第209回:吉川トリコさん

作家の読書道 第209回:吉川トリコさん

2004年に「ねむりひめ」で第3回「女による女のためのR-18文学賞」で大賞と読者賞を受賞した吉川トリコさん。以来、映像化された『グッモーエビアン!』や、あの歴史上の女性の本音を軽快な語り口で綴る『マリー・アントワネットの日記』、そして新作『女優の娘』など、女性、少女を主なモチーフにさまざまな小説を発表。その作風に繋がる読書遍歴を語ってくださいました。

その4「短大で小説創作を学ぶ」 (4/7)

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――20歳で同棲の前に、高校卒業後、短期大学に進まれたんですよね。何を専攻されたのですか。

吉川:文芸創作学科というのができたばっかりだったんです。今もその学科はあるんですけれど名前は変わっていて、その1年生でした。で、小説の創作ゼミをとっていました。はっきり小説を完成させたと憶えているのはそこからですね。そこからは話を全部、完結させています。

――投稿は始めていないのですか。

吉川:「すばる」に投稿しました。ゼミの先生が清水良典先生だったんですよ。私がちょっとロックとかサイバーパンクっぽいSFを書いていたら、清水アリカさんを薦められたんです。その流れで、「すばる」がいいんじゃないって先生に言われて投稿しました。1回きりだけれど。

――創作学科やゼミの影響は大きかったですか。

吉川:何が大きかったっていうと、ゼミで扱う小説。名前を挙げると、角田光代さん、川上弘美さん、吉本ばななさん、松浦理英子さん、山田詠美さん。角田さんを始めて読んだのはその時で、いまだに本当に好きな作家さんです。『学校の青空』を読んだんですけれど、「女生徒」を読んだ時以上に、そのまま自分のことが書かれているような印象で、「あ、こんな小説がこの世に存在するのか」という驚きがありました。そういうものに出会わせてくれたことが一番大きかったなと思っています。それまでサイバーパンクみたいなものを書いていたんですけれど、角田さんに出会ったことによって、ただ本当にありのままの日常みたいなものを書いていいんだっていうことで、書くものがガラッと変わりました。

――周りは小説家志望の人は多かったのですか。

吉川:そんなにいなかったです。同じゼミでも「卒論より小説なら楽に書けそうだから」みたいな感じの子が結構いて。私、逆だったんですよ。「卒論じゃなくて、小説で卒業できる学校」というところがいいなと思っていました。ゼミは全部で10人くらいだったんですけれど、後は二次創作をやっていたような子が1人、2人いるくらいな感じでした。

――サイバーパンクみたいなものを書き、「すばる」に応募し...ということで、ご自身では小説のジャンルというものは意識されていましたか。

吉川:ああ、ゼミで純文学というものを教わったんです。ちょうど河出書房新社から「J文学」のブックガイドが出た頃で、それをガイドにしていた時期がありました。でも、自分で書くものについては意識していませんでした。
あ、でも当時、桜井亜美さんがものすごく流行っていたんですよね。私のエロを求める気持ちはまだ脈々と続いていたので(笑)、桜井さんとか、斎藤綾子さんとか、河出の文藝賞を獲った佐藤亜有子さんの『ボディ・レンタル』とか、赤坂真理さんの『ヴァイブレータ』とか。そのへんは嗅覚がすっごく効いて、「ジャンル・エロ」として追いかけてました(笑)。エロはすごく追いかけているから、私、本当に「女のための女によるR-18文学賞」で出るべくして出たんだな、って(笑)。

――ふふふ。吉川さんがデビューされたR-18文学賞は第10回まで、女性による性について描かれた小説を募集してましたよね。そう思うと、追いかけてい読んでいたエロも、女性が書いたものなんですね。

吉川:別に意識していたわけじゃないんですけれど、やっぱり女性が書いているもののほうが装丁がエッジが効いて格好良かったし、内容もわりとイケイケのギャルが主人公のものとかが多くて好きでした。エロと同時にギャルというものも追いかけていたので。

――では、ゼミで小説を書いて、卒論を投稿し、今後小説家を目指していろいろ書くぞ、という感じで卒業されたわけですか。

吉川:それが、「すばる」に投稿したものが箸にも棒にも引っかからず、その後すぐ同棲するから、しばらく恋愛アホ期というのがあって(笑)。家でずっと彼氏が帰るのを待っているみたいな状態があって、まったく小説も書かないし、本も読まない状態が2年くらい続きました。もうね、ずっと「結婚したい!」って。

――恋愛アホ期(大笑)。

吉川:なぜまた書き始めたかっていうと、パソコンを買ったからなんですよ。iMACを買ったのでホームページを作って、そこで小説を発表するんです。その時にはもう本当に完全に、自分が読んできた少女小説とか少女漫画、角田光代さんとか寄りの、本当に身近な、ほとんど今書いているものと変わらないようなものを書き始めていました。それを発表していたら、読んだ人が「送ってみたら」と言ってくれるようになって、「じゃあ送ってみようかな」と思ってまずコバルトに送って、それが1次通過だったのかな。その後すぐにR-18文学賞に送ったのが受賞しました。

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