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松本 真美の<<書評>>

「百年の恋 」
評価:D
う〜ん。篠田節子は大好きなんだけど、今回は篠田節子で読みたい話じゃなかった。自分が主観の範疇でしか本に関われない(ら抜きだ!)ことを思い知らされた1冊。私、お産ってのを昔おもいっきりしくじってるんで冷静に読めないんです。ダメなのお産がらみの話。ちょっと前は平気だったんだけどな。ダメならダメで徹してればよかったのに、なまじ一時期「もうOK!」と思ったモンだから妙に自信喪失な今日この頃。今更なんでだ?チクショー!…でも、だからって知り合いのその手の話に過剰反応したりはしないから気を使わないでね工藤静香とか。知り合いじゃないけどね。これに関して言えば、デフォルメ感もあまり好みじゃなかった。してないのかなデフォルメ。でもこの夫婦、双方にイライラしないか?オマエら、どっちもどっちなんだよ!みたいな。本物の育児日記を唐突に挿入されても、斬新ではあるけどスタンスが中途半端になるだけで…。これってやつあたり?…いろんな意味でスミマセン。 
【朝日新聞社】
篠田節子
本体 1500円
2000/12
ISBN-4022575573
 

「岬へ」
評価:A
ゴメンね伊集院静。名前と断片的なワイドショー知識でもっとヤワな小説を書く人かと思ってた。こんなに骨太で直球派とは。読まず嫌いの先入観を反省。ただ、三部作最終章のこれから読むと、主人公があくまでも「自分で自分の将来を決める」ことにこだわる理由がちょっと不明瞭で残念。ちゃんと順路通りに進みましょうネってことか。英雄というセイネンを媒介に、人間の価値、生きることの意味、理不尽な死に対する憤り、社会や国に対して身体から発せられる問題意識…等々が、こうもストレートに強い筆致で描かれ迫られると、まるで読み手の<人間性>を測られているようで、寝ころんでミカン食いながら読んでちゃマズイよな気がした。その迫力のある主張や提示が物語としての面白さを損なっていないのがスバラシイ。押しの強さも極まれば快感?まっとうで強引な男性に襟首つかまれて一気に読まされた、みたいな感じが思いのほか心地よかった。新しい自分の嗜好を発見したかも。…勝手に言ってろ、だよな。 
【新潮社】
伊集院静
本体 2000円
2000/10
ISBN-4103824034
 

「涙」
評価:B
東京オリンピック周辺の日本、を題材にしたことが効いてると思う。当時の世相や風潮や価値観がこの小説の大きなキモになってる。その描き方が『昭和の全記録』あたりできっちり調べました的で、時折うっとうしかったけど。冤罪モノ、かつ山の手のお嬢さん萄子の成長記でもあるが、私はバリバリ恋愛小説として堪能。琴線に触れる小説は多々あれど、自分の琴線は1本ではないわけで、この小説に触れられた琴線は、私にとって久しく振動していなかった線だった--ってまわりくどい誉め言葉ですね。終盤はおもいっきり感情移入しちゃいました。<待ち人>淳もいい味出してたけど、私は勝の最後のセリフ「幸せになれ」にやけにぐっときた。くうっ!せつねえ!ある意味、幸せな女だぜ、萄子さん。とにかく、主役クラス以外の登場人物もひとりひとりきちんと描かれているし、乃南アサって職人!と好感が持てた佳作。一気読みしました。 
【幻冬舎】
乃南アサ
本体 1800円
2000/12
ISBN-4344000412
 

「心では重すぎる」
評価:B
「持つには厚すぎる」。でも好きです。例え、小説というより<渋谷系若者論><漫画及び漫画家論><SM論><新興宗教論><やくざのシノギ論>という現代社会学、そして、佐久間公の私的<探偵論>の講釈を受けているようであろうとも。そして、設定・展開がどうあれ、どこかいつもの大沢的プロミストランドに映ろうとも。なんでうざったい(!)のに好きかというと、安住してない気がするから。混沌として理解不能に見える現代という魔物も、ただカードを並べるだけでなく、咀嚼しようと試みる作者の姿勢に好感が持てるから。もしかしたら手の内の見せ方が巧いのかもしれないけど、もがく大人はかっこいい。ただ、個人的には<飼い主様>には最後まで不気味に突っ走って欲しかった気がしました。大沢在昌は読者に迎合することなく、今後もどんどん読者を選んで欲しい。いいじゃん、どーせ昔は「万年初版作家」って言われてたんだから。あ、無責任発言。 
【文藝春秋】
大沢在昌
本体 2000円
2000/11
ISBN-4163197303
 

