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松本 真美の<<書評>> |
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「子供の眼」
評価:B
とにかく、リッチーの憎たらしさったらない!あんまり不愉快で前半で読むの止めよ うかと思った。今年読んだ本のキング・オブ・ヤなヤツだ。
一方、後半、特に「公判」は一気。陪審員になった気分で証言のたびに翻弄された。『罪の段階』もそうだったが、こういう小説を読むたびつくづく思うのは、アメリカって、ああ言えばこう言う揚げ足取りの国民性だなあってこと。真実なんて二の次なんじゃないの?面白いんだけど、どこか激しく間違っている気もする。そういう意味ではとんでもない女だよな、キャロライン。「大草原の小さな家」のキャロラインはつましい母さんなのに…って関係ないですね。
父子小説としては前作の方がよかったが、「子供の眼」の章、タイトルに二重の意味があって面白かった。でも読後、ちょっと疲労感。
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【新潮社】
リチャード・ノース・パターソン
本体 3,200円
2000/09
ISBN-4105316028 |
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「ジャンプ」
評価:A
この、せつなくてやるせなくていとおしくて後味が悪くて心地よくていらいらしてすっ きりする読後感はなんだろう。とにかく、この後しばらく他の本を読みたくなかった。
新刊採点本の中の1冊として出会ったのが残念、と思ったくらい。
『Y』もそうだったが、これもif小説。毎日の暮らしには無限の分岐点あって、意識的にも無意識にも、それをセレクトし続けることが人生っつうもんなんだろうけれど、ふと過去のある分岐点の自分を振り返ったときに感じる気持ち、もしかしたらこの小説の読後感と同じなのではないか。そしてそれを引きずりながらも、人は正解の見えない日常を生きるしかないのだ、時にジャンプ願望を抱きながらも…なんてな。ちなみに、私は粘着質、且つ諦めの早い人間なので、何かを選んで後悔したとき、よく「ちぇっ!違う道を選んだパラレルワールドの自分は今頃よろしくやってんだろーな。今に見返してやる!とりあえず次行くぞ、次!」と思う。…ヘンですか?
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【光文社】
佐藤正午
本体 1,700円
2000/09
ISBN-4334923240 |
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「コフィン・ダンサー」
評価:A
まんまと翻弄された。憎たらしいほど策士だ、ジェフリー。
『ボーン・コレクター』も先月の『悪魔の涙』も最後まで気が抜けなかったが、これもかなり強者。本来、頭脳戦モノは好きじゃない…というか、よく途中で展開に置いて行かれるので敬遠しがちなのだ、私。でもこの作者がスゴイのは、あんまり頭が良くない読み手もわかる…というかわかる気にさせるところ。リンカーンもアメリアも弱さを含めキャラが際立っているし、犯人も平面的な描かれ方じゃないので読ませる。スピード感も心地よい。今回はパーシーもいい味出してた。デンヴァー着陸の描写はめちゃくちゃスリリングだった。
でもなぜか「好きな作家」に挙げたくない。なんでだろう。出来過ぎだからかな。
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【文藝春秋】
ジェフリー・ワイルズ・ディーヴァー
本体 1,857円
2000/10
ISBN-4163195807 |
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「Alone Together」
評価:C
『MISSING』がやけに心に残ったので期待したが、これはちょっと肩すかし。村上春樹の影を感じてしまうのは私だけだろうか。個人的に、特別な能力を持たされてしまった人間を描いた小説は大好きなのだが、書き手が消化しきれてないというか、こっちの消化酵素が足りないというか、意思や想いや疑問符や諦めや期待が、全て宙に放たれたまま終わってしまった印象。もちろん、現実なんて収束できないことばかりだし、それはそれでリアルなんだろうけど、残尿感あり…って下品でスミマセン。でも、この透明感は好き。知的で孤独な僕も嫌いじゃないし、立花サクラと熊谷も屈折率が好み。でもやーっぱり村上ワールドを感じちゃうなあ。
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【双葉社】
本多孝好
本体 1,400円
2000/10
ISBN-4575234028 |
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「雨の鎮魂歌」
評価:E
マイったな。本来、自分の採点にEはあり得ないと思ってました。おこがましい気持ちがあるのと、どうしても読めずに途中リタイアするのが自分にとってのEだと思っていたから。でも、最後まで読んじゃいました。だって、この拙さが天然なのか確信犯なのか見極めたかったんだも〜ん。で、最後まで読んでどうだったかというと、「もう、んなこたぁどっちだっていいや!」でした。
