第208回:葉真中顕さん

作家の読書道 第208回:葉真中顕さん

日本ミステリー大賞を受賞したデビュー作『ロスト・ケア』でいきなり注目を浴び、今年は『凍てつく太陽』で大藪春彦賞と日本推理作家協会賞を受賞した葉真中顕さん。社会派と呼ばれる作品を中心に幅広く執筆、読書遍歴を聞けば、その作風がどのように形成されてきたかがよく分かります。デビュー前のブログ執筆や児童文学を発表した経緯のお話も。必読です。

その3「ゲームブック、サブカル」 (3/8)

  • アーサー王と円卓の騎士―サトクリフ・オリジナル
  • 『アーサー王と円卓の騎士―サトクリフ・オリジナル』
    ローズマリ サトクリフ
    原書房
    1,944円(税込)
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  • 新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)
  • 『新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)』
    J.R.R. トールキン
    評論社
    756円(税込)
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  • ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙
  • 『ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙』
    ヨースタイン ゴルデル
    NHK出版
    827円(税込)
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  • はじめての構造主義 (講談社現代新書)
  • 『はじめての構造主義 (講談社現代新書)』
    橋爪 大三郎
    講談社
    821円(税込)
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――学校で薦められる古典的名作はいかがでしたか。

葉真中:国語の教科書に出てくる小説は、よく選ばれていますよね。子供相手だからといって舐めていない作品をぶっこんできているパターンが多いと僕は思っています。印象的なところでは宮本輝さんとかは教科書で知りました。でも当たり前ですが、自分で発見する本のほうに強く惹かれますよね。そうだ、中学生だった頃、ゲームブックも全盛期だったんですよね。ロールプレイングゲームができる本。「ソーサリー」とか「グレイルクエスト」というシリーズがあるんですけれど、一番好きだったのは「ギリシャ神話アドベンチャーゲーム」というシリーズ。アテネの王テセウスの弟という設定のアルテウスが活躍する三部作があって、すごい大冒険なんですよ。兄のテセウスがミノス王の宮殿で死んじゃって弟が復讐に行くという話です。そのミノス島まで行って、陰謀を乗り越えて、最後にミノタウロスをやっつけてお姫様を救い出すという冒険活劇が1部、2部で、第3部に『冒険者の帰還』というのがあるんだけれど、そこで突然ですね、「ミノス王を殺したお前は穢れている」「親族を殺した人間とは結婚できない」と言われてお姫様と結ばれなかったりして。故郷に帰ると故郷はもう滅ぼされていた、みたいな話になっていて、最後全然スカッとしないんですよ。それが強烈だなと思って。「なんだこの虚無は」って。終わり方がめちゃくちゃ心に残りましたね。まあ当時「虚無」という言葉は使ってないと思いますが、「ああ、こういう物語があるんだな」と。それから結構、ギリシャ神話にも興味を持ちました。これもまたフィードバックされるパターンなんですけれど、ゲームブックからギリシャ神話を読んだり、あとゲームブックの中にアーサー王とかエクスカリバーが出てくるから、『アーサー王と円卓の騎士』なんかを図書館で借りて、ファンタジー世界にちょっと触れました。もともとオカルト好きというのがあったから、そういうものとも相性は良くて、それで読んでいくといろんな本の中に必ず出てくる1人の男の名前がある。トルーキン。『指輪物語』の作者ですね。で、絶対読まなきゃと思って読み始めて途中で挫折するっていう。

――第1巻で、ですか。

葉真中:第1巻、「旅の仲間」の段階で「わ、読みづらっ。ごめんなさい、僕、これ無理です」って。『指輪物語』の最初の挫折というのが中学校の時にありました。

――最初の挫折というと?

葉真中:あ、都合3回挫折しているんです。で、結局、最後はピーター・ジャクソンによって救われました。

――ああ、映画化された『ロード・オブ・ザ・リング』、ってことですね(笑)。

葉真中:それと、中3の時から『VOW』を読んでサブカル趣味というのが始まりましたね。『VOW』って分かりますか。

――雑誌の変な誤植とか、町の変な看板とか紹介していた、あれですよね。

葉真中:そうです。あれに中学3年生の時に出会って、目から鱗で。世の中をちょっと端っこから眺めて面白がるみたいな姿勢ですよね。それがきっかけでサブカル趣味がはじまり、現在まで続いています。いろんな漫画とか映画とか小説とか、これまでなんとなく好きだなと思っていたものが、「サブカルチャー」という言葉でまとまるなと感じたんです。オカルトとも相性がいいですし。高校時代になると「宝島」も読みました。「Quick Japan」なんかはちょっと難しかったかな。高校生でそうしたサブカル文化に触れると、ちょっと背伸びしたくなるというか。難しそうな本も読んでみたい気持ちが芽生えました。太宰治を集中的に読んだのも高校生の時だし、あとは安部公房。太宰と安部公房は高校の時の現国の先生がすごく薦めていたので読んでみようかなと思って。当時僕は、安部公房は完全にホラー読みしていました(笑)。『砂の女』とか。

――旅先で砂に囲まれた家に閉じ込められて、出られないっていうホラーですか(笑)。

葉真中:最っ高。怖い。存在の不確かさみたいなのってある種のホラーじゃないですか。安部さんがずっと書いている世界ですよね。それと、こっちはドエンタメなんですけれど、さっき言った「ミザリー」を観てスティーヴン・キングに触れて、僕はいわゆるキング中毒にはならなかったんですけれど、そこから海外のエンタメ、思い出せるところで言うとジェフリー・アーチャーとかマイケル・クライトンあたりの小説、あと、今になって人に言うと笑われるかなと思うけれど、シドニィ・シェルダン。

――"超訳"という触れ込みでベストセラーになってましたね。

葉真中:大好きでした。その"超訳"という方法論がとんでもないものであるってことは当時の僕は知らないので、でも、今思い出しても話は面白かったと思うんですよね。あと、現代的なフェミニズムに通じるテーマや、宗教の話もあったりして。
 それと、「サブカルから入って背伸びしたくなる」の延長で、当時ベストセラーになっていた『ソフィーの世界』を読みました。哲学の話ですよね。面白く読んだか思い出せないんだけれど「俺読んでんだ」って言いたかったんだろうなと思いますね。その後で橋爪大三郎さんという学者の『はじめての構造主義』という講談社現代新書の本を読んで。現代思想みたいなものにもちょっと興味を持ちました。サブカル近辺の本ってそういう話が出てくるんですよ、構造主義がどうしたとか。

――ああ、ポストモダンとか。

葉真中:そうです、まさにポストモダン。構造主義の先にポスト構造主義があって、そういうようなものもちょっと触れました。そういう哲学的な要素と従来好きだったオカルトが若干僕の中で混ざっていて、サブカル文脈でいうとヒッピー文化とか、精神世界にも興味を持ったりして。思弁的、哲学的に物事を考えるっていうこととオカルティズムがやっぱり相性が良かった。当時、今はもうないんですが中野に「大予言」っていう古本屋さんがあって、これ、オカルト好きの人なら絶対に知っている本屋さんなんですけれど、ちょいちょい行って、面白い本がないか探して、とんでもない陰謀説の本とか見つけていました(笑)。

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