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      「百年の恋」

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    【朝日新聞社】
  篠田節子
  本体 1500円
  2000/12
  ISBN-4022575573
 

 
  今井 義男
  評価:AA
  この小説のヒロイン梨香子には職場での仕事振りからは想像もつかない素顔があり、その落差は二段重ねしたナイアガラ級であった。颯爽とした外見に惹かれて、もてないオタクライターが下心を実行に移した結果が地獄の結婚生活である。貧相な我が身と低収入を棚に上げて、降りかかった不幸だけを嘆く真一を<デフォルメされた男>などと勘違いしてはならない。こんな幼稚な男はそこら中にいるのである。男が勝手に求める女の理想像(妄想と言い換えてもいい)に彼女が冷水を浴びせかける様は、不快感を通りしていっそこ気味よい。男の特権だとか、女らしさだとかにこだわっている日本はいつのまにか未成熟なまま高齢化社会を迎えようとしている。ジェンダーという単語が根付く頃には男と結婚しようなどという奇特な女性は一人もいなくなっているかもしれない。

 
  原平 随了
  評価:D
  オタクな貧乏フリーライターの男と、バリバリにパワーエリートな銀行員の女との出会いと、電撃結婚。この意外な組み合わせの可笑しさや、周囲の過剰な反応、ちっとも噛み合わない二人の結婚生活の珍妙さなどが活写されていて、また、男と女の本音の結婚観が垣間見えたりもして、前半部分に限って言えば、実におもしろく、かつ、大いに笑える。が、後半の子育て編ともいうべきパートになると、突然、物語が失速してしまうのだ。実在する子育てライターの本物の育児日記を文中に引用するなどの試みが裏目に出たとしか思えず、ただただ、紋切り型の男の子育て論と、ありきたりなドタバタ家庭劇が待っているだけ。これが、待ち焦がれていた篠田節子の新作かと思うと、百年の恋も一気に醒めてしまったような気分である。


 
  小園江 和之
  評価:B
  これ、ひょんなことから鬼嫁をもらってしまった、三低男の奮闘記です。でもですよ、あたしゃこの女性をどうしても鬼嫁だとは思えんのですよ。だって、年齢こそ三十過ぎかもしれないけど、頭は切れるし、年収は自分の四倍、おまけにナイスバディ。ならば髪結いの亭主になりきって、わがままな大型の牝猫と暮らしてるって割り切ってしまえば……まあ、小説にゃなりませんわな。ただなんというか、この男のほうにしても現実逃避してる部分があるわけで、どの現実から逃げてるかってとこがかち合ってるだけなんでしょうな。だからそこんとこがうまくオーバーラップしなければ破れ鍋に綴じ蓋夫婦が一丁上がり、なんだと思います。ただまあ「子はかすがい」で何となくハッピィに終わるのはやや不満。もっともっと鬼嫁っぷりを堪能したかったです。

 
  松本 真美
  評価:D
  う〜ん。篠田節子は大好きなんだけど、今回は篠田節子で読みたい話じゃなかった。自分が主観の範疇でしか本に関われない(ら抜きだ!)ことを思い知らされた1冊。私、お産ってのを昔おもいっきりしくじってるんで冷静に読めないんです。ダメなのお産がらみの話。ちょっと前は平気だったんだけどな。ダメならダメで徹してればよかったのに、なまじ一時期「もうOK!」と思ったモンだから妙に自信喪失な今日この頃。今更なんでだ?チクショー!…でも、だからって知り合いのその手の話に過剰反応したりはしないから気を使わないでね工藤静香とか。知り合いじゃないけどね。これに関して言えば、デフォルメ感もあまり好みじゃなかった。してないのかなデフォルメ。でもこの夫婦、双方にイライラしないか?オマエら、どっちもどっちなんだよ!みたいな。本物の育児日記を唐突に挿入されても、斬新ではあるけどスタンスが中途半端になるだけで…。これってやつあたり?…いろんな意味でスミマセン。

 
  石井 英和
  評価:E
  美貌で有能なキャリアウ−マンと、身分不相応にも(?)彼女に惚れた男の結婚物語。気になる「意外にも恋が成就した理由」だが、これは恋愛小説ではなく、著者の「女性と社会・論」を展開するための書ゆえ、重要事項とは認められず省略されたようだ。登場人物は、例えば「家事や育児に追われ、夫の浮気に翻弄される女の気持ちにもなりなさい」との、男への叱責の具現化である「家事に追われる夫」やら、「出来る女の意外な内実」の戯画化である「妻」やらを演じるロボットであり、「形通り」以上の人間的感情は、実は付与されていない。また、スト−リ−も、著者の「論」の展開のためにだけ存在しているようで、私は小説を読む楽しみを見つけ得なかった。多分著者は「良い小説」を生み出すよりも、「正義」を世に知らしめる道を選んだのだろう。

 
  中川 大一
  評価:C
  そうかあ。高給取りの嫁さんと結婚して逆玉にのると、ぶらぶら暮らせるかと思いきや、いろいろとつらいのお。プライドさえ捨てりゃいいんだろうけど、そうもいかないわね。前半に、主役カップルのうち男の方が素麺をゆでるシーンが出てくる。そういやこの小説、素麺みたいな読み心地。つるつると呑み込めて、腹にもたれない。会話文が多用され、舞台は現代日本で、三十代の夫婦の結婚・出産・育児の物語。多くの読者にとって、想像しやすい設定だ。年収も性格も能力も、この二人の間に入る人がほとんどだろうし。そういう意味じゃ中庸を得た小説、バランス感覚に長けたストーリー。
ん?よく言ってるわりに評価が低いって? うん、私ゃ大阪人なんで、素麺よりもけつねうろんが好きやねん(x_x;)\バキッ!!

 
  唐木 幸子
  評価:A
  週刊朝日に連載されていた頃、私は毎週、ワハハと笑って読んでいた。私よりひどい妻ぶりじゃん、我が夫よ、これを読んでみろ、コンビニ弁当食べさせられたくらいでムっとなるなよ、と痛快だった。梨香子の駄目妻ぶりを私は異常とは思わない。程度の差こそあれ、仕事の場でこそ思い切り能力を発揮し尽くしている女の家の中ってこんなもんだろう。掃除洗濯、鍋釜の心配に全く価値や意義を見出していないのだからしょうがない。そしてこの種の女は、自分のそういう姿を見せたくない男とは絶対に結婚しない。(松田聖子も郷ヒロミとは結婚しなかったでしょ、って話が違うか)駄目な自分を総ざらえで見せても受け止めてくれる男、それでも愛してくれそうな男を本能的に選ぶ。多くの男が家事万端を妻にやらせて、そして妻を愛しているように、梨香子も彼女なりに要一を信頼し尊敬し愛している。忙しさをおして要一の子供を産むくらいに。この気持ちをわかる男の人ってどのくらいいるんだろう。

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