第191回:原田ひ香さん

作家の読書道 第191回:原田ひ香さん

2007年に『はじまらないティータイム』ですばる文学賞を受賞してデビュー、『東京ロンダリング』や『人生オークション』、最新作『ランチ酒』などで話題を呼んできた原田ひ香さん。幼い頃、自分は理系だと思っていた原田さんが、小説家を志すまでにはさまざまな変遷が。その時々で心に響いた本について、教えてもらいました。

その2「10代の頃ショックを受けた作品」 (2/5)

  • 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)
  • 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)』
    村上 春樹
    新潮社
    810円(税込)
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  • ノルウェイの森 上 (講談社文庫)
  • 『ノルウェイの森 上 (講談社文庫)』
    村上 春樹
    講談社
    605円(税込)
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  • ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)
  • 『ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)』
    村上 春樹
    講談社
    713円(税込)
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  • 羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)
  • 『羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)』
    村上 春樹
    講談社
    540円(税込)
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――中学生時代はどのような読書を。

原田:「国語便覧」に載っているような、夏目漱石や太宰治といった作家の作品、いわゆる近代文学の一連を片端から読みました。そういう割と堅いものをしっかり読んでいた一方、今になって実業之日本社さんから出ていたと知ったんですが、「My Birthday」という占いの雑誌も読んでいました。その頃ヴァイオリンをやっていたんですが、その繋がりの友達が毎月買っていたので、読ませてもらっていたんです。中学生くらいの頃に、その「My Birthday」の別冊が小説を募集していたんです。名称がはっきりしないのですが、「マイバースデー小説賞」みたいなものを設けて、コバルト系というか、少女小説のようなものを募集していて。
 受賞したのは高校生から20歳くらいまでの方だったと思うんですが、それを読んで、もうショックを受けちゃって。みなさん、すごく上手なんですよ。書き慣れているというか。当時は自分が小説を書くということは全然考えていなかったんですが、こんなに年の近い、ちょっと年上くらいの方がこんなに上手な文章で、小説としてできあがったものを書くなんて、「すごい、才能のある人は違う」って思って。その時のショックがずーっと30歳くらいまで続いて、自分が小説を書こうとは全然思わなかったんですよね。「My Birthday」には太宰治さんのお嬢さんの太田治子さんもお若い作家ということでエッセイを書かれていて。それで太田さんの『空色のアルバム』だったかを読んだんですが、自分が太宰治の娘として生まれてからの一連のことが書かれてあって、それも「才能のある人ってすごいな」とショックを受けました。そういう中学生時代でした。

――では、高校時代は。

原田:高校では担任が現代文の先生で、すごくたくさん本を読んでいらっしゃる方だったんです。20代半ばの男性でしたが、机の上にわーっと本を並べているんです。その先生に村上春樹さんを教えてもらいました。机の上にあったのを借りたのかな。それでまたすごくショックを受けたというか。夏目漱石といった近代文学を読んできたし、田辺聖子さんはちょっと年上という印象でしたが、村上春樹さんは同時代のイメージで、ちょっと特異だったというか。文体も特異で衝撃的でした。それで、高校時代はほとんど村上さんの本をずっと読んでいました。ちょうど『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』が出た頃かな。

――『ノルウェイの森』が1987年ですよね。

原田:そう、高校2年生の秋に『ノルウェイの森』が出たんですよ。その翌年に『ダンス・ダンス・ダンス』が出たんですよね。それまでの村上さんも人気作家でしたけれど、高校2年生の時に『ノルウェイの森』が出て、あの赤と緑のクリスマスカラーの上下巻が書店にわーっと並んで、それまでとはまったく違う注目のされ方の作家になられました。
その前に村上春樹さんと村上龍さんが対談しているのを雑誌で読んだ時に「実は今、恋愛小説をはじめて書いているんだよね」というふうにお話しされていたのを憶えていたので、すごく楽しみにしていたのが『ノルウェイの森』でした。それがガンと売れたというのも衝撃でした。

