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    「ビタミンF」
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    【新潮社】
  重松 清
  本体 1,500円
  2000/08
  ISBN-4104075035
 

 
  今井 義男
  評価:A
  親子の間に悩みの種は尽きない。気を使っても無視しても面倒は必ず起こる。ゆめゆめ、何でうちの子だけが、などと考えないように。大事なのはそのトラブルが自分たちの手に負えるか、否かの見極めだけだ。夫婦間もまたしかり、波風が立って当たり前。年がら年中、茶の間でべたべたしている家族なんて不気味でしょうがない。全員が別々の方向を見ていたって一向に構わないし、ことさら干渉もしない。それぐらいのスタンスで生活する方が気楽だが、世間ではそうもいかないらしい。避けて通れない問題に直面して当惑する家族の物語が七編。拍子抜けするものから、身につまされるものまで色とりどりで飽きさせない。「セッちゃん」は読んでいてとてもつらく哀しかった。誰かが繕うことによって平衡が保たれている風景は痛々しい。

 
  原平 随了
  評価:C
  描き込まれたディティールの一つ一つ、セルフの一言一言にリアリティがあり、説得力がある。気が弱くて、イジメにあっているらしい息子を気づかいつつ、いらだちも感じてしまう父親のやりきれない気持ち、中学生の娘が、もう既に性体験を持っているかもしれないと悩む父親の複雑な気持ち……、どの話も、うん、それって解るヨと頷きたくなる、そんな切実さに満ちている。ところが、そんなリアリティあふれる細部が集まって一編の小説に仕上がった途端、どうして、こんなにも急に気持ちが引いてしまうのだろう。もしかして、こっちがひねくれてるせい? と自問しつつ、お話をまとめ上げるこの作家の、たまらなく優しい眼差しやその手つきが、ひねくれ者の目には、何だかひどくしらじらしく映ってしまうのだから、しょうがないではないか。

 
  小園江 和之
  評価:C
   仕事人と家庭人の折り合いがうまくつかない人、うまくつけようと頑張ることでうまくいかない人、折り合いをつけることに最後の抵抗を試みる人などなど、様々なケースが描かれるがどのお父さんもみんな健気で痛々しい。なかでも『はずれくじ』は自分の姿をみせつけられるようで読むのが辛かった。『セッちゃん』は既視感を覚えるものの語り口がよくて引き込まれ、ラスト一行に胸を灼かれてひりひり。 ところで、『かさぶたまぶた』のお父さんが「トイレの中でズボン脱いでウンチするのは一人前の大人じゃない」って意味の告白をするくだりがあんだけど、そんなこと誰が決めたんかいな。あたしゃ駅のトイレでも下半身すっぽんぽんになって用を足してるぞ。だって長持ちするでしょ、パンツのゴムが。

 
  松本 真美
  評価:C
   うまい!うま過ぎ!7編ともどれも着眼点が今で、身につまされ、展開も自然、尚かつそこそこ意外で、間や比喩も申し分なく、着地も嫌らし過ぎず、ホロっとしたり苦かったりするが後味は悪くない。ある意味、悪口の言いようがない。 重松清、前は好きだった。ただ、遡って読んだ初期の一作が引っ掛かった。それは自分が似たような経験をした題材の小説だった。「もっともらしいけど、いかにもわかってそうだけど、違う」と思った。以来、素直に読めない。今回もどれもおさまりが良すぎる気がした。日々動いている世界を描いたわりに破綻がない。「パンドラ」とか特に。破綻がなくて文句を言われるのも心外だろうけど、多少とっちらかっていても、心を揺さぶられる小説が私は好き、感心系じゃなく。

 
  石井 英和
  評価:C
   で、これを読んだ私にどうしろというのだ?心の底にちょっぴりだけど温かいものでも感じ、「人生、捨てたものでもないかも知れない」とか呟き、本を閉じろというのか?私には出来ない。「家族」をテ−マに、人生の哀感を様々に切り取ってみせた連作。が、そんなにそつなくまとめられてたまるか、との反発が、どの作品の読後にも残ってしまう。「後記」で著者は、「お話の力を僕は信じていたのだろう」と述べているが、それが、いつの間にか「お話」を巧妙にまとめあげる自分の手腕への陶酔儀式と化した嫌いはないだろうか?ただ一作、もっとも発表時期の早い、ひょっとしたら、この連作の原点かと思われる「セッちゃん」に、生の血が通うのを感じたため、評価を一つ上げておいた。

 
  中川 大一
  評価:C
  私は37歳である(誰も聞いてへんで)。妻子持ちだ(聞いてへん、ちゅうのに)。サラリーマン生活15年(しつこい!)。つまり、この小説集のうち3篇ほどの主人公とほぼ同じ境遇にあるわけだ。だから、我が事のように感情移入してしまった。まあ、娯楽小説としての仕掛けには欠ける。暗殺者も腕っこきの刑事もタイムマシンも超能力も妖怪も出てこない。たとえるなら、陶器に入った一筋の罅(ひび)をそっと指でなぞってみる、そんな感触だ。家庭内暴力・離婚・いじめ・オヤジ狩り、が登場するが、いずれも深刻なものではなく、家族がばっくり割れてしまうことはない。起伏に乏しい気もするが、それでいいんだろう。作者が調製しようとしたのは即効性のある抗生物質じゃなくて、ビタミンなんだから。

 
  唐木 幸子
  評価:A
  『小説新潮』に連載された短編7編。どの作品も重松清ならではの心に沁みる話立てだ。特に『セッちゃん』がせつない。中学生の一人娘は優等生で明るい性格。娘によると、同級生セッちゃんがクラスでイジメにあっているらしい。が、その話の裏の真実を思いがけなく父親は知ってしまう、、、。  私、少女時代についた苦しい嘘を沢山思い出してしまった。ああ、この著者、少女の心も描けるのだ!でも、私は『小説現代』連載系の、定年前後の疲れた寂しい男や小学生の男の子が主人公の方が好き。本書の主人公たちは、まだ自分にも他人にも仕事にも家庭にも恋愛にも未練がある30〜40代。子供も成人していない。同世代の私としては、身につまされ過ぎて読んでいて辛い辛い。この本、ビタミンFというよりダイエット中に食べてしまった甘いお菓子という感じだった。

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