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    【角川春樹事務所】
  盛田隆二
  本体 2,100円
  2000/10
  ISBN-4894569094
 

 
  今井 義男
  評価:E
  この作品は<女子高生のいま>を衝撃的に描いている問題作だそうだ。なるほど。よくもこれだけ嫌なことばかり詰め込んだものである。これらはすべて綿密な取材の賜物なのだろう。いくら信じ難くても現実に起こっていることなのだから目を背けるべきではない、といいたいところだが合点がいかない。別に作家だから世人を啓蒙しなければならない謂れはないけれど、めくるめくクスリの快楽だけを表現して、その後に待ち受ける禁断症状に頬かむりを決め込む作者の恣意的な態度は極めて不愉快である。まさか面倒だったのではあるまいし。問題は<女子高生のいま>ではなく、素材を扇情的に扱うこの<オヤジ作家の心根>の側にあるのではないか。これではテレビの猥雑な特番以下だ。

 
  原平 随了
  評価:B
  クスリや売春、イジメ、引きこもりなど、今時の子供たちの生態や、その置かれている状況が、読み通すことが苦痛に感じられるほど、リアルに描かれている。
読み終えて愕然となるのは、大人の考えるルールと子供たちの生きているルールの、そのあまりにも大きな落差であり、かつ、それを埋める何ものもこの小説の中に提出されていないことだ。子供たちの引き起こす事件が、まるでワイドショーの総集編のごとく集められ、それらをそのまま投げ出して、唐突に物語が終わる。
つまらない主張を排し、リアルに徹したその描写の中で、しかし、少なくとも傍観者でいまいとする作家のスタンスは、ヒロイン、菜々というキャラクターの造形に込められていると思う。それでも、救いは見えてこないのだが……。

 
  小園江 和之
  評価:E
   本書に登場する女子高生達って、実はわりかし普通なんでしょうね。ただまあ、今どきはドラッグもセックスも皮一枚隔てた隣にあるわけで、きっかけさえあればいつでもあっち側に行っちゃうってことですか。それにしてもこんなに周囲との関係に気配りし続けないと暮らせないなんて、それだけで疲れ果てちゃうだろうなあ。これで脳味噌壊されちゃうくらいなら学校なんて要りませんよね。「個性を尊重する教育」なんて、自分を出したら周囲から浮いちゃうのが現状なのにちゃんちゃらおかしいです。でも、そういう現状の根っこに深く斬り込んでくれないので、何だかルポルタージュっぽい感じでした。それと不眠症の患者さんに対し、眠剤代わりにアルコールを勧めるなんてこと、薮医竹庵だってやりませんがな。

 
  松本 真美
  評価:D
  後味が悪いなあ。フィクションっぽい非予定調和さとつかみどころのなさで、カタルシスもないし、誰に感情移入していいかもわからず誰にも好感がもてず、等身大で存在感はあるヒロイン奈々の決意も今ひとつ不明瞭のまま、でも起こるべき事件は起こり、さりとてなにひとつ先は見えず、最後は「ここで終わりかよ!」と思った。
人物はきちんと描かれているし、リアルで逃げていない小説なんだろうとは思うが、こういうのを現代を鋭く斬りとった世界というのなら、私は旧くて鈍い小説でいいや。なんだかやりきれない気分になって疲れちゃった。ふう〜。
でも、この後味・読後感こそ作者の術中にハマったってことかもしれない。

 
  石井 英和
  評価:E
   「今日の若者を取り巻く状況」を描いたタグイの小説がことごとく退屈なのは、もはや見飽きた聞き飽きた「時代を象徴する事物」や「分析」を、新たな視点の提示も無しに得々として並べ立て、そしてそれで終わってしまっているからだろう。この作品も・・・ネットアイドル帰国子女ブルセラ援助交際メール携帯ダサイウザイ切れる少年ストーカー覚醒剤イジメシカト問題ある子と問題ある両親・・・とりわけテンコ盛りだ。私は麻雀をやらないからよく知らないのだが、こんなズラッと並んだ状態を示す言葉があったでしょう?満艦全席、じゃなくて国士無双、だっけ?で、どうしたか?と言えば、どうもしないのであって・・・この作品を誉めるとすれば「状況を鋭く切り取って」とか、なるんだろうか?私には「写生」しただけ、にしか見えないけど。

 
  中川 大一
  評価:E
  私はこの本を、まったく楽しめなかった。殺伐とした気分になっただけだ。しかし、だからといって、小説家としての作者の技量をくさすつもりは毛頭ない。人物はきちんと書き分けられているし、場面転換もうまい。たぶん、盛田隆二には、読者を面白がらせる気がないのだ。荒れる十代のシビアな現実や家庭内暴力を、そのまま読んでる者の鼻面に突き付けたいのだろう。その意図は、ある意味成功したと言える。ただ、個人的には、暗い話しや残酷な物語なら受け付けるけど、荒涼としてるだけの小説は消化できません。帯の裏表紙サイドにはかなり詳しい粗筋がつけられていて、ストーリーの7割がたはここでわかる。これを読んで興味をそそられた人なら、本文に進んでもいいんじゃないでしょうか。

 
  唐木 幸子
  評価:B
   この著者の作品は、初期の『サウダージ』を読んで以来だ。漂う退廃的な背景は同じで、これを読みながら、10年も前に読んだストーリーを思い出した。本作と同様、登場人物が一見、語り口は普通のようでいて実はほぼ全員が異常な世界(麻薬とか異常性愛とか脅迫とか……)にはまっているのだ。『サウダージ』の時は不思議な感じの小説だなあ、と印象深かったが、今ではそんなに驚かなくなった。ということは、この著者が相当、時代を先取りしていたのだろう。本作も主テーマというのはなくて、少年少女の迷いや中年男女の惑いが入り乱れて話が進行する。不良の娘や年下の愛人に気兼ねするわアル中になるわで可哀想な女流作家の曜子に注目していたら、後半、そそくさと話が終わってしまって少し残念。

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