第207回:最果タヒさん

作家の読書道 第207回:最果タヒさん

学生時代に詩人としてデビューを果たし、今は詩だけでなくエッセイ、小説などフィールドを広げて活動している最果タヒさん。詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』が映画化されるなど常に注目され、とりわけ若い世代から圧倒的な支持を得るその感性と言葉のセンスの背景に、どんな本との出合いや創作のきっかけがあったのでしょうか。

その3「詩を書き続ける高校生時代」 (3/6)

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――なるほど。さて、吉増さんや田村さんの詩と出合った後は...。

最果:その後に伊藤比呂美さんとか谷川俊太郎さんとかも読むと、全部違うじゃないですいか。全部が違いすぎて、詩というものがますます分からなくなりました。
でも、それが逆に良かったんだと思います。「詩の雑誌に投稿してごらん」って言われてそのまま投稿しはじめたら、「詩ってこんな感じでしょ」って感じで書いていたと思うんですけれど、それが取っ払われてしまったから、やっぱり今まで通りにやるしかなくて、そうすると自分の「書けた」「書けなかった」って直感みたいなものだけが武器になるんです。だから楽しいままでいられたし、その時それでやっていけてよかったなと思っています。
当時はとにかくずっと書いていたんですが、自分が何を書いているか意識しないようにしていました。何を書こうとかこういうのを書こうとか意識せず、できるだけ「あ、こんな言葉が出てきた、意外。面白い」って思える言葉が出てくるように、頭を真っ白にする、ということを大事にしていました。

――ずっと書いていたというのは、たとえば授業中とかも...。

最果:いえ、キーボードでないと書けないので。手書きで書いたことはないんです。だから家に帰ってパソコンを開いてからずっと書いていました。

――そんな最果さんを見て、本を読ませたい親御さんの反応は?

最果:当時はもう「この子は本を読まないんだ」って諦めてました。でも、何かを書いているのは分かるから、「書くなら何か読んで語彙力育てなさい」ってすごく言われました。私は当時、書くのが楽しかったら、そう言われると邪魔されているとしか思えなかったです。

――確かに、どうやって語彙力を養ったのか気になります。

最果:時々は本を読んでましたよ(笑)。友達にすごい読書家で、太宰治が好きでだいたいいつも文庫本を読んでいるという子がいたんです。音楽の趣味が唯一合ったのもその子なんですが、本も、その子が読んでいると信頼できる感じがして、私も太宰は読みました。読み始めるとやっぱり好きだと思うんですよね。「桜桃」が当時すごく好きでした。他に、学校の教科書や読書感想文の課題がきっかけで読むものもありました。『星の王子さま』とか『銀河鉄道の夜』とか。
ただ、物語の筋より、文体が好みかどうかが私にとっては大切で。「この本はこのシーンがヤバイ」ということを聞いたらそこだけ読んで「ああ、ヤバイ」って思ったりして。「なんで次にこの文章が入るのかよく分からないけれど、いちばん説得力があるな」と思えるような表現が好きでした。
高校生の時かな、「もう本はいいっす」という気持ちがピークだった時に本屋さんで町田康さんの『告白』を見かけて、「めっちゃ分厚いやんけ」と思ったんですけれど、パラパラッとめくったらめっちゃ面白くて。話が面白い以前に、言葉が「何これ」って。「内容以外のところで面白いことが起きているぞ、この紙の上で」というのがすごいインパクトで、それから文学にすごくすごく興味を持ちました。
それと、私が高校生の時に、綿矢りささんが芥川賞を受賞して、やっぱり周りの子たちがそれでざわっとしていたのも、印象深いです。みんな、ちょっと浮き足立つ、というか。

――「私も何かできるかも」って?

最果:書いてみよう、って思う子はいたと思います。周りでも綿矢さんの本はすごく読まれていました。そういうことがあり得るんだって、私も思って。当時って、他にも若くして活躍する人がすごく多かったんです。宇多田ヒカルさんとかもそうだった。だから、若い自分が何もしないことに対する焦りみたいなことがずっとあったんです。「もう宇多田ヒカルがデビューした歳を越えちゃったよ」とか。「綿矢りさならデビューしてる年齢だよ」とか。ただただ焦っていたように思います。

――大学に進学して何か変化はありましたか。

最果:バイトするのでお金ができるから、漫画をいっぱい買い始めました。たぶん、毎日1冊買っていた気がします。毎月1冊が毎日1冊になりました(笑)。その頃は名作といわれるものを追いかけるようにして読んでいました。『SLAM DUNK』も読んだし、萩尾望都さんも追いかけていたし。名作は一気読みできるところも好きでした。連載中のものは先を待っていられなかった。
その頃にいろんな漫画を読むようになりました。鬼頭莫宏さんの『ぼくらの』とか、古屋兎丸さんといった、中学生だと出合わないような漫画に出合うことができました。やっぱり中学校だと貸し借りする漫画って、『ONE PIECE』や『NANA』だったんですよ。大学ではまた違う漫画との出合いがあって、「人間の気持ち悪さをそのままキャラクターにするんや」みたいなのがすごくショッキングで、そこに出てくる言葉もすごく面白かった。
あとは、その頃にアニメも見始めたのかな。それまであまり接点のなかったものを吸収しはじめたのが大学の頃なので、その頃に「エヴァンゲリオン」も観ました。

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