第208回:葉真中顕さん

作家の読書道 第208回:葉真中顕さん

日本ミステリー大賞を受賞したデビュー作『ロスト・ケア』でいきなり注目を浴び、今年は『凍てつく太陽』で大藪春彦賞と日本推理作家協会賞を受賞した葉真中顕さん。社会派と呼ばれる作品を中心に幅広く執筆、読書遍歴を聞けば、その作風がどのように形成されてきたかがよく分かります。デビュー前のブログ執筆や児童文学を発表した経緯のお話も。必読です。

その2「図書館、コンビニ、レンタルショップ」 (2/8)

  • 冒険者たち――ガンバと十五ひきの仲間
  • 『冒険者たち――ガンバと十五ひきの仲間』
    斎藤 惇夫
    岩波書店
    1,944円(税込)
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  • 十五少年漂流記 (新潮文庫)
  • 『十五少年漂流記 (新潮文庫)』
    ジュール・ヴェルヌ
    新潮社
    432円(税込)
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  • 飛ぶ教室 (岩波少年文庫)
  • 『飛ぶ教室 (岩波少年文庫)』
    エーリヒ ケストナー
    岩波書店
    734円(税込)
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  • ぼくのミステリ作法 (角川文庫)
  • 『ぼくのミステリ作法 (角川文庫)』
    赤川 次郎
    KADOKAWA
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  • はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)
  • 『はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)』
    ミヒャエル・エンデ
    岩波書店
    3,089円(税込)
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――学校の課題図書になるような本は読みませんでしたか。

葉真中:あったかな。課題図書ではないんですけれど、小学校の時に先生のおすすめ本があって、それは素直に面白かった。斎藤惇夫さんの『冒険者たち』っていう。

――ガンバと15ひきの仲間ですよね。ネズミたちの話で、「ガンバの冒険」というタイトルでアニメ化もされた。

葉真中:そうそうそう、「ガンバの冒険」の原作なんですよね。これは本当に感動したっていうか、あんまり面白かったのでシリーズ全部読みました。ガンバのアニメも知っていたんだけれど、僕は原作のほうがいいなって思っていました。それで思い出したんですけれど、後に中学生くらいで授業で勧められるような本も、小学生のうちにわりと図書館で読んでいたんです。当時の漫画、特に藤子不二雄先生の作品なんかは結構文学作品が出てくるんですよね。たとえば『ドラえもん』の中で、のび太が『十五少年漂流記』をものすごく面白いって言って読んでいて。「のび太が読んでいる本、面白そうだな」と思って自分も借りて読んだりとか。あと、当時「少年ジャンプ」に『飛ぶ教室』っていう、核戦争後の世界で子供たちが生き抜く漫画があって好きだったんですけれど、図書館に行ったらケストナーの『飛ぶ教室』がある。有名な児童文学だってことを知らないので、同じタイトルだと思って借りて読んだら、内容は全然違って寄宿舎の話なんですけれど、面白かった。それらは後に、中学校の夏休みの課題図書になっていましたね。なんだかんだ言って、小中学校の時は図書館にずいぶんお世話になりました。ちなみにその図書館で、篠田節子さんが働いていたという。

――えっ!

葉真中:司書ではなくて、市の職員で図書館勤めだったんですね。オープニングスタッフだったそうです。ご本人にお会いした時もちょっとお話ししたんですけれど、時期が重なっているので、100%、会っているはずなんです。もちろんお互い憶えているわけないんですけれど。

――そんなことが。さて、読書感想文や作文など、文章を書くのは好きでしたか。

葉真中:作家という職業があると気づいたのが小学校の高学年くらいでした。学校で読書感想文なんかはそれなりに書いていましたけれど、それとは別に初めて短篇小説を書いてみようと思ったんですよね。実際書けるわけじゃなくて最初の10行くらいで挫折しちゃうんですけど。ともあれ、書いてみようと思ったきっかけがはっきりあって、まず赤川次郎さんが好きだったんですよ。ちょっとだけ経緯を説明しますね。

