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    【ソニー・マガジンズ】
  エドワード・バンカー
  本体 1800円
  2000/10
  ISBN-4789716171
 

 
  今井 義男
  評価:B
  アメリカの刑務所は犯罪者を矯正させるための施設ではなく、当の犯罪者から社会が蒙る被害を未然に防ぐのが主たる目的らしい。つまり防疫の手段と同様の隔離方式である。塀の内側が弱肉強食状態で彼らを疲弊させるのも目的に合致しているので問題はない。刑期を終えて出所してもどうせ堅気の暮らしはできないからすぐに逆戻りだ。結局人生の大半を刑務所で過ごす。彼らの戻る場所なんてどこにもないし、社会もそれを望まない。行き着く先は終身刑か死刑…。作者の憤りは至極まっとうだ。だが誰もがバンカーやチェスター・ハイムズになれるとは限らない。愚かな堂々巡りを断ち切るには地道な努力しか方法はないのである。脱走に成功したところでその事実からは一生逃れられない。

 
  松本 真美
  評価:A
  読後すぐ、家にあった『レザボア・ドックス』のビデオを観た。さすがに二癖も三癖もありそうなシブいツラ構えしてた、プリズンワールドの住人エディ・バンカー。面白くて一気に読んじゃいました。こういうざらついた人間達を描いた作品、好きです。行き止まりばかりなのに逆にメビウスの輪のようにどこにも辿り着けない、ゆがんだ閉塞感いっぱいの刑務所と、その中ゆえの価値観と善悪の基準が、<塀の外>のやっぱりどこかゆがんだ基準によってますます逸脱していくさまが、なんだかリアルでやるせなくて同時にちょっと爽快でした。アールとロンの<師弟友情>も至極まっとうで、だからこそ塀の中じゃ異端で、危うく哀しげでもあり、それが一気にラストに収束していくさまがすっげえかっこいい!最後が淡々としてる分、余韻がせつなかった。映画化するなら同じプリズンものの『ショーシャンクの空に』、はたまたタランティーノの雰囲気ではなく、マシュー・カソヴィッツの『憎しみ』の感じでお願いしたい。知らない?クールで超かっこいいんだから!

 
  石井 英和
  評価:E
  それでどうした、と言えば、どうもしないのであって・・・なんか、退屈しちゃったなあ。いや、中身は激烈なことが書いてあるんですよ、アメリカの刑務所内の目を覆う惨状を。しかも、その中で囚人の成長?物語りあり、人種対立あり。でも、それを読まされたこちらは、「ああ、そんな現実があるんですか、大変ですねえ」みたいな生返事しかする気にはなれない。結局、この著者が、その激烈な現実から「ドラマ」を読み取り物語りに紡ぎあげる独自の視点を持たないまま、小説を書いてしまったって事じゃないだろうか。激烈な現実をそのまま写生すれば激烈な小説が出来上がると、安易に信じ込んで。逆に、その「視点」さえ持てば、退屈な日常生活だって、過激なドラマになりうるのに。この小説は、その「ドラマたり得る視点」が欠けているんじゃないだろうか。

 
  唐木 幸子
  評価:C
  刑務所ものというと、私はS.キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』、『グリーン・マイル』に強い印象を受けているのだが、本書で描かれるアメリカン・プリズンはS.キングもののような暗さ、物悲しさ、起伏ある生活感、ストーリーというものが殆どない。暴力と恐怖に支配された社会がひたすら延々と語られる。この油断も隙もない単調さこそが真の姿だろう、こっちの方が本当なのだろう、と思わせる迫力がある。何故、こんなに原色的なリアリティがあるか、というのは茶木則雄さんの解説を読んで納得した。米国版『塀の中の懲りない面々』だったわけだ。日本とは比較にならない闇の深さ、病みの深刻さは救いようがないが、茶木さんの適確な解説のおかげで読後感が和らいだ。

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