球でいう「江夏の21球」(山際淳司)ですよ。「ナンバー」の連載時に読んでびっくりして、単行本になってまたびっくり。もうページをめくる手がとまらない。
青 ロッカールームの会話が再現されたのは、『28年目のハーフタイム』が初めてだったんじゃないかな。
緑 それまでは選手に食いこんで取材して文章にするっていうのはほとんどなかった。
赤 なかったですね。金子達仁は今は文化人みたいになっちゃって大嫌いなんですけど、『28年目のハーフタイム』や『秋天の陽炎』(文春文庫)は、やっぱり認めないといけない。
緑 僕も戸塚啓・中西哲生との共著で、川崎フロンターレのJ1昇格を追った『魂の叫び J2聖戦記』(幻冬舎文庫)を持ってこようと思ったんですけど。
青 金子達仁はサッカー本をメジャーに持っていきましたよね。
緑 その功績はある。
赤 ドラマ性の強い金子達仁に対して、フラットな取材をしっかりしたのが増島みどりで、『6月の軌跡』(文春文庫)は、カズ、三浦和良が最後に外されたフランスW杯に行った選手だけでなく、コックさんや栄養士さんなどチームに関わった人、すべてにインタビューした労作。
緑 いい本ですよね。
赤 名著ですよ。僕は仕事がつらいとこれを読みなおしちゃう。
青 その『6月の軌跡』で、唯一インタビューできなかったカズの本を僕は持ってきました。ちょっとベタだけど、『たったひとりのワールドカップ』。この本は発売のタイミングもすごかったんですよ。ワールドカップが終わってすぐだもん。幻冬舎の見城さんってやっぱりすげーなと思いました。
緑 そうでしたね。
青 もしカズが代表メンバーに選ばれていたら、その後のことも含めて書かれる予定だったんでしょうけど、さあ外された、となったときに、方向転換して一気に作ったんでしょう。いきなり文庫で出たし。
緑 奥付が九八年の八月二十五日だから、書店に並んだのはおそらくその四、五日前。フランス大会が終わってすぐですよ。
赤 一志さんには、ドーハの悲劇のときの都並敏史を描いた『狂気の左サイドバック』という名著もある。年代的にいうと、『28年目のハーフタイム』の前に、読みものとして最初に出たサッカー本が『狂気の左サイドバック』かも。
青 選手の裏側というか、合宿所の風景が見えるような、いい本ですよね。試合に出ていない都並と中山が、負けた試合の後にカラオケマイクを持って合宿所の雰囲気を変えようと回るシーンなんか、もう号泣。
赤 順番でいくと、九四年アメリカW杯に向けた話の『狂気の左サイドバック』があって。
青 九八年フランスW杯の際に『たったひとりのワールドカップ』や『6月の軌跡』がある。
緑 その間のアトランタ五輪が『28年目のハーフタイム』ですね。
赤 次の二〇〇二年日韓W杯のときは......。
青 『山本昌邦備忘録』(笑)。
赤 当時は、サッカー本バブルだったんですけど、『山本昌邦備忘録』が一番面白かった。
緑 トルシエ監督の下で山本昌邦はコーチだったんだけど、彼の立場はサラリーマンでいうと中間管理職。選手と監督の間で右往左往して、ぶつぶつ文句を言ってるんですよね。これが面白くて。
赤 このときに、まったく同じように岩井俊二がテレビカメラを入れてるんですよね。
緑 「六月の勝利の歌を忘れない」。
赤 そこには山本昌邦が書いている、やばいことは一切映っていない。
青 カットされてるんだよね(笑)。ただ両方見るとよくわかる。だからこそ、カットされてるんだなって(笑)。松田直樹と山本がしゃべりながら入ってくるシーンとかね。
赤 そうそう。泣ける本というよりは笑える本ですよね。ただ、この後に出した自分が監督になったアテネ五輪のときの『山本昌邦指南録』(講談社)はつまらなかった。
青 監督には向いていないんですよ(笑)。実際、ジュビロでも失敗しましたからね。
赤 そうやって大きな大会の順番で考えていくと、今日は誰も持ってきてないですけど、このあいだのドイツW杯のサッカー本では『敗因と』(金子達仁・戸塚啓/光文社)が、一番のヒットだったと思うんですが、淋しい本でしたよね。
緑 金子達仁の暴露本的体質がどんどんエスカレートした結果ですよね。
赤 サッカーとサッカー本を愛する人間としては、淋しい本ですよ。夢のない本です。
緑 あれが真実じゃないと思うんですよ。でも売れたんだよねえ。
