第190回:滝口悠生さん

作家の読書道 第190回:滝口悠生さん

野間文芸新人賞受賞作『愛と人生』や芥川賞受賞作『死んでいない者』をはじめ、視点も自在、自由に広がっていく文章世界で読者を魅了する滝口悠生さん。実は小さい頃はそれほど読書家ではなかったという滝口さんが、少しずつ書くことを志し、小説のために24歳で大学に入り学び、やがてデビューを決めるまでに読んで影響を受けた作品とは? その遍歴も含めて、たっぷりと語っていただきました。

その2「古本を繰り返し読む」 (2/5)

  • そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ・クリスティー
    早川書房
    821円(税込)
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  • オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ クリスティー
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    929円(税込)
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  • アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ クリスティー
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  • 戦争の法
  • 『戦争の法』
    佐藤亜紀
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――中学生になってからは。

滝口:古本屋で100円で売っているミステリとか軽めの小説を買ってきて読むようになりました。あとは本屋で適当にタイトル買い、ジャケ買いですね。ミステリだとべたですがクリスティーとか。でもここでもちょっとひねくれていて、あまり他に手を広げないんですよ。本を沢山読む人って、1冊読んで気に入ったら同じ作家の作品をバーッと読んでいくのかもしれないけれど、ミステリなのに同じ本を繰り返し読んでいました。クリスティーなんていっぱい作品があるんだから、もっと読んだらよかったのに、と今になって思うんですが。
 『そして誰もいなくなった』と『オリエント急行殺人事件』が特に好きで、この2作は繰り返し読んでいました。文章も比較的やさしかった気がします。ミステリだからと言って繰り返し読めないわけじゃないんですよね。楽しめていたわけだから。『アクロイド殺し』を読んでちょっと難しいなと思って、「こっちをもう1回読もう」と言って『オリエント急行殺人事件』をもう1回読むという。

――絶対忘れられない犯人なのに(笑)。

滝口:そうですよね。何を考えていたのかな。中学生の頃は本に限らず、自分が何をしていたのかあんまりちゃんと思い出せないんですよ。さっき『SLAM DUNK』読んだ奴が野球からバスケに転向していったと言いましたが、そう言う自分は帰宅部で(笑)。無為に過ごしていた気がします。いいんですけどね、無為。
 中学の時に読んでいちばん印象に残っているのは、大槻ケンヂの『のほほん日記』ですね。帰宅部って感じしますね。でもこれはとてもいい本で、何度も読みました。バンドのごたごたとか、オカルトにはまったりとか、神経症になっちゃったりもするんですが、文章がなんというか真摯で、強がりも弱がりもしないところが好きでした。
 そうやって考えてみると、ミステリとか日記ばかりを繰り返し読んでいたわけですね。いろいろもったいない気もしますが、まったく無駄だったかというと、そうでもない気もする。今も小説に日記のモチーフを使ったり、日記のワークショップをやったりしているので。すごく遠回りだけれど進んではいた、と思いたいです。
 あ、でも中学生の時、1回だけ、すごく熱心に読書感想文を書いたことがあるんです。佐藤亜紀さんの『戦争の法』について。本屋で感想文を書くための本を探していて、「すごいタイトルだ」と思って手に取って読みました。難しくて、それをどう文章にしようかと悩んだんですが、同時にこれまで知らなかった興奮とかおもしろみも感じたんですね。いい感想文を書きたいというより、作品を読んでいろんなことを考えるのが楽しかった。答えとか結論に収まらない小説を読むというおもしろさに初めて気づいたのがその時だったのかなと。

――高校時代はもうちょっと記憶があるわけですか。

滝口:高校はいくらか記憶があります(笑)。でも、高校に入って再び野球を始めまして、本も読んでいましたが、引退するまでは読書にどっぷり浸かる感じではなかったです。高3で部活が終わった時期からガーッといろんなものを読み始めました。高3の冬に村上龍をまとめて読んだことが、当時の暗く不安定な気持ちと一緒に記憶されています。『五分後の世界』とか『ストレンジ・デイズ』とか『イン・ザ・ミソスープ』とか。『ラブ&ポップ』ももう出ていたかな。『限りなく透明に近いブルー』はもう少し後から読んだと思います。高校を卒業して20歳くらいまでの時期が一番本を読めた時期ですね。村上春樹もその時期にだいたいまとめて読みました。

――高校卒業後、すぐには大学に進学しませんでしたよね。どういう思いだったんですか。

滝口:進学する動機が見つからなかったんです。動機なしに受験勉強する気にはならないなあと思って、じゃあ行かない、と。高校に進む時も若干そういう感じはあったんですけれど、高校受験はそこまで難しくないじゃないですか。大学受験は行きたくもないのにやるには大変だよと思って、早々に降りたんです。

――大学に行かずにこれをやりたい、というのはありましたか。

滝口:漠然と何か書くことをしたいという気持ちはありましたが、どうしてそう思ったのかとか、当時どう考えていたかはもうよく分からなくなってしまいましたね。「これ」という明確なきっかけはなくて、いつの間にかそう思うようになっていった感じがします。でも、それを仕事にしたいとか考えていたわけでもなかったし、周りから見たらぶらぶらしてただけでしょうね。そのうちどうにかなる、と漠然と思っていました。
 習作みたいなものも書いてみたりしましたけれど、小説という意識はまだなかったし、若々しい、青臭いことを書いたり考えたりしていたはずです。お前恥ずかしいけど別にそのままでいいぞ、と当時の自分に言いたい。小説を書くのはずっと後、大学に行くくらいからですね。

  • イン ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫)
  • 『イン ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫)』
    村上 龍
    幻冬舎
    576円(税込)
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  • ラブ&ポップ―トパーズ〈2〉 (幻冬舎文庫)
  • 『ラブ&ポップ―トパーズ〈2〉 (幻冬舎文庫)』
    村上 龍
    幻冬舎
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  • 新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)
  • 『新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)』
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    講談社
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