第193回:奥田亜希子さん

作家の読書道 第193回:奥田亜希子さん

すばる文学賞受賞作品『左目に映る星』(「アナザープラネット」を改題)以降、一作発表するごとに本読みの間で「巧い」と注目を集めている奥田亜希子さん。長篇も短篇も巧みな構築力で現代に生きる人々の思いを描き出す筆力は、どんな読書経験で培われてきたのでしょうか。デビューに至るまでの創作経験などとあわせておうかがいしました。

その2「ライトノベルにハマる」 (2/5)

  • つきのふね (角川文庫)
  • 『つきのふね (角川文庫)』
    森 絵都,国分 チエミ
    角川書店
    572円(税込)
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  • スレイヤーズ1(新装版) スレイヤーズ (新装版) (富士見ファンタジア文庫)
  • 『スレイヤーズ1(新装版) スレイヤーズ (新装版) (富士見ファンタジア文庫)』
    神坂 一,あらいずみ るい
    KADOKAWA
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  • 魔術士オーフェンはぐれ旅 新装版1 (TOブックスラノベ)
  • 『魔術士オーフェンはぐれ旅 新装版1 (TOブックスラノベ)』
    秋田禎信,草河 遊也
    TOブックス
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  • 新装版フォーチュン・クエスト(1) 世にも幸せな冒険者たち (電撃文庫)
  • 『新装版フォーチュン・クエスト(1) 世にも幸せな冒険者たち (電撃文庫)』
    深沢 美潮,迎 夏生
    KADOKAWA
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  • 小説ドラゴンクエスト5―天空の花嫁〈1〉 (ドラゴンクエストノベルズ)
  • 『小説ドラゴンクエスト5―天空の花嫁〈1〉 (ドラゴンクエストノベルズ)』
    久美 沙織
    スクウェア・エニックス
    1,026円(税込)
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――小学校の頃、作文など文章を書くことは好きでしたか。

奥田:好きでした。原稿用紙ぴったりに終わらせられることに優越感を抱いていました。残り何マスかになってくると、語尾や言葉をちょっといじればちょうど終わらせられるじゃないですか。そういうのが気持ちよかったです。
でも、読書感想文は4年生までまったく分かっていなくて。先生も「こういうものですよ」って言わないまま宿題にしていたような気がします。だから私は先生に自分の好きな本を紹介するものだと思い込んでいて、文章をせっせと抜き出しては説明していました。それが、4年生の夏休みに友達の読書感想文を読んで目が覚めました。「私が書いていたものは感想文じゃなかった!」って。そこからはちゃんと形になって、中学校の時には森絵都さんの『つきのふね』の感想文で全国コンクールに出してもらいました。

――お話を作ったりはしていましたか。

奥田:夏休みの自由研究の宿題に絵本を作ったことはありますね。絵を描くのも好きだったんです。2年生の時には、頭の中で物語を考えていた記憶もあります。主人公の男の子が自殺しちゃう話です。親に「明日、新聞に僕、載ってみせるよ」みたいなことを言って、実はそれが自殺するということだったっていう。2年生の時が人生で一番いじめられていたので、辛かったのかもしれないですね(笑)。

――鬱屈した思いを創作にぶつけていたんでしょうね。

奥田:そうですね。空想癖はすごくありました。
5、6年生の頃は漫画も描いていました。ギャグ漫画ですね。500円のお小遣いから漫画を買うとほかに何も買えなくなってしまうので、それほど読んでいたわけではないんですけれど。二頭身くらいのキャラクターが出てくるものを何冊か描いた憶えがあります。同じ趣味の友達とは見せ合っていました。もうどこにやったか分からないですね。捨てた憶えはないんですけれど、蒸発していてほしい(笑)。
そういえば5年生か6年生の頃、読書中に母親から「洗濯物を畳むのを手伝って」と言われ、続きを読みながら畳んでいたらすごく怒られて、腹が立って家出したことがありますね(笑)。こっちとしてはもともと本を読んでいたんだし、それでも一応言われたことをやっているのに、なんなんだと思って。家出してあちこち動き回って、「今日はここで寝よう」と野宿の計画まで立てていました。でも、疲れて休んでいる時に父親に見つかって、家に帰りました。

――本を読んでいる時に用事を言い付けられるのって苦痛でしたよね(笑)。

奥田:すごく辛いですよね。だから今、ご飯やお風呂の時間になっても、娘が本を開いていたらキリのいいところまで読んでいいことにしています。

――中学生時代はいかがでしょう。

奥田:中学生からライトノベルに走りまして、神坂一さんの『スレイヤーズ』という、アニメ化もされた作品を読んでいました。クラスの男の子が国語の先生にそれを見せていたのがきっかけです。とても柔軟ないい先生だったので、ライトノベルを小馬鹿にせず、むしろ褒め言葉を口にしたんですね。そこから興味が湧いて読み始めました。
もともとうちは親がゲームをする家庭だったんです。「ドラゴンクエスト」とか「ファイナルファンタジー」とか。その影響で私もファンタジーや冒険の世界が好きだったので、草河遊也さんの『魔術士オーフェン』や深沢美潮さんの『フォーチュン・クエスト』も読みました。あとは久美沙織さんの「ドラゴンクエスト5」のノベライズ、『小説ドラゴンクエスト5 天空の花嫁』。あれは名作です。子ども時代と今が時間を超えてまじわって、昔の自分に声をかけるシーン。その描かれ方がすごくきれいで何度も読みました。ライトノベル以外だと、はやみねかおるさんの「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズはこつこつ集めていました。
この頃からお小遣いが増えたので、漫画も買うようになりました。
それと、自分でもライトノベルを書き始めました。

――ファンタジー系ですか。

奥田:ファンタジー系です。それはまだ家に残っているので、いずれ処分しなければならないと思っているんですけれど(笑)。

――完結するまで書き切ったんですか。

奥田:横書きのノートに2、3冊くらいの長さで、たしか書き切りました。夏休みに毎日やると決めて、達成した年もあります。それも友達に読ませていましたね。人の記憶をいじれるなら消したいです(笑)。

――じゃあ、当時から作家になりたいという気持ちはあったのですか。

奥田:ありました。「作家になるから高校受験したくない」って言っていました(笑)。投稿はしてないです。その頃はキャラクター設定を書くのが面白かったんですよね。イラストも描いて、キャラクター萌えの気持ちがありました。
でも、久美沙織さんの『新人賞の獲り方おしえます』という本は妙に面白くて、繰り返し読みました。「投稿するときは、こういうふうにすればいいんだな」とか考えながら。

――部活は何をやっていました?

奥田:2年生からは美術部です。1年生の時は科学部でした。全員何かの部に所属していなければならない学校で、科学部は本当に何もやりたくない子が集まるところだったんです。オタクっぽい人や不良っぽい人やいろんな先輩がいて、私は毎日アルコールランプでザラメを溶かして、べっこう飴を作って食べていました。1年生はしばらく私一人だったんですけれど、その後、他の部活を辞めた子が数人流れてきました。その中学校を転校したのを機に、美術部に入ったんです。

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