「ジンジャー・ノースの影」 評価:A どんどん状況が変わるスリリングな展開。やはりスピード感のあるサスペンスはおもしろい。孤児だった自分の母親を知るために小さな競馬場にやってきた"わたし"。喧騒さのただよう競馬場の労働者たちの空気が、突如血生臭いものに変わる。競馬場はわたしが考えていたものよりずっと閉鎖的な空間だった。思いもよらない人物が過去のわたしの母とつながってゆき、そして、わたしは真相を突き止める。天国に片足突っ込んだような瀕死の状態で…。話の展開は、フラッシュをたいたカメラを連写させたように強烈な印象を残し、めまぐるしく変わった。最後に余計なお世話かもしれないが、主人公は、ちゃんと病院にたどり付けたのだろうか、サンドラや、主人公に関わりのある人たちは、これからどうするつもりだろうかなどと考えてしまった。
「千年紀末古事記伝 ONOGORO」 評価:B 言葉が心に響く。文章は明晰で混じり気が全くないのに、ずっしりと何かがそこに存在することを感じた。そしてすごいと思ったのは人や神のセリフだ。一文のセリフだけで性別はおろかその人・神の性格まで「美人が好きそうな男だな」とか「これは夫を尻に引くタイプの女だ」というように分かってしまう。これはすごいことだ。1ミリのノミが30センチも跳ぶことと同じぐらいすごいと思った。鯨統一郎はすごい。そして、古事記もすごかった。悲劇は少なく、いつも最後には心優しく力強いものが勝者になれるすがすがしさ、そしてめちゃくちゃ多い、情事にまみれた人々。しかも現代人の感覚からいけば異様なくらいストレートに表されている。こりゃ18禁じゃないけど13禁ぐらいにしといてもいいんじゃないのと思ったほどだ。しかし、それもこれも全部含めてこの本はとても愉快だった。鯨統一郎も古事記もなんだか愉快でたまらなかった。