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石井 千湖の<<書評>> 文庫本

「ジャンゴ 」
評価:C
破滅的な人生に憧れた高校生の頃に読んだならきっとはまったはず。悪魔のような美女、指を失ったギタリスト、畸形のオカマ、芸能界を裏で仕切るヤクザ者、ドラッグで転落する女。頽廃的な世界。登場人物中唯一の常識人と思われる芦原の述懐が感想にそのまま当てはまる。「よくもまあ、ここまで自分に 溺れることができるものだ」。自分は特別な人間だと錯覚する力が「才能」と呼ばれるものの正体なのか?暴力もエロもてんこもりだが、小説家なんてただ の大嘘つきだと妙に醒めているところには好感が持てる。ただし悪魔的美女・麗子の造形の陳腐さが気になる。吐くセリフも自意識過剰でアホっぽい。わざとなのかなあ。オカマのミーナは楽しいのに残念。 
ジャンゴ 【角川文庫】
花村萬月
本体 552円
2000/10
ISBN-4041898072

「春風仇討行」
評価:B
時代小説というと勧善懲悪とか自己犠牲とかワンパターンのイメージが強くてなかなか手が出せない。ましてや「仇討」だ。絶対に自分では買わなかったと思う。表題作は爽やかな恋愛もの。「むさんこ」や「ええおいど」といった讃岐のことばがいい味を出している。胸のことを「白桃」と表現するのは老いてなお盛んな爺さんみたいでいただけないけど。普段はとぼけているが実は賢くて強い藤馬が魅力的。一本気で融通がきかないりやと対照的でいいコンビだ。時代ものだからこそ成り立つ御都合主義も語り口が巧いのでそれほど気にならない。こんぴら樽にまつわる七郎丸との出会いのエピソードなど呆れるほどの直球勝負。他の3作は変化球で楽しめた。  
春風仇討行 【講談社文庫】
宮本昌孝
本体 533円
2000/10
ISBN-4062649926

「ジンジャー・ノースの影」
評価:B
主人公のウェスが出生の秘密を追ってやってきたパシフィカは小さな町の競 馬場だ。典型的な男社会で数少ない女性たちが印象的。ウェスが厩務員として下につくことになる女性調教師・サンディの凛々しさ。プロ意識を持って働く女性が出てくる小説に弱いのだ。対照的なのが引き馬係のクリス。海岸の別荘での出来事とその後のクリスのセリフは・・・・・・ネタバレになってしまうので詳しくは書けない。依存して流されてしか生きられない弱い女なのに(だからこそ?)怖いぞ。息をのむような美人のジャッキーが夫を「しつける」場面も怖いけど。そしてジンジャー・ノースが死んだ古い塔。府中や中山の小奇麗さからは想像もつかない競馬場の陰鬱な風景がいい。
ジンジャー・ノースの影 【ハヤカワ・ミステリ文庫】
ジョン・ダニング
本体 740円
2000/10
ISBN-4151704051

「アンダードッグス」
評価:A
シアトルの地下にある廃虚が「不思議の国」に。兎と呼ばれるケチな悪党ヒルトン(姓は粗チン!)がアリスという名の少女を人質にして暗闇をひたすら逃走する。アンダーワールドにあらわれた闖入者を出迎える怪しげな住人。ビチグソ湖があったり夥しい数の鼠がいたり読んでるだけでも臭いが伝わってきそう。地下世界をしきっている「警部」がいい。浮浪者風なのだが警官の制服を着ていて追われているふたりを何故か助けてくれたりする。独自の哲学を持ったかっこいいオジサンなのだ。逃げるふたりと追う人間の攻防は緊張感タップリ。ヴェトナムでのトンネル戦の回想も迫力アリ。現在の地上と地下、過去の回想が交互に来て視点もクルクル変わるので最初は少し読みづらく感じたけど、徐々に盛り上がっていってついに一気読み。
アンダードッグス 【文春文庫】
ロブ・ライアン
本体 733円
2000/10
ISBN-4167527618

