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  ジンジャー・ノースの影  ジンジャー・ノースの影
  【ハヤカワ・ミステリ文庫】
  ジョン・ダニング
  本体740円
  2000/10
  ISBN-4151704051
 

 
  石井 千湖
  評価:B
  主人公のウェスが出生の秘密を追ってやってきたパシフィカは小さな町の競馬場だ。典型的な男社会で数少ない女性たちが印象的。ウェスが厩務員として下につくことになる女性調教師・サンディの凛々しさ。プロ意識を持って働く女性が出てくる小説に弱いのだ。対照的なのが引き馬係のクリス。海岸の別荘での出来事とその後のクリスのセリフは・・・・・・ネタバレになってしまうので詳しくは書けない。依存して流されてしか生きられない弱い女なのに(だからこそ?)怖いぞ。息をのむような美人のジャッキーが夫を「しつける」場面も怖いけど。そしてジンジャー・ノースが死んだ古い塔。府中や中山の小奇麗さからは想像もつかない競馬場の陰鬱な風景がいい。

 
  内山 沙貴
  評価:A
  どんどん状況が変わるスリリングな展開。やはりスピード感のあるサスペンスはおもしろい。孤児だった自分の母親を知るために小さな競馬場にやってきた"わたし"。喧騒さのただよう競馬場の労働者たちの空気が、突如血生臭いものに変わる。競馬場はわたしが考えていたものよりずっと閉鎖的な空間だった。思いもよらない人物が過去のわたしの母とつながってゆき、そして、わたしは真相を突き止める。天国に片足突っ込んだような瀕死の状態で…。話の展開は、フラッシュをたいたカメラを連写させたように強烈な印象を残し、めまぐるしく変わった。最後に余計なお世話かもしれないが、主人公は、ちゃんと病院にたどり付けたのだろうか、サンドラや、主人公に関わりのある人たちは、これからどうするつもりだろうかなどと考えてしまった。

 
  大場 義行
  評価:D
  自分の出生の秘密を追う為に警察をまき、殺人鬼に追われ、それでもなお不屈の闘志で突き進む。みんなから変な眼で見られても、血だらけになっても、自殺した母の秘密を追うのだ。こう書くと面白そうだが、なんだか淡々としていて、地味。ラストはラストで余韻もない。ひたすら地味なミステリだった。ただ、ホラーだったら面白かったのかも。というかタイトル、内容、文体ともにH・P・ラヴクラフトの「インスマンスの影」を連想するのは自分だけなのだろうか。

 
  操上 恭子
  評価:B+
  レースも終盤にさしかかった競馬場は、人も馬もだんだんに減っていき空き家というより、打ち棄てられた廃虚のような佇まいを見せる。しかも、この競馬場には、大昔の木製の塔がある。忌わしい過去を持つ塔が。そして、この競馬場のどこかに殺人鬼が……。やはりダニングはうまい。この競馬場に自分の過去を探りに来た主人公は、もと警官でもと事件記者、ベトナム帰りのもと兵士でもある。調査のプロで肉体派。話の展開に無理がない。大怪我を負い、警察にも追われることになった主人公に残された時間はあとわずか。だが、真相はなかなか姿をあらわさない。手に汗握るスリリングな展開。そして意外な犯人。映画化の話はないのだろうか。残念なのは、終わり方がちょっと尻切れとんぼだということ。謎の解明は終わっているわけだが、それからどうなったの?と思ってしまう。ちょっとした後日談がほしいところ

 
  小久保 哲也
  評価:C
  後半部分から始まる追跡場面は、手に汗にぎるスリリングな展開で一気に読ませる。しかしながら、生命を懸けて追求する謎というのは、もちろん人それぞれなのだけれど、本書のそれは、いまひとつリアリティに欠けていたのが残念であった。競馬場や、アメリカの片田舎の風景などの情景描写がとても素晴らしいだけに、余計にそのリアリティを感じられない謎解きが浮き上がり、主人公の動きを軽く感じさせてしまっている。その謎を解かなければならないという、主人公の心の中での必然性をもっと納得させて欲しかった。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  アイデンティティの欠落はそんなにつらいものだろうか。我が出自を探るため、主人公は疲れや怪我をおして、ひたすらに闘い続ける。いつもいつも雨が降っており、主人公が乾いた服を着ているだけで救われた気分になる。終盤など、足の傷がくさりはじめて、もう読んではいられない。タフなのもいいかげんにしようや、などと弱気になってしまう。警察から逃げ回る主人公をかくまってくれる一家の優しさが心にしみるというものだ。骨格のしっかりした読みごたえのある話なのだが、何せ疲れる。ちょっと暗すぎて、個人的には苦手であった。

 
  山田 岳
  評価:B
  アメリカ西部の田舎町にある競馬場で働く厩務員たちの姿を淡々と、かつテンポよく描いていく筆のさえは、どこかウイリアム・フォークナーを思い起こさせる。フォークナーの製材所が、ジョン・ダニングでは厩舎にかわったというところだ。これだけ力量のある作家なら、孤児院で育った男の母親さがしというテーマだけでも十分に文学として成り立つはず。それが102ページにして起こった殺人事件のために、ストーリーは急展開してサスペンス・ドラマとなっていく。(サスペンス・ファンとしては、もっと早く事件を起こしてくれよと言いたくなるかもしれないが)しかし第一発見者が警察に追われるというのは、ちょっとパターン化しすぎているのではないか。

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