「アニマル・ファクトリー」
評価:A
読後すぐ、家にあった『レザボア・ドックス』のビデオを観た。さすがに二癖も三癖もありそうなシブいツラ構えしてた、プリズンワールドの住人エディ・バンカー。面白くて一気に読んじゃいました。こういうざらついた人間達を描いた作品、好きです。行き止まりばかりなのに逆にメビウスの輪のようにどこにも辿り着けない、ゆがんだ閉塞感いっぱいの刑務所と、その中ゆえの価値観と善悪の基準が、<塀の外>のやっぱりどこかゆがんだ基準によってますます逸脱していくさまが、なんだかリアルでやるせなくて同時にちょっと爽快でした。アールとロンの<師弟友情>も至極まっとうで、だからこそ塀の中じゃ異端で、危うく哀しげでもあり、それが一気にラストに収束していくさまがすっげえかっこいい!最後が淡々としてる分、余韻がせつなかった。映画化するなら同じプリズンものの『ショーシャンクの空に』、はたまたタランティーノの雰囲気ではなく、マシュー・カソヴィッツの『憎しみ』の感じでお願いしたい。知らない?クールで超かっこいいんだから!
【ソニー・マガジンズ】
エドワード・バンカー
本体 1800円
2000/10
ISBN-4789716171
 

「冥府の虜」
評価:D
う〜ん。残念ながら最後まで引き込まれなかった。物語に奥行きが感じられなかったのはなぜなんでしょ。私だけ? 例えば、コトの大きさの割に、主人公嶋木に対峙する<国家>の存在が、異端キャリア警察官梶山ひとりしか見えてこないし、しかも梶山の存在理由はおもいっきり私的な思い入れの部分だけっぽいし、嶋木や真砂子の「昨日までの日々の孤独」の背景も薄くてぐっとくるものが足りないし、英治やイレーナもどこかステレオタイプだし…。原発、プルトニウム、旧ソ連、KGB、北朝鮮と、どれも真っ向から取り組んでいるのでしょうが、こう言っちゃなんですが、どこかで読んだ話という印象が拭えませんでした。…なんかエラそうなこと書いてるな、私。でも全体的にもっと翻弄して欲しかった。バイオレンスって意味で、じゃないよ。生真面目な作者なのかな。そういえばタイトルにもそれが出てるような…。このタイトルって損じゃないのかな。入口で読者を選別して、これでそそられるモンだけおいでよっての?
【祥伝社】
高嶋哲夫
本体 1900円
2000/12
ISBN-4396631820
 

「岡山女」
評価:A
心洗われました。毅然とした話は清々しい。それにしても、<怖さ>に対する自分のスタンスも変わったもんだ。十代まではなんでもやみくもに怖がって、そのくせ怖いモン好きで、よしゃあいいのにまとめて借りちまった<ホラー漫画>の夜の置き場所に困り、押入に入れれば押入自体が怖くなり、思い余って夜中に茶の間のコタツの中に突っ込んで寝て、翌朝、ばあちゃんに怒られた自分がなつかしい。人より少し正直で生々しく生きようとしたばかりに道を踏み外してしまった者達はぼっけえ哀しくて愛おしい。それを作者が奇を衒うことなくどこか柔らかい眼で見てる感じで前作より好感が持てた。よけいな装飾のない研ぎ澄まされた6編だと思う。個人的には「岡山ステン所」がイチバン好みだがどれにもきょうてえ感はなかった。それより、じんわり描かれた明治の最後の頃の妖しさと怪しさがたまらなく魅力的だった。 
【角川書店】
岩井志麻子
本体 1300円
2000/11
ISBN-4048732633
 

「ダイブ2」
評価:B
清々しい<DIVEワールド>の続きが読めてうれしいな。1も好きだったが、どこかよくも悪くもあだち充っぽいかも、などと思った。が、今回はその印象は払拭されたよく悪くも…ってしつこいな。いいのか悪いのか、はっきりしろ私!予測を半歩ずらした感じの展開が心地よい。今回の主人公沖津飛沫(しぶき…かっこいい名前だ)の物語の中でのポジション、及び、飛び込みに対するスタンスの変化も意外かつ自然。わざとらしくなく、よどみない流れで話が進むので、気安くどんどん読んじゃうが、この作者、すごいと思うな。1では、飛び込みという競技自体の知られてなさ具合が、物語を新鮮でストイックに見せたのか、と思ったが、オリンピック後もその印象は変わらなかった。見るのが好きになりました、飛び込み。
【講談社】
森絵都
本体 950円
2000/12
ISBN-4062105209
 

「八月の博物館」
評価:C
好き嫌いが分かれる物語だと思う。他の採点員の方はどう思ったか興味ある。採点員のみなさ〜ん、お元気ですか?どの本で世紀を跨ぎました?私はこれでした。『ネバー・エンディング・ストーリー』ですよね。で、痛々しいほどナイーブ。でも、こうも作者の物語に対するジレンマや模索や物語観を作中に織り込まれると、SF小説を読んだというより、作者の夢を含めた頭ん中に、読了時間分どっっっぷり付き合わされたって感じ。私は好感が持てたけど完全な好意には至らなかった。少年亨と鷲巣の部分だけはスポット的にすごく気に入ったけど。ところで有樹ってどうよ?要る?<私>の帰る場所かい?いつもながら誰に聞いてるんだ私。もっとグローバルな感想を書きたいんですが、重箱のスミのちまちま系しか思いつかずすみません。でも<同調>という概念にはとてもそそられました。好きだな、そういうの。時空を超える新しい方法論になるのでは?もしかして、もうなってるの?
【角川書店】
瀬名秀明
本体 1600円
2000/10
ISBN-4048732595
 

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