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    「フォー・ユア・プレジャー」
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    【講談社】
  柴田よしき
  本体 1,800円
  2000/08
  ISBN-4062097974
 

 
  今井 義男
  評価:A
  ミステリに何を求めるか。それによってこの作品の評価は分かれる。謎のスケールは小さい。ハードボイルドにしては今ひとつ物語に深みがないような気も。ではつまらなかったのか、と問われればそうではない。昨今流行の<魔都・新宿物>にあるまじき軽さである。その点だけでもすごい。主人公の花咲は類を見ない好人物だ。にこにこ保育園スタッフ一同の奮闘ぶりも賞賛に値する。思わず寄付したくなった。知人もこぼしていたが保育の実情は本当に大変なのだ。花咲が命を賭けて園を守るなら、私も末永く応援することに決めた。借金完済を目指して前進あるのみだ。瑣末なことだが、そこかしこに挿まれる洒落た台詞回しが無粋な私には据わりが悪かった。それと、誰の責任でもないが、私は『走れメロス』が大嫌いだ。

 
  小園江 和之
  評価:A
   なにかというとトラブルを呼び寄せてしまう不運な人というのがいるようで、本書の主人公もそのひとり。で、事件が起こり何人かが死ぬんだけども陰惨さはまったくない。主人公は言うにおよばず、端役にいたるまでがちゃんと呼吸しており、ともすればへたり切ってしまいそうな気持ちを立て直しながら、それぞれにこけつまろびつ前に進んでゆく様子がそこはかとなく可笑しくて哀しい。もっとやりきれない事件がてんこ盛りの現実世界だからして、せめて小説くらいは気が滅入るような後味のものは読みたくねえなあと思っている私にとってこれは御馳走。エピローグでは脇役の意外な正体に口あんぐり、そしてラスト数行でじぃんと温かいものがこみ上げる。ことさらにインパクトのある言葉をちりばめなくても、読み手を飽きさせず、はらはらさせ、楽しませることが可能という見本のよう。トリックはわりかし単純なんだけど気にならなかったのは、私が謎解きそのものを楽しむタイプではないからだろう。

 
  松本 真美
  評価:A
   花咲探偵に再会したいとは思っていたが、こんなに早くお目にかかれるとは!しかも新作が次々出ているのに前作より面白いとは!恐るべし、柴田よしき。  とにかく話の流れが心地よい。ヘンにリアリティに走らず、予定調和を恐れず、いかに読み手が無意識にページを繰れるか、に徹底しているのがいい。読みやすい。何だか最近この「読みやすい」ってことが、自分にとっての小説の評価に直結しているようで気になるけど。それと、私の中で柴田よしきは近頃どんどん樋口有介化していることを新刊採点員M氏を気にしつつもここできっちり申し述べたい。(私は氏に樋口有介の話をしつこくふって「もう勘弁して」と言われた。よほどしつこかったらしい)ヨシキとユースケの共通点は、潔く軽いところ。自分の世界とファンサービスを自然に無理なく融合させているところ。一ファンの勝手な願いとしては…ずっと化けないでいてネ。あ、内容に全然触れてないや。

 
  石井 英和
  評価:E
   何だ、この主人公は?悪場所に自堕落に身を沈める、過去ある私立探偵である彼は、その一方で保育園の良心的な経営に心をくだく。そこまでは新趣向の範疇としても?別れた女房と突然の再会をした彼の胸をよぎるのは、情けなくも、始めてガ−ルフレンドの手を握る中学生の想いの如きものだ。他に彼の関心事は、夫婦における家事の分担かくあるべしとか、有閑マダムの昼食事情。要するに彼、根っから探偵稼業よりも「サザエさん」の登場人物の方に適性があるオバサン気質なのだ。そんな彼が「ハ−ドボイルド」を気取るのだから、まるでワサビの代わりにチョコレ−トを握りこんだ寿司を食わされたようで、口直しにキリッと骨っぽい小説を猛烈に読みたくなった。また、説明的な会話が延々と続く場面も多過ぎる。

 
  中川 大一
  評価:B
  話し言葉を地の文に滑り込ませた軽妙な文体が、テンポよく物語を運ぶ。主人公の表稼業は保育園の園長、裏は私立探偵。赤ん坊のいる風景と銃のある世界。ヘタすりゃ漫画、バラバラになりそうな設定だが、二枚の歯車は、間に挟まれた主人公にギリギリ刻みを入れつつうまく噛み合ってる。一つだけ指摘すると、107ページと215ページとの間で、「乱交」の有無について記述に矛盾がある。それにしても、主人公を阪神ファンにすると、どうしてこうコミカルなダシが効いてくるのか? 巨人ファンじゃあこうはなるまい? やっぱ、関西ってこういう役回りなんだなあ。三枚目のお調子者。ところで、私は近鉄ファンです(誰も聞いてないって)。作者のウェブサイトはhttp://www.ceres.dti.ne.jp/~shibatay/ 女性だったんだね。

 
  唐木 幸子
  評価:B
  元刑事の保育園園長にして私立探偵の花咲慎一郎の正義感あるキャラクターが実に好感が持てるが、彼が命をかけて救い出そうとする最愛の女性、理紗が人の世話になりっぱなしの女性で、なんだこいつ。元妻の弁護士・麦子や女医の奈美の方がずっと良い女なのになあ。まあ、世の中、そういうもんだけど。この著者のホームページを覗いたら、私と同じ40代女性だったのでビックリ。どうりで保育園の話や赤ちゃんの世話など真実味があるわけだ。でも一切のオバサン臭のない切れ味にはつくづく感心した。同僚殺しだという花咲の背景が未だ全部は明らかにならず、今回は顔見世で登場した感じの過去の愛人等もいるので、これからシリーズ化されるのだろう。このまま土曜ワイド劇場に持っていかれそうな気もする。

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