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  千年紀末古事記伝 ONOGORO 千年紀末古事記伝 
        ONOGORO

  【ハルキ文庫】
  鯨統一郎
  本体 640円
  2000/10
  ISBN-4894567695
 

 
  石井 千湖
  評価:A
  変なことを考える人が大好きだ。だから鯨統一郎は『耶馬台国はどこですか?』以来ご贔屓の作家である。本当にこの人はさらっとトンデモナイことを書く。歴史にはそれほど興味がないので知識もない。余計にビックリ仰天させられてしまう。で、古事記である。大雑把には知ってるけどこんなにエッチだったっけ?とにかく神様たちは「交合って」ばかりだ。すべてはそれを基本に動いてるといってもいいほど。イザナミ、これじゃあ淫乱じゃん。スサノオは鬼畜。その即物的なことといったら。なんといっても天の岩戸を密室にしたのはすごい。結末のオチにはそれほど驚かなかったけど、またまたやってくれたと嬉しい限り。次はどんなのがくるのやら・・・・・・。

 
  内山 沙貴
  評価:B
  言葉が心に響く。文章は明晰で混じり気が全くないのに、ずっしりと何かがそこに存在することを感じた。そしてすごいと思ったのは人や神のセリフだ。一文のセリフだけで性別はおろかその人・神の性格まで「美人が好きそうな男だな」とか「これは夫を尻に引くタイプの女だ」というように分かってしまう。これはすごいことだ。1ミリのノミが30センチも跳ぶことと同じぐらいすごいと思った。鯨統一郎はすごい。そして、古事記もすごかった。悲劇は少なく、いつも最後には心優しく力強いものが勝者になれるすがすがしさ、そしてめちゃくちゃ多い、情事にまみれた人々。しかも現代人の感覚からいけば異様なくらいストレートに表されている。こりゃ18禁じゃないけど13禁ぐらいにしといてもいいんじゃないのと思ったほどだ。しかし、それもこれも全部含めてこの本はとても愉快だった。鯨統一郎も古事記もなんだか愉快でたまらなかった。

 
  大場 義行
  評価:C
  きちんと古事記のぶっきらぼうな文体をふまえつつ、新解釈を加えた超訳。おかげで古事記に目を通した人はもちろん、なーんにも知らない人も楽しめる本になっている。もともと古事記が持つ圧倒的な力にただただひれ伏すしかない。原典にそくした超訳のおかげで神さまは、まるで尊厳を捨てたようにセックスにはげみ、また神を産み、かと思えば眼から飛び出てくる神あり。これぞ日本人の原典かと読みふけってしまう。この辺は作者の巧さといえば巧さだが、ラストで突然ほっぺを殴りつけ見事に我にかえしてくれる。なあ、ゴジラはどうしたんだよ、モスラはなんなんだよ。古事記と本書の有り余るパワーでなんだか読了後、体力を根こそぎ持っていかれるような本だった。

 
  操上 恭子
  評価:C
  「古事記ってこんな話だったっけ」と思いながら読んだ。なにしろこの話に出てくる神様たちはエッチばっかりしているのだ。だけど私の知っている古事記は、小学生の時に読んだ岩波少年文庫版だ。エッチな話は割愛されていたのかもしれない。「国をつくって子で満たす」のが神様たちの仕事だから、エッチばっかりしているのは当然かもしれない。と途中まで本気で思っていた。普段なんとなく知ってはいるけれど馴染みのない古事記の世界を、読みやすく紹介してくれるのは面白い。だけど、アマテラス大御神から現在の天皇家へと脈々と繋がる日本の歴史を少しでも信じている人は読まないように。

 
  小久保 哲也
  評価:C
  古事記なんて読んだことも無ければあまり興味もない。 だから題名を見て、最後まで読めないかもしれないという、そんな危惧を抱いたのだけれど、そういう思い込みは、やはり面白い本を見逃してしまう、そういう良い例がこの本だ。読み始めは、さすがに古事記だけあって、登場人物の名前に四苦八苦。名前にやたらと漢字が多いのだ。しかし中盤にかけて人物名にカタカナが増える頃には、本書の世界にどっぷりとはまり、神々の末裔が織り成すドタバタ劇に思わずニヤリとしてしまう。ただ、登場人物(神様?)に奥行きというものがあまり感じられず、そのためか小説というよりも、むしろ「お話」のような印象があるのが残念。

 
  佐久間 素子
  評価:B
  また人を喰った・・・と脱力させる第1ページ目もすごければ、驚愕のラスト1行もすごい。ひょっとしてこれが正しい解釈だったのかも、と思わせていた説得力がたちまちうすれ、本当の『古事記』を引っぱり出さざるをえなくなる。そして比較検討をし た結果、こりゃ珍説だと思っていた箇所が忠実な再現であることに気づいたり、書かれているはずの記述がみあたらなくてあぜんとしたりするのだ。これぞ二度おいしいというものである。こうも気持ちよくだますには技術もいる。星新一訳の『竹取物語 』を読んだことがある。ミスマッチだと思ったが、文章が下手なのかと錯覚させるほど骨太簡潔な文が、あっけらかんと明るく、妙にしっくりきていた。本書もそれを思い出させるような文だ。好色な神々が、その、何だ、やりまくろうが、残虐に死のうが、生々しくならないおおらかさが実に神話的で本物くさい。

 
  山田 岳
  評価:B
  鯨統一郎という作家になじみのない読者はまず解説を読むべし。彼がいかに歴史に造詣が深く、それでいて歴史の常識をひっくり返す「ミステリー」を発表してきたかがわかる。「*古事記の真相に触れています。」という扉書きや「後悔は致しませぬか」の稗田阿礼の言葉は、歴史ファンをわくわくさせるだろう。神話から前史時代の実情をさぐる考古学者もいるが、鯨氏の「古事記」は反対に実情とはまったく切りはなされたファンタジーのようだ。詩のように短文での行がえがくり返されるので、歴史小説になじみのない若い読者にも楽々と読みすすむことができる。それがいつのまにか鯨ワールドに迷いこむことになるのだが。

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