「2000年のゲーム・キッズ」
評価:B
腰痛で病院に行った。レントゲン撮って待ち、診察して待ち、会計でも薬でも待つ。しかもいつ呼び出されるかわからんし、何度も移動させられる。そんな時読むのにピッタリの本だ。まず科学技術の解説が扉のページにあって、それをネタにした小説が続く。お気に入りは皮肉なオチがきいてる『天職』『柔和な人々』『育てゲーム』など。特に『柔和な人々』は世の中すべて同じ感情の人しかいなくなってしまったらどうなるか?というコワーイ話。どんなに平和な社会でも必ず差別による排除が生まれるのね。ヘッドギアという小物も嫌な感じ。残酷だけどドライだし、イライラもすっきり。病気のときにブラックユーモアというのもなかなかオツなものだ。 
2000年のゲーム・キッズ 【幻冬舎文庫】
渡辺浩弐
本体 533円
2000/10
ISBN-4344400399

「ジグザグ・ガール」
評価:C
女は決断する。男は感傷的だ。どちらもエゴイストであることに変わりはない。突然出て行った恋人が死体になって戻ってきた。事故死か他殺か。過去を追ううちに明らかになる彼女の秘密。主人公は奇術師で彼女との出会いもマジックがきっかけだ。様々なマジックが紹介されるがタネは決して明かされない。タネ明かしをしない主義だからだ。どんな魅力的なイリュージョンも仕掛けは単純で知ってしまえば興醒めしてしまう。恋愛も不思議で美しい幻想だけど、タネは知らない方がいい。誤解だらけの思い込みの上に辛うじて成り立つ錯覚。彼女が指輪の向きを変えるエピソードが切ない。アムステルダムの街の妖しさとか細部はいいけど最後はなんだか情けない。
ジグザグ・ガール 【創元推理文庫】
マーティン・ベットフォード
本体 920円
2000/10
ISBN-4488207022

「変人島風物語」
評価:C
カップリングの『私の愛した悪党』の方が好きだ。最初に刊行されたのが1 960年というから、なんと40年前!呑気な雰囲気が楽しい。絵描きの万代はちょっとした機転(詐欺?)で小銭を稼ぐのが得意なのだが、ぬけぬけと やってのける様子がとても痛快だ。たいていの悪さは人の欲の裏をかいたもので、面白がって下宿先の娘のノユリも手伝ってしまう。本筋は過去の誘拐にか らんでノユリたちが住んでいる珍来荘の周囲で起こる殺人事件。トリックは他愛ないし、誰が誘拐された娘かもすぐわかってしまう。ミステリとしてはどう かな?構成は凝っている。でも意外性はないし、どうしても古臭い感じは否めない。万代とノユリが離れる必要もないと思う。
変人島風物語 【創元推理文庫】
多岐川恭
本体 880円
2000/10
ISBN-4488429017

「千年紀末古事記伝 ONOGORO」
評価:A
変なことを考える人が大好きだ。だから鯨統一郎は『耶馬台国はどこですか ?』以来ご贔屓の作家である。本当にこの人はさらっとトンデモナイことを書く。歴史にはそれほど興味がないので知識もない。余計にビックリ仰天させら れてしまう。で、古事記である。大雑把には知ってるけどこんなにエッチだったっけ?とにかく神様たちは「交合って」ばかりだ。すべてはそれを基本に動 いてるといってもいいほど。イザナミ、これじゃあ淫乱じゃん。スサノオは鬼畜。その即物的なことといったら。なんといっても天の岩戸を密室にしたのは すごい。結末のオチにはそれほど驚かなかったけど、またまたやってくれたと嬉しい限り。次はどんなのがくるのやら・・・・・・。
千年紀末古事記伝 ONOGORO 【ハルキ文庫】
鯨統一郎
本体 640円
2000/10
ISBN-4894567695

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