青 そう。どこの書店さんに行っても売れてますって言われたもん。むかつくよ(笑)。
赤 それじゃ、たぶんぜんぜん売れていないであろう本を推薦します! 『フチボウ』。サッカー本の最高傑作ですよ。サッカーの国として一番に挙げられるブラジルのサッカー を追ったルポルタージュで、帯に「サッカーにとりつかれた国ブラジル」ってあるんだけど、この本を読むと逆じゃないかと思っちゃう。ブラジルがサッカーにとりついているんですよ。
緑 著者は、イギリス人の記者なんですよね。イギリス人は、ほんとにこういうものを書くのがうまい。
赤 イギリス人といえば、僕のサポーター魂を最高にかき立ててくれる棺桶本『狂熱のシーズン』の著者、ティム・パークスもイギリス人。なぜかイタリアのサッカーにはまりこんでしまったイギリス人作家が、サポーター社会を描いた作品です。
緑 バスに乗ってアウェーに行くシーンから始まるんだけど、予約に行くときの緊張感がたまらない。で、実際、バスに乗ってみたらロクでもない奴らばっかり。薬をやっていたり、暴力沙汰を起こしたり、そういう連中といっしょに行くことを一瞬後悔する。
赤 でも最後の方では、記者席で観戦したことを猛烈に反省したり。ゴール裏サッカー文化を描いた傑作ですよ。サポーターつながりでいうと、もう一冊名著があって、『ハイ・フィデリティ』を書いたニック・ホーンビィの『ぼくのプレミア・ライフ』。ホーンビィもイギリス人ですけど、子どものときからアーセナルのファンなんですね。
緑 アーセナルって今はすごいチームだけど、この当時はつまらないサッカーをしている代名詞みたいな感じなんですよね。
青 ただニック・ホーンビィはゴール裏文化の人でなく、バックスタンドあたりで観ている人なんじゃないかと思うんだなあ。
緑 ビール片手に観戦しているような。
赤 でもサッカーの本質をついた皮肉な文章がたまらないんですよお。
緑 赤さんがサポーター本なら、ぼくは指導者本が好きで、元川悦子さんの『古沼貞雄 情熱─全国制覇9度帝京サッカーの真実』を持ってきました。帝京高校の監督だった古沼貞雄さんが試行錯誤しながらチームを育てていく話なんですけど、古沼さんは純粋にサッカーが好きで、サッカーにすべてを注いでいる感じがいいんですよ。
赤 これは読んでないな。
緑 いまだに偉大だと思うのは、もうすでに引退したような状態でも、いろんなチームに教えに行っているんですよ。大きい大会の前にね。それで古沼さんが行くと、本当に効果があるらしい。
青 木村元彦の『蹴る群れ』(講談社)にも古沼さんの話が出てきますよね。普段は喧嘩ばかりしている朝鮮高校と帝京の間で、古沼さんがサッカーの試合をちゃんとやろうと言う。本当のホームアンドアウェーがそこにあるって。
赤 あれはいい話だった(涙)。指導者といえば、緑さん、サガン鳥栖GM・松本育夫の本も持ってきてますね。
緑 『天命 我がサッカー人生に終わりなし』。好きなんですよ松本育夫。
青 『尽くしてみないか、全力を─サッカーがくれた熱血意識革命』も面白かったよね。
赤 あっ、緑さんのこの本、サイン本だ。すげえ。
緑 たまたまサガン鳥栖のサイトを見たら、サイン本を売るというので、申し込んだ。
赤 たまたま見ないって。サガン鳥栖のサイト(笑)。
緑 松本育夫はプレイヤーとしても指導者としても一流で、八三年の嬬恋ガス爆発事故で全身火傷を負って今でも手が不自由なのに、とにかくサッカーに対する情熱だけはすごい。とにかく熱い男ですよね。
青 熱さなら、僕が持ってきた『祖母力 オシムが心酔した男の行動哲学』も負けません。このあいだNHKでもドキュメンタリーされてましたけど。
赤 日本にオシム監督を呼んだ男ですね。
青 今は日本人として初めてフランスのチームのゼネラルマネージャーに就任して戦っている。
赤 祖母井、面白いですよね。オシムを招聘するときに毎日電話をかけるんだけど、わざわざ向こうの音楽を聴いて、気分を高めてからかける(笑)。
青 発想力とか行動力がすごい。逆転の発想というか。ある意味ビジネス書ですよ。こうならないとなかなか突破できないっていう。
赤 指導者といっても、川淵キャプテンの本は誰も持ってきてない(笑)。
緑 代わりといっては失礼ですが(笑)、『空っぽのスタジアムからの挑戦~日本サッカーをメジャーにした男たち~』を持ってきました。Jリーグを作るときの話で、その中心にいた木之本興三さんを描いたノンフィクションです。