――ご自身では村上さんのどの作品が好きですか。

原田:私は『羊をめぐる冒険』と『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』のあたりが一番好きで繰り返し読みました。実は自分の作品に一番影響を受けているのは村上春樹さんだなって自分では思っているんですけれど、誰も言ってくれないんです(笑)。一回、すばる文学賞のパーティの時の二次会か三次会の時に、酔って、「実は影響を受けているんだけれども、誰も分かってくれないし、分からないと思うんだよね」と話したら、その時一緒にいた人のなかに、今、別府大学で教えている澤西祐典さんという作家さんがいらして、それから1年くらいしてから「原田さん、『東京ロンダリング』を読んでみると確かに影響を受けていますね」と言ってくれて、ああ、分かってくれてたなって。分かってくれたのは澤西さんだけなんですけれど(笑)。普通、村上春樹さんの影響を受けていると言うと、文体とかライフスタイルとかのことになりますけど、全然そうではなくて、架空職業とか東京の孤独とかで影響を受けていますね。

――ああ、なるほど。今、文体とかアイテムとか似てたっけ? と思ってしまいました。確かに原田さんの作品には、都会で孤独を背負いながら生きていく人たちが多く登場しますね。

原田:そうなんです。それで、高校生の頃、村上春樹さんや村上龍さんが「群像」で賞を獲ってデビューされたということを知り、そこから純文学の雑誌や小説を読むようになりました。子どもの頃は雑誌のことはよく分からなかったので、そういう文芸誌があって、賞があってというのを知ったのはその時期です。
 中学3年生くらいから数学ができなくなってきて、でも全然得意だと思っていなかった国語の成績が自然とよくなってきて、それもあって村上春樹さんを読み始め、現代の作家をいろいろと読むようになったんだと思います。丸谷才一さんも『女ざかり』がわーっと話題になる前から読み始めましたね。それもたぶん、先生に借りて読んだんだと思います。サガンや丸谷さんの文体を真似して文章を書いてみたりもしていました。でも自分は小説家になるとは全然思っていなかったです。
 高校時代にも田辺聖子さんをすごく読んだんですけれど、同時に、高校から大学にかけて森瑤子さんもすごく読みました。それで思ったのは、田辺さんと森さんって大阪弁の世界と東京のお洒落な世界という一見全然違う印象なのに、同じことが書いているなってこと。いい意味で、男女の感情というのは不変ではなくどんどん変わっていく、ということを、お二人とも書かれていると思いました。今でもお二人はすごく好きな作家さんで、自分がすばる文学賞を獲った時、森瑤子さんも第2回の受賞者なので、それはちょっと縁を感じて嬉しかったです。

――ちなみに中高時代、部活などは何かされていたのですか。さきほどヴァイオリンをやっていたということでしたが。

原田:子どもの頃からずっとヴァイオリンをやっていて、小学校のはじめのうちからオーケストラに入っていました。小学生から大学生までいる、年齢差のあるオーケストラで、私もそこに大学生の頃までいました。その活動が必ず日曜日にあるんですね。なので学校での部活動は美術部に入って絵を描いたりするくらいでした。父が大学で建築を教えていて、妹は今デザイナーで、どちらかというとそういう系の家だったので、なんとなく自分も絵は一応やってはいました。でも高校時代は部活にも入らなかったんじゃないかな。学年で帰宅部は1人か2人しかいなくて、「うちの部活のマネージャーやってくれない?」って何回か誘われましたから(笑)。
 最初の頃はヴァイオリンの道に進むこともまったく考えないでもなかったんですが、「やっぱりそれも違うなあ」と思い始めて、現実的にいろんなことを見定めていった時に、国語とか国文学かなとなっていきました。でも、今もそうなんですけれど、結構漢字に弱いんです。読むことはできるんですけれど、書くのが。高校3年生の時に先生に「漢字の練習をすればもう少し成績よくなるんだから」って言われました。

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