第201回:古内一絵さん

作家の読書道 第201回:古内一絵さん

映画会社に勤務したのち作家デビューを果たし、さまざまな舞台を選んで小説を執筆している古内一絵さん。ドラァグクイーンが身体にやさしい夜食を出してくれる「マカン・マラン」もいよいよ完結、今後の作品も楽しみなところ。では、どんな読書体験を経て、なぜ小説家へ転身を果たしたのか。その転機も含めて読書遍歴をおうかがいしました。

その7「最近の生活、次作について」 (7/7)

  • 風の向こうへ駆け抜けろ (小学館文庫)
  • 『風の向こうへ駆け抜けろ (小学館文庫)』
    古内 一絵
    小学館
    745円(税込)
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  • さよならの夜食カフェ-マカン・マラン おしまい (単行本)
  • 『さよならの夜食カフェ-マカン・マラン おしまい (単行本)』
    古内 一絵
    中央公論新社
    1,620円(税込)
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――一日のサイクルはどのようになっています?

古内:うっ...。

――うっ?(笑)

古内:いえ、あの、さぼっているわけではないんですけれど、机に座っている時間が少ないので、編集さんにご迷惑をおかけしているつもりではないんですけれど。週に3日くらいしか書かない。他はあちこちに出かけているんです。調べものをしていることが圧倒的に多い。それこそ図書館や本屋さんに行ったり、情景が必要だと思ったら、その景色を見に行ったり。そうするとやっと筆が動き出すので。私の場合、映像が浮かばないとまったく筆が動かなくなっちゃうんですよ。たとえばオペレーターの人が出てくるとすると、描写するわけでなくても、どんな電話を使っているのかが浮かばないと指が動かない。

――ああ、じゃあ、どこかの公園で古内さんを見かけても、お散歩しているのではなく、取材しているのだ、と思ったほうがよいですね(笑)。

古内:そう言っていただけるとすごく嬉しい(笑)。それで、書く時は集中して書くんです。

――古内さんは、競馬の女性ジョッキーから映画会社の話から夜食を出してくれるカフェの話まで、さまざまな題材で書かれていますよね。

古内:いろんなものを書いているとよく言われているんですけれど、自分ではわりと一貫していると思っているんですね。やっぱりマイノリティの話が多いですし、世間一般からはみ出した人たちが主人公になっていることが圧倒的に多いです。『風の向こうへ駆け抜けろ』とか『蒼のファンファーレ』は競馬シリーズですけれど、描いているのは女性差別。他に出てくるのも中央競馬でスキャンダルを起こした人とか、失声症の人とかですし、夜食カフェの「マカン・マラン」シリーズにしても、狂言回しになっているのがドラァグクイーンですからね。出てくる人たちも社会のなかで生きづらさを抱えている人たちが多いので。

――その「マカン・マラン」シリーズも第四弾の『さよならの夜食カフェ マカン・マラン おしまい』でいよいよ完結ですね。そもそもなぜドラァグクイーンが料理をふるまってくれる夜だけのカフェ、という設定を思いついたのでしょうか。

古内:やっぱり会社員時代、夜10時に会社を出られれば早かったんですが、そうすると女性が入れるお店が少ないんですよ。お腹はぺこぺこですが、作るのはもう面倒くさいし、お店に入るとするとラーメン屋か居酒屋しかない。私はお酒が飲めないし、こういう時に野菜スープとか飲ませてくれるお店があったらどんなにいいだろうという、夢ですね。

――毎回美味しそうなメニューが登場しますが、これはどのように考えたのですか。

古内:編集者に「何が食べたい?」と訊いていろいろ話し合ったりしましたね。これって春夏秋冬の話なので、この季節だったら何を食べるだろうとか。野菜中心にするということは決めていました。「さよならの夜食カフェ」の2話に出てくるキャロットケーキなんかは、実体験というか。シンガポール料理屋に行って「キャロットケーキを頼んだのにキャロットケーキが入っていない」と大騒ぎしていたら「シンガポールのキャロットケーキは実は......」と言われて。それをそのまま小説に使ったりして。

――まだまだ続いてほしいシリーズでもありますが、本当におしまいなんですか。

古内:1冊目を書いた時はシリーズ化は決まっていなかったんですが、「非常に評判がいいので次回を書きませんか」というお話をいただいて。その時に思ったのは、「私と考えていることが同じ人って世の中にいっぱいいるんだな」ということ。23時にやっとご飯が食べられる、という人がいっぱいいるんだな、って。それで「じゃあやってみましょう、それで、四部作にしませんか」と言いました。2の「ふたたたび」3の「みたび」、4の「おしまい」という。まあ、続きを書くとしてもまた違う形になると思います。迷っている人が出てきて、お店に行って...というパターンはこれで終わりです。

――今後の執筆のご予定は。

古内:「キノノキ」というサイトで「アネモネの姉妹 リコリスの兄弟」というのを書いています。それは「兄弟姉妹は一番近くにいる謎」ということで、ちょっとミステリーっぽいもので、なんとモデルはほとんどキノグループの方です(笑)。みなさんにアンケートに答えていただいて、それで面白かったところを追加取材させていただきました。小説よりも面白い話が多かったんですけれど、オチは私がつけさせていただきました。「バッドエンドも書きますよ」と事前にお伝えしてあります。それと、来年の6月くらいから「キネマトグラフィカ」の続編の連載が「ミステリーズ!」で始まります。第一弾は映画がフィルムだった頃を書いていますが、次はミニシアターブーム、映画が一番お洒落だった頃の話です。他は、書下ろしの準備をしているところですね。

(了)