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勝手に目利き
単行本班
文庫本班
「マジックドラゴン」
【マガジンハウス】
長屋潤
本体 1,600円
2000/07
ISBN-4838712340

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  小園江 和之
  評価:C
   競馬小説ということで、当初ちょっと引いてしまったが、まったくの杞憂だった。表題作はすこぶる爽快な物語で、競馬に関する知識が皆無の私にも十分に楽しめた。ネタバレになってしまうので、パフという名のサラブレッドは乗り手の夢見力で走る、とだけ言っておこう。本書には他に書き下ろしが三篇入っているが、そっちはちょっと不満あり。『ミラクルボーイ』はアルコールにおぼれた騎手の復活ストーリイだが、私には職業柄ちと引っ掛かるところがあるのだ。アルコール依存はそう簡単には治らないし、他の患者達が一斉に軽快しちまうのを「奇跡が起こった」で済ませちゃうのはいくらなんでも乱暴だと思う。逆に言えば、そこを気にしなけりゃラストでは気持ち良く泣けます。残りの二篇は可もなく不可もなくで、二勝二敗だからCランク。

 
  松本 真美
  評価:C
  う〜ん。以前行った乗馬教室や、昔、家の近くにあった福島競馬場を気持ちよく思い出しつつ読み始めたのだが、どの話にも今ひとつ乗れなかった。小説は、リアルでもファンタジックでもいいし、もちろんその中間だってかまわないと思うのだけれど、中間だからこそのさじ加減の難しさというのがあると思う。そのあたりが私には中途半端で、文章のリズム感もちょっと合わなかった。のめり込みかけてはハッと我に帰ってしまう、の繰り返しで。でも清涼感はすごくあった。中では「砂の匂い」が良かった。これはちょっと稲見一良っぽい、と思ったのは私だけ…かなあ。

 
  石井 英和
  評価:D
  とにかく、この病的な爽やかさ(?)は何なのだ?競馬の騎手の物語なのだが、著者の筆にかかれば、不遇の調教師からアルコ−ル依存症の騎手が療養のために入る精神病院から不倫話までが爽やかに描かれ、爽やかな解決を迎えてしまう。この世界に悪人は一人もいない。そして、皆の夢を乗せた馬は必ず一着で入る。圧倒的な感動とともに。馬さえ走れば病は癒え、道に迷った人は再び笑顔で歩き始める。ちょっと待ってくれ。人生は、こんなにうまい話だらけなのか?「そうだ!」と著者は、爽やかに蒼天を見上げて言うのだろうが。しかし人生、逆に退屈ではないのか、こんなに次々に夢がホイホイ叶ってしまっては?

 
  中川 大一
  評価:C
  【ちょっとネタばれ注意】善人ばかりが登場する。悪人もちょびっと出てくるが、極度に類型的でリアリティはない。事態はばたばたっと好転し、最後はハッピーエンド。そう、これはお伽話の感触だ。この本はお伽話のように楽しむべきなのだ。例えば、私は船戸与一のファンだが、あの人の話しは登場人物皆悪人で、始終殺し合いをして最後はほとんど誰も残ってない。でも、すべての小説に、社会の暗部をえぐったり人間の醜さを暴いてもらう必要はない。本書の読み心地は、船戸与一の世界を、手袋を裏返すように反転させたみたい。一服の清涼剤、さわやかな読後感。「坊っちゃん文学賞」受賞作らしい青春文学。時にこういうのもいいよね。なお、4篇とも騎手や競争馬が主人公になっているが、読むのに競馬の知識は全然要りません。

 
  唐木 幸子
  評価:B
  坊ちゃん文学賞を受賞した表題作も書き下ろし3作も、余計な表現がなくてテンポが良く、競馬のことを知らなくてもワクワクする。この著者は多少、女性心理に疎いのでは?と感じるけれど、それがかえって好もしい。
最後の『砂の匂い』は作品としては最も完成度は低いのだが、その反面、一番、感動した。息子の競馬学校受験に反対していた父親が、面接では一転して土下座して泣く場面では、久しぶりに読書中に落涙してしまった。どうも最近、私はこういうのに弱い。
細かいことを言うようだが、『ミラクルボーイ』に出てくる、重度アルコール依存症患者の離婚後4年以内の「生存率」は、「8割が4年以内に死ぬ」のなら20%だろう。(文中は80%。8割なら死亡率と言うべき)それにしても大酒飲みの男って、妻が去るとこんなに死ぬとは驚きだ。

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