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松本 真美の<<書評>>

「マンチェスター・フラッシュバック」
評価:C
スピード感のあるタイトルに、パンクでハードな内容…なのになぜか静的な印象、性的じゃなく。映画『シドアンドナンシー』を彷彿。主人公が16才から「燃えつきた男」を演じざるを得なかった背景があいまいだが、何でもかんでも過去のトラウマで片付けようとする昨今の物語の風潮にあっては、この時代までは、世相や宗教観というものがティーンエイジャーのアイデンティティーを凌駕しちゃう不気味さをかろうじて持ち得ていたのかも、と逆に新鮮に感じられた。黒いだけで充分暗いのにダメ押しの「暗・黒」小説。元気じゃないときの読むと自分を持ってかれそう。

【文春文庫】
ニコラス・ブリンコウ
本体 657円
2000/07
ISBN-4167218690

「のら犬ロ−ヴァ−町を行く」
評価:B
リューインが犬の物語を書いた-とあらば、パウダー警部補好きで犬好きな人間には期待するなという方がムリ。毎晩、寝る前に1個ずつ大切に読みたくなるような逸品集。話のおさまりが良すぎて逆に物足りないとか、一歩間違えばすごく説教くさいとか、猫派をここまで敵にまわしてどうする?と思わないでもないが、とりあえず気持ちよく術中にハマった。「怒り」という章の中の「私にはどうしても人間が理解できない」の一言が妙に残った。最近、あまりにそう思うことが多いからかも。訳が上手いなあと思う。挿し絵も○。

【早川書房】
マイクル・Z・リューイン
本体 1,900円
2000/06
ISBN-4152082879

「DIVE!!」
評価:B
無垢でまっすぐで底知れぬ才能を秘めているらしい主人公に、天才肌のライバル、そして型破りなコーチの出てくるスポコン物語--とくりゃあ、一見、手垢にまみれた世界みたいだが、登場人物ひとりひとりの姿と心理がとても生き生きと描かれているので心地よく読めた。特に主人公の描き方は好み。「放課後の練習でくたくたになった中学生を待たせても化粧の手はぬかない。ここだ、この女の信用ならないのはこういうところだ」あたりの描写が秀逸だと思う。お決まりの展開のようで意外と先が読めない…というか、薄々展開がわかってもそれが全く欠点に感じられないのは作者の力だと思った。続きが楽しみ。

【講談社】
森絵都
本体 950円
2000/04
ISBN-4062101920

「あやし 〜怪〜」
評価:B
宮部みゆきの手にかかると、奇談ホラー小説もどこか清廉。いちばん怖かったのは透かしの入った中表紙かも。的確でよどみない文章の流れは、江戸前の歯切れのいい落語家あたりが朗読したらとっても映えそうな気がする。聴いてみたい。でも、深夜のラジオドラマで「蜆塚」なんかを偶然聴いてしまったら、やっぱり相当に怖いだろうなあ。裏切られない安心感で一気に読み切れる短編集。いつのまにか作者は熟練工になったのだなあと思った。最初からか。じっくり腰を据えて時代小説が読みたくなった。

【角川書店】
宮部みゆき
本体 1,300円
2000/07
ISBN-4048732382

「マジックドラゴン」
評価:C
う〜ん。以前行った乗馬教室や、昔、家の近くにあった福島競馬場を気持ちよく思い出しつつ読み始めたのだが、どの話にも今ひとつ乗れなかった。小説は、リアルでもファンタジックでもいいし、もちろんその中間だってかまわないと思うのだけれど、中間だからこそのさじ加減の難しさというのがあると思う。そのあたりが私には中途半端で、文章のリズム感もちょっと合わなかった。のめり込みかけてはハッと我に帰ってしまう、の繰り返しで。でも清涼感はすごくあった。中では「砂の匂い」が良かった。これはちょっと稲見一良っぽい、と思ったのは私だけ…かなあ。

【マガジンハウス】
長屋潤
本体 1,600円
2000/07
ISBN-4838712340

「深爪」
評価:D
タイトルが妙に色っぽいが、私は視野が狭いからか、この手の性愛ぶりにどうも腰が引けて、ゆえにかろうじて感情移入できたのはマツキヨの章だけだった。映像化されたら大江千里あたりに演って欲しい、別にファンじゃないけど。私はビアンのけと想像力がないからか、吹雪はとことんわからん女だった。「大人がこんなんじゃ子どもがかわいそう」なんて良識派ぶるわけじゃないが、嵐はすごく不憫。偏見だが、なんだか、障害や無理解がある分、同性間の恋愛は異性間のそれより純粋だ、と声高に叫ばれてるみたいで、恋愛の純粋さはすべからく覚悟の量で決まると思う私にはちょっとうるさい話だった。

【朝日新聞社】
中山可穂
本体 1,500円
2000/08
ISBN-4022575271

「パヴァーヌ」
評価:C
中盤までは睡魔誘発本だった。歴史の何かが少しズレたら実在したかもしれない路上蒸気車や信号塔の描写は濃く深いと思ったが、わくわく感は誘発されなかった。が、第六旋律あたりから面白くなり、終盤はパラレルワールドもの特有のせつなさを堪能。人生は意味のない孔雀の舞のステップのようなのか、意味の集まりの糸で織り上げられた布なのか…はたしてどっちだ?物語の軸となる、教会の弾圧とそれのもうひとつの意味とか、時空を超えた「古い人々」の存在はさすがにスケールがでかく、こっちまでちょっと歴史を俯瞰した気にさせられた。

【扶桑社】
キース・ロバーツ
本体 1,429円
2000/07
ISBN-4594029434

「骨の袋」
評価:B
アメリカ版貞子ストーリー(?)だが、さすがキングというべきか、いかにも大スクリーンが似合いそうなスケール。前半はノレず、中盤からのめり込み、終盤はくたくたになり、最後にようやく息がつけた。よく考えるとけっこうシンプルな話なのだが、夫婦愛や親子愛、アメリカの作家の生活や勢力分布図、閉鎖的な土地の不気味さと交錯した過去、複数のゴーストの意思表示描写とバイオレンスぶり、等々、多彩な肉付け満載で、こちらに飛び込んでくる活字の圧倒的な勢いに溺れそうになった。これが筆力っていうものか。疲れた。深い意味があるとはいえ、タイトルが今イチ。

【新潮社】
スティーヴン・キング
本体 (上)2,800円
(下)2,700円
2000/07
ISBN-4105019058 / ISBN-4105019066

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