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      「コフィン・ダンサー」

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    【文藝春秋】
  ジェフリー・ワイルズ・ディーヴァー
  本体 1,857円
  2000/10
  ISBN-4163195807
 

 
  今井 義男
  評価:A
  リンカーン・ライムは科学捜査の創始者、ジョン・ソーンダイク博士の正統な後継者でありながら安楽椅子探偵の嚆矢、隅の老人の進化形でもある。実際にはちっとも<安楽>ではないのだが。無駄口はさておき、褒めにかかることにする。まず、次々に繰り出されるライムの科学知識に圧倒された。生体であれ死体であれ、人間の遺留する物質が示唆する情報量の広汎さには驚くばかりだ。知性の塊ライムと天才的殺人者<ダンサー>の頭脳戦は最後の最後まで予測不可能だ。どうせこのままでは終わるまいとは思っていたが、案の定の強引きわまる戸板返しについ頬が緩む。助手のアメリアや千変万化の捜査官デルレイも魅力的だが、相変わらず敵役がいい。前作の『悪魔の涙』同様、壊れかけた殺し屋に強く惹かれるという性癖をまたもや露呈してしまった。

 
  原平 随了
  評価:D
  ああ、やっぱり、まただよ、このオチはないんじゃないの。……と思わずそう呟いてしまう、評価:Dとしかつけられない、にもかかわらず、サスペンスたっぷりのおもしろ本が、この『コフィン・ダンサー』である。
前回、腹立ちのあまり、『悪魔の涙』に、評価:Eをつけてしまい、すぐ後悔して、Dに訂正したという経緯があるのだが、実を言えば、ディーバーは、以前からお気に入りの作家の一人であり、第一作からきちんと追いかけているのだ。更に告白すれば、最初の頃は、ディーバー作品のオチの見事さに、どっぷりはまっていた。とは言っても、せっかくのストーリーをぶち壊しにしてしまうような、驚かせることだけを目的としたドンデンには、もう、うんざりなのである。
今回、評価:Eとしないのは、リンカーン・ライムとアメリア・サックスとの微妙な関係を描いていて、その部分が光っていたから。と言うか、オチ以外は、どの部分も抜群におもしろい。
つまらんドンデンにこだわったりせず、ディーバーには、ぜひぜひ、ストレートなミステリーを書いてもらいたい(ストレート過ぎるのも困るが)。でも、きっと、それじゃ、売れっ子作家にはなれないんだろうな。

 
  小園江 和之
  評価:B
   頚椎損傷四肢麻痺の科学捜査専門家リンカーン・ライムと美貌のニューヨーク市警巡査アメリア・サックスのコンビが神出鬼没の殺人鬼を追いつめる話です。おしまい。てなわけにもいかんのだろうが、なにせ追われる側のことを書くとネタバレだからね。基本設定は先月の『悪魔の涙』と似てるんだけど、こっちはややスピードが落ちる感じ。でもその分、ライムさんチーム内の微妙な感情のやりとりが書きこまれていて、じいんとくるものがある。ただし「表の」殺人鬼に関しては『悪魔の涙』の〈ディガー〉のほうが圧倒的に怖い。本作のそれは、あれほど無機質かつ硬質なキャラではない。面白かったけど、もうちょっと短くてもいいかな。

 
  松本 真美
  評価:A
  まんまと翻弄された。憎たらしいほど策士だ、ジェフリー。
『ボーン・コレクター』も先月の『悪魔の涙』も最後まで気が抜けなかったが、これもかなり強者。本来、頭脳戦モノは好きじゃない…というか、よく途中で展開に置いて行かれるので敬遠しがちなのだ、私。でもこの作者がスゴイのは、あんまり頭が良くない読み手もわかる…というかわかる気にさせるところ。リンカーンもアメリアも弱さを含めキャラが際立っているし、犯人も平面的な描かれ方じゃないので読ませる。スピード感も心地よい。今回はパーシーもいい味出してた。デンヴァー着陸の描写はめちゃくちゃスリリングだった。
でもなぜか「好きな作家」に挙げたくない。なんでだろう。出来過ぎだからかな。

 
  石井 英和
  評価:A
   オマケでAにしたが、ちょっと、すっきりしない。「悪魔の涙」では、クルクルめくるめく境地に誘ってくれた終盤のどんでん返しが、今作では逆に足を引っ張って、着地で失速の感あり。最後にそんなせせこましい話をされてもなあ。まあでも、全体としては面白かったんで。変に「人間を描く」悪癖もなし、登場人物は精力的に動き回り、座り込んでの説明的な長話などもせず(犯人を追う側のリ−ダ−は、脊椎の損傷で身を動かすのもままならない状態なのにもかかわらず!関係筋は見習って欲しい)犯罪をあくまでもメカニックに断ち割る世界観もカッコ良い!それにしても、この著者の描く「犯人」のキャラクタ−は、毎回、魅力的だ。「悪魔の涙」の。カチッ。ディガ−。には、かなわないが。

 
  中川 大一
  評価:A
  浜やんがなかなか課題図書を送ってこないので、近所の図書館に出かけた。そこで本書を検索してみたら、予約待機者12人だって\(◎o◎)/!= さすが映画化された『ボーン・コレクター』の続編、これじゃ年内には借りられないよ。すごすご。まず、巻頭の「つかみ」がうまい。読者の予測に軽く蹴りを入れつつ、一気に物語に引きずり込む。「ダイ・ハード3」の感触。あとはもうドラマティックな展開の連続、息つく暇もない。細かく見るとご都合主義の部分もあるんだろうが、考えてるうちに「どかん!」と事件が起こるから、とにかくページをめくっちゃう。ちょっとサービスしすぎの気もするけど。これだけの人数を登場させながら、ノッペラボーの端役ってのがいない。ほとんどの人物にそれらしい性格づけをほどこし、きっちり書き分けている。私ゃ二丁拳銃のベル刑事ってのが気に入ったよ。いやー、先月は『悪魔の涙』をB級映画だなんて言ってすまなかった。今回はハリウッド超大作へ、二階級特進!

 
  唐木 幸子
  評価:A
   先月、『悪魔の涙』を読んでいなかったら、このスト-リー全体を覆う独特の不気味さと、前半のもどかしさ、後半の息苦しいくらいの激しい展開に、これはすごい!イチ押しだ!と思ったかもしれない。
 でもなあ、余りにも『悪魔の涙』と似ているのだ。ぞっとするくらいの使命感を持ってターゲットを狙いこむ殺人鬼の異常なキャラクターも、2重3重に待っているドンデン返しも、策略の奥にいる真犯人の意外さも。もっと時間が経って『悪魔の涙』の衝撃を忘れた頃に読んだ方が良かったかも知れない。
 それに、本作の主人公の車椅子の元刑事ライムより、『悪魔の涙』の筆跡鑑定人キンケイドの方が人間性が魅力的。 、、、、というわけでイチ押し落ちだけど、やっぱり凄みのある1作だ。この書評を書き終えたら観ようと思ってボーン・コレクターのDVDを買ってあるので、さっきからもう、ワクワク。

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