なんでこれが気鋭の出版社(?)からハードカバー千八百円也で出版されるの?何か弱み握られてるの?もしかして、この作者って誰か著名人の別ネームなの?ここまで言う私は極悪非道?でも、あとは何を言っていいのかわかりません。…妙にですます調の自分が怪しい。せめて、愛すべき駄作、だったらよかったんだけど、そこまでも行ってねえな、オレん中じゃ。
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【幻冬舎】
沢村鐵
本体 1,800円
2000/10
ISBN-4344000269 |
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「炎の影」
評価:C
香納諒一は『梟の拳』と『幻の女』しか読んでいないが、この二作、私の中で印象が全く違うので今回はどうかなあと思ったが、また違った。たまたまなのか、意図的に色を決めないのか、私だけがそう思うのか…。別にいいんだけど。
ツボを押さえた父子小説だとは思ったが、○○ってのが××だろうというのはニブい私にもよめたし、主人公が驚くたびに口にしまくる「なんだと…」には激しく違和感。今の30才、いくら盃酌み交わす職業でも言うかな普通?それと、恵子が公平に惹かれる過程が全く描かれていないので、なんだか急にデキちゃってビックリ。そんなにいいか公平?私はあんまり。実は初恋の人だったから?…って誰に聞いてるんだ、私。
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【角川春樹事務所】
香納諒一
本体 1,900円
2000/09
ISBN-4894569035 |
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「神様がくれた指」
評価:B
宮部みゆきとはまた違う意味で作者の清潔な人柄が作品ににじみ出てると思った。前作できっと「健全ねえ」なんてことも言われ、今回は設定も人物も社会から逸脱してみたのかもしれないが、世間的にはいかがわしかったりするスリや占い師という職業も、登場人物の辻も昼間もその周辺の人物も、ちっともうさんくさくなくて、むしろ清廉。若者の迷いやとまどいをきめ細かく描いたまっとうな青春小説だと思う。
けっこう好きだが、唯一留保はハル。出てくるまでは、カリスマぶりや不気味さがよく出ていてカッコよかったけど、実際、登場してからは魅力が半減。最後の辻との勝負も今ひとつ私には中途半端な感じ。すっきりさせて欲しい。つまりは続編希望。
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【新潮社】
佐藤多佳子
本体 1,700円
2000/09
ISBN-4104190020 |
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「社長ゲーム」
評価:C
江戸川区の図書館で棚が充実している地元作家薄井ゆうじ。今までかなり読んでいるつもりだったが、ちょっとご無沙汰しているうちに作風が変わった気がする。でも、感想を述べにくい話を書くところは相変わらず(?)。
『ナニワ金融道』小説版か?KSDに関わっちゃうような中小企業の社長さんが読んだらかなり勉強になるんじゃなかろうか。ある意味、入子(いれこ)の帝王学小説という気もするが、そういう方面にシンクロしなかった私は、ひとりの青年の成長小説として読んだ。が、残念ながら、最後までその青年に魅力を感じなかった。終盤、彼が美砂に言う長科白が始まったときは「よし!ここでグッときてえ!」と身を乗り出したが、目の前に本人がいるのに「ある女性が…」とか語られて興醒め。こんな箇所で醒めてゴメンネ、だけど。
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【講談社】
薄井ゆうじ
本体 1,900円
2000/09
ISBN-4062103133 |
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「失恋」
評価:B
失恋がキーワードの短中編集。なんとな〜く1冊読んだだけで今まで敬遠していた作家だったが、巧いなあと思った。「記憶」がいちばん好き。出てくるふたりは好きじゃないが、こんなことってあるんだろうなと思わせ、でも展開はありがちじゃなくて、最後はカタルシス感あり。「欲望」も内容に目新しさは感じなかったが、語り手の位置と捉え方がちょっと新鮮だった。
でも一番気に入ったのはあとがき。作者には失礼か。基本的に小説のあとがきは好きじゃないが、これは例外。先日、若い男性にメールで「恋と愛の違いって何?」と聞かれ妙に動揺したからかも。そうそう、恋って面倒くさいんだよ、出来れば距離を置きたいんだよ、私もずっとそう思ってた。今度、この人のエッセイ読んでみよう。
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【実業之日本社】
鷺沢萠
本体 1,400円
2000/09
ISBN-4408533858 |
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