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  春風仇討行  春風仇討行
  【講談社文庫】
  宮本昌孝
  本体533円
  2000/10
  ISBN-4062649926
 

 
  石井 千湖
  評価:B
  時代小説というと勧善懲悪とか自己犠牲とかワンパターンのイメージが強くてなかなか手が出せない。ましてや「仇討」だ。絶対に自分では買わなかったと思う。表題作は爽やかな恋愛もの。「むさんこ」や「ええおいど」といった讃岐のことばがいい味を出している。胸のことを「白桃」と表現するのは老いてなお盛んな爺さんみたいでいただけないけど。普段はとぼけているが実は賢くて強い藤馬が魅力的。一本気で融通がきかないりやと対照的でいいコンビだ。時代ものだからこそ成り立つ御都合主義も語り口が巧いのでそれほど気にならない。こんぴら樽にまつわる七郎丸との出会いのエピソードなど呆れるほどの直球勝負。他の3作は変化球で楽しめた。

 
  内山 沙貴
  評価:C
  この宮本昌孝の書く物語は"堅い"なあと思った。"堅い"といっても悪い意味ではなく、信心深いとか義理がたいといった前向きな堅さである。春の陽を反射する、白い袴を身に着けた若い女性が立っている。刀を構え、人を射るように見つめ、凛とした姿勢で機を狙っている。そんな目を焼くような眩しい光景が脳裏を走る。この物語の主人公たちは、突然現れた、光輝く彗星のようにキラリと輝き、人々の目を惹きつけて、強烈な光の尾を残していった。冬の、高く晴れ渡った空のように爽快な物語だった。

 
  大場 義行
  評価:B
  バラバラな短編集だった。なんだか旨いものをたっぷり放り込みすぎた鍋。一つ一つが個性的で邪魔し合っている。確かに史伝に埋もれる小さな物語を基に、物語を構成しているのは一緒なのだが。その中でも一番光っていたのは「瘤取り左兵衛」。「かんしゃく瘤」と異名を持つ剛の男が運命を描いたものだが、読み終わった時は、一瞬体温が上がる。信長、光秀、秀吉、最後は島原の乱と渡り歩くその姿に惚れ惚れする。熱い物語だった。だからこそ個人的には「春風仇討行」のような清々しい青春モノは青春モノで、「瘤取り左兵衛」のような熱い物語は熱い物語でまとめて欲しかった。

 
  操上 恭子
  評価:C+
  時代小説なんてオヤジの読み物だ、と思っていたので、今まで宮部みゆきくらいしか読んだことがなかった。今回、はじめて読んでみて面白いもんだと思った。『春風仇討行』は、表題作を含む四編の短編集である。すべてが史実(または記録)をもとにしている。表題作は女剣士の仇討話だが、主人公りやがとてつもなくいい女に描かれている。美しく、腕がたち、頭が良くて、気が強い。それを助ける藤馬もまた魅力的な男だ。他の三作は、豊臣秀次、森蘭丸、安田作兵衛という歴史上の有名人を主人公にしているのだが、それぞれに人物造形がしっかりとしていて、心情に深く響いてくる。結末のわかりきっている史実でも、おもしろい物語を作れるものなのだ。

 
  小久保 哲也
  評価:A
  最近、時代小説や歴史小説を読んでみたいなと思っていたけれど、どの作品も重たそうだったり、登場人物の名前が読めなかったり(やたら漢字が多いので。)、どうにも敷居が高い。そんな時にこの作品。本書に収録されている「蘭丸、叛く」「瘤取り作兵衛」の2作は一気に時代小説の面白さに触れたような気がするし、表題作の「こんぴら樽」は、まさに昔よくテレビで見た時代劇を思い出させ、ほのぼのとしてくる。時代小説特有の文中の言葉使いや登場人物の会話など、時代小説ビギナーの私には、まだまだ違和感を感じる部分も何個所かあり、すぐには場面が頭に入らない時もある。だけど、登場人物たちの生き方、考え方がストレートに伝わってくる。素朴だし、何か羨ましく感じてしまうほどの強さが、ありありと感じられる。とにかく、私のような時代小説に疎い人にもぴったりの作品。現代小説に慣れきった人には、時代小説に馴染むには少し時間がかかるだろうけれども、この作品はそういったビギナー向けの入門書として最適と言える。

 
  佐久間 素子
  評価:A
  安心して身をゆだねることができる時代短編集。四編とも読後、胸におちるものがある。その方向はすべて異なるのだが、どこか深いところにちゃんと届いている。表題作は、お約束の展開とわかっていても、おはなしのうまさと、ヒロインのりりしさに魅了されて一気読みの好編。冒頭、こんぴら樽の奉納シーンの甘酸っぱさは、これでもかといわんばかりの初恋の味である。『瘤取り作兵衛』は、おはなし好きにはこたえられないうまさがある。私はむろんだまされた。一つ一つのエピソードも読ませる。例えば、秀吉のお茶目な大人物ぶりと、作兵衛の愛すべき豪勇ぶりがうかがえる会見シーン。わずか6ページだが、胸がすく。

 
  山田 岳
  評価:A
  司馬遼太郎を大河ドラマとするなら、宮本昌孝はもっと気軽なテレビ時代劇。登場人物をやたらアップでとらえる表現方法は実にテレビ的だ。と言っても、「水戸黄門」のような、最後にカタルシスのおとずれる展開ではない。むしろ月9ドラマのように、冒頭から見るものをつかんではなさない演出がたくみに施されている。江戸時代がけっして形式ばった堅苦しい時代ではなくて、現代人と同じように、ひょっとしたら現代人よりも生き生きと人生を謳歌していたことが伝わってくる。最近視聴率が低迷しているというテレビ時代劇の関係者には、ぜひとも宮本昌孝を読んで研究してもらいたいものです。

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