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勝手に目利き
単行本班
文庫本班
「ディレクターズカット」
【講談社】
秋庭俊
本体 1,800円
2000/07
ISBN-4062101467

 
  今井 義男
  評価:B
  マンチェスターも相当なものであるが、新宿だって負けていない。競ってる場合ではないのだが本当は。「不夜城」でも描かれていたが、なんなんだこの街は一体。無法地帯か。人間が選択可能なありとあらゆる醜さがここにはある。けど真水ではないから毒だと括るのもフェアじゃない。東京はれっきとした国際都市である。人種の坩堝が嫌なら鎖国でもすればいい。もし新宿がこのまま犯罪都市として定着するのなら、東京ひいては日本がそれだけの器だということだ。無法地帯といえば、一見良識を装いながら催眠商法まがいの手管で、視聴者の知性を確実に衰退させているTV業界の実情も侮れない。もはやメディアによる立派なテロである。TV中毒よりも活字中毒のほうがよほど罪がない。

 
  原平 随了
  評価:D
  テレビ業界の内幕暴露を売りにしたミステリー。テレビ業界の傲岸で愚劣な本音の部分がグロテスクなまでに戯画化されていて(あるいは、超リアルに描写されていて)、読んでいて、実に痛快……、じゃなかった、実に不快。この作家、何かとんでもなく勘違いしてやしないか?
テレビの現状を告発してるつもりで、自らがそこにどっぷり浸っていることに、ぜんぜん気づいていない。撮影か救助か……なんて手垢にまみれたカメラマンのジレンマを後生大事に抱えていても、結局のところ、この主人公も、ただ居直っているだけ。夜の新宿百人町界隈の描写や、外人娼婦達の描き方などに丁寧さが伺えるだけに、何だかやけにしらじらしい一冊。

 
  小園江 和之
  評価:C
  フリーのビデオジャーナリスト北森京一が、テレビ局からの依頼で連続トランク詰め殺人事件の背景にあるコロンビア女性売春組織を取材するうち事件に巻き込まれていくわけなんだが、話のほとんどが新宿百人町を舞台に進んでいき、しかも視点がひょいひょいと変わるから延々とRPGのレベル上げをやってるような感じだった。後半になってからようやく加速がついてくるんだけど、とりあえずこんなに長くなくてもいいんじゃねえのとは思う。著者は元民放プロデューサーであり、テレビ報道の内情、海外紛争地へ派遣された特派員の取材の実態など、視聴者には知らされないバラシがばんばん出てきて、その点は痛快。それにしても「民度合わせ」とは耳が痛いな。ま、ほんとのことだからしょうがないけど、さ。

 
  石井 英和
  評価:E
  表紙の裏にあるTVに関する警句が痛快だったし、帯にも「テレビ報道の過激な内幕!」とあったので、その世界を鋭く捉えた小説を期待したのだが、そして確かにそんな始まり方をするのだが、すぐに「新宿外国人娼婦物語」というべき、非常に既視感のある物語にすり変わってしまう。そして終わり近くの数十ペ−ジ、舞台はまさかと思った外国に飛び「コロンビア国裏社会事情」の記述が行われる。その3つの「部品」で構成された小説とも言えるのだが、その3つが響き合わず異質のままつなぎ合わされている。また、最初に提示された「解かれるべき謎」があまり魅力的でないため、ペ−ジを繰るこちらの手が義務化してしまう。う−む、弱った・・・

 
  中川 大一
  評価:D
  内幕物や裏話、暴露本が好きだ。『噂の真相』も毎月熟読してる(^v^)  覗きみたいで我ながら上品な趣味とは思わないけど、面白いと感じるんやからしゃーないやんけ。
さて本書は、「元民放プロデューサーが書いた、魂を切り裂く傑作エンタテインメント小説」(帯の宣伝文句)。うーん、いいねえ、このベタな響き。さっそく読み始める。うん、業界物としてはうまい。「またぎ」や「パターン撮り」などの専門用語が自然に織り込まれ、いかにも軽薄なテレビマンのセリフ回しも決まってる。だが、小説としては……代名詞が何を指すのか、セリフの発言者が誰なのか、スッと頭に入ってこないときがあって少々つらい。後段の謎解きも説明調で俄に判然とはしない(私の読みが浅いのか?)。興味深い素材がつまってるだけに、惜しい!

 
  唐木 幸子
  評価:C
  ラストの凄みは素晴らしい。取材協力者のコロンビア女性を助けに百人町の路上を血まみれになって走る主人公の姿は迫力気力満点、、、、だが、途中経過には処女作長編ならではの綻びも目立つ。
場面や時間が変化する構成に凝り過ぎて、誰が視点かわかりにくいし、事件を沢山盛り込んで克明に書かれている割に、肝心の謎解きは説明調だ。また、登場人物のキャラクターも体制派か反体制派なのか曖昧で、私は1冊の中で何度か裏切られた。
実際の事件の現実や人間の行動とは、こんなふうに理由が不明で統一性のないことが多いのかも知れないが、小説なんだからもう少し親切に整理されておれば、と惜しい気持ちになった。この人でなければ書けない素材を沢山持っていると思うので、それを一気に吐き出さず、キャストやディテールを半分以下に絞って、短編を書いたほうが面白いのではないかと感じた。

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