年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
      「炎の影」

一覧表に戻る



商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
 
    【角川春樹事務所】
  香納諒一
  本体 1,900円
  2000/10
  ISBN-4894569035
 

 
  今井 義男
  評価:E
  これほど心に何も残らない小説は久しぶりに読んだ。けなすことは本意ではないので、いっそ読まなかったことにしようかと思ったぐらいだ。血肉の通わない人物造形は人情を前面に押し出そうとすればするほど寒々しく、まるで半端者の主人公に迎合するかのような粗雑で緊迫感のないストーリーには、一行たりとも楽しめる部分はなかった。作者はこれだけの枚数でいったい何を描きたかったのだろう。別にたいした事のない過去をうじうじと引きずる者たちの安っぽい再生の物語? それなら作者の意図は大成功だが、この小説を正統に評価する能力は私には備わっていない。重箱の隅をつつくようで気が引けるけれども、同じ文章表現が何度も何度も何度も繰り返されていたことも非常に鬱陶しかった。

 
  原平 随了
  評価:D
  誠実なハードボイルドとでも呼ぶべきなんだろうか。その書き方にはとても好感が持てるのだが、いかんせん、小説としてのコクとか深みといったものが致命的に欠けているように思う。
主人公の男は、背中にモンモンを背負ってしまったことのそれなりの屈折を囲ってはいるものの、居心地悪い故郷の田舎町にとどまり、警官であった父親の不審な死の原因をがむしゃらに探っていくキャラクターとしては、あまりにも薄っぺらで役不足である。主人公の胸の内を占める父親像もまた、ひどく類型的で、この長い物語を引っ張るほどの力を持ち得ていない。
ヒロインにも、大した魅力は感じられず、母親や、その他脇役も同様で、役者不在のままでお話の筋立てだけがただ空しく進行していく、そんな印象を最後まで拭うことができなかった。

 
  小園江 和之
  評価:C
   はじめはお決まりの新宿暗黒関係モノかとげんなりしかけたけど、じつは高崎・伊香保周辺が舞台の活劇小説でした。なんていうか、淡々と物語を読み取っていけばそのまま楽しめる感じで、安心感のあるつくりではあります。だけど「めちゃくちゃ面白いか?」と言われると「はいっ」と言い切る自信がないんですよ。裏社会の片隅で生きる、タフでこわもてだがどことなく人のよさそうな男が主人公、という設定で全体の雰囲気が分かったような気になったからでしょうか。無駄な登場人物は出てこないし筋立てもほどよく起伏があり、ラス前もちゃんと盛り上がるんで、この長さでも飽きてしまうようなことはありませんでした。ハズレでないことはたしかだと思うんですが…私が読書ズレ? してるんでしょうかね。

 
  松本 真美
  評価:C
  香納諒一は『梟の拳』と『幻の女』しか読んでいないが、この二作、私の中で印象が全く違うので今回はどうかなあと思ったが、また違った。たまたまなのか、意図的に色を決めないのか、私だけがそう思うのか…。別にいいんだけど。
ツボを押さえた父子小説だとは思ったが、○○ってのが××だろうというのはニブい私にもよめたし、主人公が驚くたびに口にしまくる「なんだと…」には激しく違和感。今の30才、いくら盃酌み交わす職業でも言うかな普通?それと、恵子が公平に惹かれる過程が全く描かれていないので、なんだか急にデキちゃってビックリ。そんなにいいか公平?私はあんまり。実は初恋の人だったから?…って誰に聞いてるんだ、私。

 
  中川 大一
  評価:C
  ヤクザのくせに正義漢の主人公。はしっこい舎弟と度量のある兄貴。昔気質で頑固者のお袋さん。ヒロインは、過去に何やら因縁を持つらしい芯の強い女。湿っぽいナニワ節だなあ。でも、嫌いじゃないんだな、これが。パターンかもしれないがみんないい味出してるよ。特に、舎弟のアキラが去るシーンは泣ける。でもこの主役、自分は頭が悪いから身体で勝負、なんて言ってるわりに、始終「あっ」とひらめいちゃあ真相にぐんぐん近づいていく。ずるいぞっ、切れ者のくせにアホのふりするなんて。読者がついていけないじゃないか。最後に、とっても書きにくいことなんですけどぉ……76ページの「外陰茎」って、「大陰唇」の間違いじゃないのかね。ストリップの場面だぜ? 本年度の誤植大賞に決定?

 
  唐木 幸子
  評価:B
   父親の死に不審を抱いた公平が自らの危険も省みず、暴力団の企みの中枢へと迫っていく。と言っても、公平も賭博場の用心棒なので、王道を行くような清く正しいヤクザ物語なのである。
 公平の兄貴分の景浦という幹部が冷徹さと温情を併せ持って格好良いし、弟分のアキラもチンピラなりに根性モンで公平を慕う気持ちも素直だ。こういう人間関係があるのも、公平が単に腕っ節が頼りの単細胞ではなくて、権力に屈せず策略を見逃さない正義漢だからだ、、、というような人間模様は心に沁みるのだが、いかんせん、話の進みが遅い。台本通りに話が進むのをひたすら読み続ける感じだ。また、ストーリーの根幹が土地取引きだったりするので、ちょっと話が小ぶりに終わるのが残念だ。

戻る