――ぜひお願いします。

葉真中:おそらくこのコーナーの最多登場作家は星新一さんじゃないかと思うんですが、僕ももちろん読みました。短くてオチのあるショートショートがすごく好きで、図書館のショートショートコーナーを順番に読んでいくということをやったんです。そしたらそこに『二人だけの競奏曲』という、横田順彌さんと赤川次郎さんが同じテーマで1本ずつショートショートを書いた本があったんです。横田さんも突然ダジャレが入ってきたりして面白かったんですけれど、赤川次郎っていう人の書くものは僕にすごく合うなと思って、「ちょっとこの人の書いているもの、他にも読んでみよう」となり、図書館にあった「三毛猫ホームズ」のシリーズや『三姉妹探偵団』、「四字熟語」シリーズなんかを読んで、ドはまりしたというか。はじめて作家読みをしたのがたぶん、赤川次郎さんです。それで、赤川さんの『ぼくのミステリ作法』という作家エッセイを読んだら「僕はこんなことを考えながら書いています」などと書かれている。それで「あ、そうか、当たり前だけど、この赤川次郎という人は作家で、職業で、こうやって小説を書いてこの人は生活しているんだな」って。それで、自分も書けるものなら書いてみたいなって思ったんです。漫画も好きだったから、同じように「漫画を描くっていう仕事もあるんだな」と思い、ノートの端っこに俺ストーリー、俺漫画を描き始めました。でも小説は結局、子供の頃は1作も完成しなかったですね。内容はミステリーっぽいもの、ファンタジーっぽいものでした。オカルトも好きだから主人公が幽霊になっちゃうものとか、宇宙人にさらわれるとか、そんなものばっかり。北杜夫さんの「さびしい王様」シリーズも同じ頃に読むようになっていたので、王様ものを自分でアレンジしたりして。でも、どれも設定だけ作って書き始めて、途中で嫌になっちゃうっていう。まあ、子供ですからね。それが事始めというか。

――小さい頃は同調圧力に負けていたということで、その頃には一人で行動されるようになっていたのですか。

葉真中:そんなこともないですね。子供って、なんであんなに時間があったんだろうっていうほど時間がありますし、なんだかんだいって友達と遊んで帰ってきた後に一人で書くという形でした。でも高学年になるとみんな習い事を始めたりして忙しくなるし、本当に野球をやる奴はリトルリーグに入ったりするから、みんなで集まって野球するのも週1回くらいになるので、少しずつ一人で行動するのが自然になっていました。僕、誘われたら断らないけれど、自分からは誘わないので(笑)。それで小学校の高学年、中学生くらいは家で本を読むことが増えていったのかな。

――その頃はどんな読書を。

葉真中:読書ではないのですが当時の大事件として、コンビニと図書館に加えて、レンタルビデオショップが近所にできたというのがあります。これで僕を形作った文化資本が全部揃った(笑)。レンタルビデオを観るようになって、家で過ごす時間が増えました。まあ、ファミコンも大ブームでしたから、当然やっていましたし。

――映画はどんなものを?

葉真中:強烈に憶えているのはまず、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」ですね。僕を虜にした最初の作品です。当時、80年代後半から90年代の超大作、「ゴーストバスターズ」や「ターミネーター」など一通りレンタル屋さんで借りてみたけれど、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は「ああ、こんな世界もあるのかって」って。マイケル・J・フォックスも大好きになって当時出演していた映画はだいたい観たかな。「ドク・ハリウッド」とか「摩天楼はバラ色に」とか。映画から本、というパターンも増えて、中学生の時だったか「ネバーエンディング・ストーリー」を観て「原作があるらしい、しかも映画になっているのは原作の半分以下らしい」と聞いて、エンデの『はてしない物語』を読んで。あれって今思うとメタ小説ですよね。おそらくはじめてメタ小説のような仕掛けのある小説を読みました。図書館にあったハードカバー版で読みましたが、本の装丁からして仕掛けになっているんですよね。

――そうなんですよね、あれ感動しますよね。

葉真中:それがすごいなと思って。物体としての本の良さというのをあれで知りました。それでお決まりのパターンとして、エンデの『モモ』や『サーカス物語』を読んでいって。そんなふうに、映画から本、漫画から本というパターンが結構多いんです。もうちょっと先になって高校生くらいだったと思うけれど映画の『ミザリー』を観てスティーヴン・キングを読むというパターンもありました。

  • モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37)
  • 『モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37)』
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