赤 木之本さんはJリーグ創設の一番の功労者ですよね。
緑 そうです。人工透析をしながらやっていた。
赤 そのサブテキストが『「Jリーグ」のマネジメント 「百年構想」の「制度設計」はいかにして創造されたか』(東洋経済新報社)になるかな。 緑 広瀬一郎さんの。
赤 Jリーグをどうやって作ったのか、お金などの数字がきちっと説明されている。スポーツ・ビジネスの教科書のような本ですよね。
青 僕はJリーグ以前の日本サッカーを描いた『完全敵地』を持ってきました。加藤久による八〇年代サッカー風雲録。
赤 やばい、読んでない。加藤久というだけで敵の意識が働いていた(笑)。
青 赤さん、読んでないの!? これは敵味方関係なく面白いですよ。今日貸してもいいくらい。
赤 借ります(笑)。
青 八六年メキシコW杯の予選で、完全敵地となる北朝鮮との試合を追っているんです。日本が勝っちゃって、北朝鮮は予選落ちが決定。日本代表選手は早く帰ろうと飛行機に乗って北京に向かうんだけど、なんと飛行機が北朝鮮に戻っていく。天候が悪いから降りられないとか言うんだけど、ぜんぜん天気は悪くない。でもほんとに戻らされて、平壌のホテルに幽閉されるんですね。そこで木村和司が家族の写真を軍人に見せて、帰りたいんだよって笑顔で言ったら、軍人が頷いて。で、みんな北京に着いたときにほっとしたと。
緑 加藤久はそのときのキャプテンなんですよね。
赤 同じキャプテンでも『ロイ・キーン 魂のフットボールライフ』のロイ・キーンは、まったく違いますね(笑)。この本、大好きなんですけど、ロイ・キーンがもうむちゃくちゃ。飲み屋で酔っぱらってしょっちゅう喧嘩してるくせに自分の試合のチケットの手配にものすごく悩んでいたりする(笑)。
青 ロイ・キーンは元アイルランド代表で、マンチェスター・ユナイテッドのキャプテンだった名選手ですけど、プレミアリーグのキャプテンに任される一番大切な仕事というのは、チーム分もらえるゲストチケットの配分なんですよね。それを選手に配らなきゃいけなくて、いつも頭を痛めている。
赤 すっごくみみっちいですよね、話としては(笑)。ただ、飲んで問題起こしても、ものすごくサッカーが好きなんですよね。日本でいうとラモスに通じる部分が......。
青 僕、手紙書いたことあるんですよ、ロイ・キーンに。あなたがW杯に来なくて淋しかったって。
緑 すごい!
赤 サッカー選手の自伝ではベスト1かも。で、監督の自伝では、僕が持ってきたアレックス・ファーガソンの『マネージング・マイ・ライフ』がベスト1でしょう。
青 それはもう仕方ない。
赤 ファーガソンの自伝も結構みみっちいんですけどね。ギャラの交渉をして、決裂して怒っていたり。
青 奥さんの誕生日の日に帰らなきゃいけないとか。そういう感じ。
赤 そこが人間くさくていい。続編出ないかなあ。
緑 ファーガソンは『監督の日記』(日本放送出版協会)も面白いですよね。
青 監督でいうと、西部謙司の『イビチャ・オシムのサッカー世界を読み解く』は外せないでしょう。
緑 今、日本のサッカー本界で、木村元彦と西部謙司がツートップですからね。僕は西部さんの『1974フットボールオデッセイ』を持ってきました。これは小説なんですけど。
青 史実に基づいて書かれたフィクションですね。
赤 サッカー版『監督』(海老沢泰久)みたいなもんかな。
緑 西部さんは、戦術を解析する能力もあるし、文章が何よりうまい。軽いエッセイも好きです。
赤 木村さんと西部さんがツートップというなら、『木曜日のボール』の近藤篤は日本サッカー本界のミッドフィールドでしょう。カメラマンなのに、文章もむちゃくちゃうまい。
緑 写真集『ボールの周辺』(日本放送出版協会)にするか、文章中心の『サッカーという名の神様』(生活人新書)にするか、悩んだんですけど、両方の要素の入った『木曜日のボール』を持ってきました。「サッカーマガジン」に連載していて、センターグラビアだったんですよね。あの頃は「サッカーマガジン」を買うと、必ず真ん中から見ていた。
青 じゃあ、僕はコミックを。『GIANT KIL LING』。会社の後輩が買ってきたんですが、もうハマっちゃって、今、五巻まで出てるんですが、買い揃えちゃった。
赤 『キャプテン翼』より?
青 ぜんぜんすごい。たまらないですよ。
緑 現在のサッカー漫画ではダントツですよね。
赤 漫画が出たならフィクションも挙げましょう。実はあんまりないんですけど......。
青 村上龍の『悪魔のパス天使のゴール』(幻冬舎文庫)とか矢田容生の『俺が近所の公園でリフティングしていたら』(小学館)とか。
緑 そんなサッカー小説界から僕が選んだのは『龍時』。実は野沢尚さんに対して、どうしてもテレビドラマの原作者みたいな軽いイメージがあったんですが、読んでみたら、サッカーが実にリアルに描かれている。すごく感動しましたね。
青 野沢さんは取材能力がすごいですよね。
赤 お亡くなりになってしまい、三巻で終わってしまった。残念ですよね。
緑 でも一番いいのは一巻目。
青 小説的じゃないんですよね(笑)。
緑 他の巻は、やっぱり小説的な部分が強くなっていく。
赤 そうなると我々は興味がなくなる(笑)。でね、その小説的な部分とノンフィクション的な部分をうまく融合させているのが、『サッカーボーイズ』なんですよ。試合のシーンとか、もう体が動きだすっていうか、叫びたくなる。
緑 僕も何度も読んで泣いちゃって。12歳から始まって、今13歳が出てるでしょ。毎年一冊は出してほしいな。
赤 緑さんが持ってきた『ファンタジスタ』も小説ですよね?
緑 そう。星野智幸はいいですよ、星野さん自身サッカーをやっているし(笑)。だからサッカーが出てくる小説は、これ以外にもあるんですけど、中でもこれは首相が公選制になった近未来の日本という設定がね、サッカーとうまい具合に混ざっているんですよ。
赤 あっ! 大事な書き手を忘れてた。サイモン・クーパーですよ。『ナノ・フットボールの時代』(文藝春秋)も『アヤックスの戦争』(白水社)も素晴らしい。今、サッカーを書かせたら一番うまい。
青 サイモン・クーパーはすごいよ。
赤 徹底的に取材して、サッカーそのものも当然ながら、サッカーを取り巻く環境もビシッと書いている。で、一番の推薦作は世界中のサッカーと社会の環境を見て歩いた『サッカーの敵』。
緑 訳者がなぜか柳下毅一郎。サッカーファンにはサッカー本翻訳者として浸透しましたよね(笑)。
赤 『サッカーの敵』とともに推薦したいのが、『地図にない国からのシュート』。パレスチナ代表チームを追った渾身のノンフィクションです。
青 嬉しい。僕も今さん大好き。
緑 では最後に、みなさんすでに読んでいると思うんですが『日本サッカー狂会』を。日本においてサッカー不毛の時代から応援し続けている狂った人たちの声ですね。年間百試合以上観戦二十年継続中って......。
赤 我々ではとても敵わない(笑)。じゃあ、ベストイレブンを決めましょうか。
緑 これは難しい。
青 とりあえず話し合いで決める方向で(笑)。システムはどうします?
赤 『4-2-3-1』(杉山茂樹/光文社新書)でいきますか(笑)。
緑 いや、得点力不足なんでツートップでいきましょう。4-4-2ですね。
青 それなら話に出た、日本サッカー本界のツートップ、木村さんと西部さんの本をFWにしましょう。
赤 木村さんはどの作品にしますか。やっぱり『オシムの言葉』?
青 "ユーゴ三部作"という扱いでは?
赤 それはいいですね。西部さんはどれにしますか。
緑 一冊入ってくれれば、何でもいいんですけど、『イビチャ・オシムのサッカー世界を読み解く』で、いきましょうか。
青 これで決定? 日本サッカー本界のツートップ!
赤 面白い。
青 左サイドバックは決まりなんじゃないですか。満場一致ですよね。
赤 『狂気の左サイドバック』。日本が生んだ唯一の左サイドバックにして、サッカー本のエポックです。間違いなく決まりです。
緑 じゃあ、センターバックは加藤久でしょう(笑)。
赤 『完全敵地』。読んでないけど、青さんの話だけで鳥肌が立った。
青 もう一方のCBはどうしますか。
緑 縁の下の努力ということで『空っぽのスタジアムからの挑戦』でどうですか。
赤 渋くていいな。これがなければ日本サッカーの今はないんだから。右サイドバックは、運動量が大切なので、世界中を走り回っているサイモン・クーパーの『サッカーの敵』でいいんじゃないかな。
青 どんどん決まっていくね(笑)。じゃあ、ボランチは当然『ロイ・キーン 魂のフットボールライフ』でしょう。
赤 当然です。あと三冊か。まいったなあ。入れたいものばっかりだ。
緑 日本代表の選考は大変なんですよ(笑)。でも木村さんと西部さんを入れたなら、もうひとり日本が誇るサッカーカメラマン・近藤篤も入れないわけにはいかない。
青 左サイドで、文章と写真で頑張ってもらいましょう。
赤 右サイドは、サッカー小説代表で『サッカーボーイズ』。毎年出して、全十一冊『サッカーボーイズ』で埋めてほしい(笑)。
緑 あと残っているのは、トップ下とゴールキーパーか。トップ下は中田英や前園を描いた『28年目のハーフタイム』かなあ。
赤 異存なし! じゃあ、一番地味なゴールキーパーは、やっぱり地味な、でもとても大切なサッカー本『フチボウ』で決まりでしょう。
青 素晴らしいベストイレブンだ。
赤 でも僕の好きなサポーターものが入っていない......。
緑 それはサポーターということでスタジアムを囲んでもらいましょう。
青 いいですねえ。この企画、四年に一度開催しませんか(笑)。
●赤々院赤々居士のノミネート・タイトル
『誇り』木村元彦/集英社文庫
『狂気の左サイドバック』一志治夫/新潮文庫
『山本昌邦備忘録』山本昌邦/講談社文庫
『フチボウ』アレックス・ベロス/ソニー・マガジンズ
『狂熱のシーズン』ティム・パークス/白水社
『ぼくのプレミア・ライフ』ニック・ホーンビィ/新潮文庫
『マネージング・マイ・ライフ』アレックス・ファーガソン/日刊スポーツ出版社
『サッカーボーイズ』はらだみずき/角川文庫
『サッカーの敵』サイモン・クーパー/白水社
『地図にない国からのシュート』今拓海/岩波書店
●青野鞠之介のノミネート・タイトル
『悪者見参』木村元彦/集英社文庫
『28年目のハーフタイム』金子達仁/文春文庫
『たったひとりのワールドカップ』一志治夫/幻冬舎文庫
『祖母力』祖母井秀隆/光文社
『尽くしてみないか、全力を』松本育夫/実業之日本社
『完全敵地』加藤久/集英社
『ロイ・キーン 魂のフットボールライフ』ロイ・キーン/カンゼン
『イビチャ・オシムのサッカー世界を読み解く』西部謙司/双葉社
『GIANT KILLING』ツジトモ、綱本将也/講談社
『欧州サッカー 60都市現地観戦ハンドブック2000』ダイナゲイト
●緑味太郎のノミネート・タイトル
『オシムの言葉』木村元彦/集英社文庫
『日本サッカー史 代表篇』後藤健生/双葉社
『古沼貞雄 情熱』元川悦子著、学研ストライカーDX編集部編/学習研究社
『天命』松本育夫/クリーク・アンド・リバー社
『空っぽのスタジアムからの挑戦』平塚晶人/小学館
『1974フットボールオデッセイ』西部謙司/双葉社
『木曜日のボール』近藤篤/日本放送出版協会
『龍時』野沢尚/文春文庫
『ファンタジスタ』星野智幸/集英社文庫
『日本サッカー狂会』日本サッカー狂会編/国書刊行会
●サッカー本ベストイレブン
GK
『フチボウ』
DF
『サッカーの敵』
『空っぽのスタジアムからの挑戦』
『完全敵地』
『狂気の左サイドバック』
MF
『ロイ・キーン 魂のフットボールライフ』
『サッカーボーイズ』『サッカーボーイズ13歳』
『木曜日のボール』
『28年目のハーフタイム』
FW
『イビチャ・オシムのサッカー世界を読み解く』
『誇り』『悪者見参』『オシムの言葉』
監督『GIANT KILLING』
コーチ『山本昌邦備忘録』
主審『ゲームのルール』
アナウンサー『メキシコの青い空』
ファン『ぼくのプレミア・ライフ』
サポーター『狂熱のシーズン』