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原平 随了の<<書評>>

「百年の恋 」
評価:D
オタクな貧乏フリーライターの男と、バリバリにパワーエリートな銀行員の女との出会いと、電撃結婚。 この意外な組み合わせの可笑しさや、周囲の過剰な反応、ちっとも噛み合わない二人の結婚生活の珍妙さなどが活写されていて、また、男と女の本音の結婚観が垣間見えたりもして、前半部分に限って言えば、実におもしろく、かつ、大いに笑える。が、後半の子育て編ともいうべきパートになると、突然、物語が失速してしまうのだ。実在する子育てライターの本物の育児日記を文中に引用するなどの試みが裏目に出たとしか思えず、ただただ、紋切り型の男の子育て論と、ありきたりなドタバタ家庭劇が待っているだけ。これが、待ち焦がれていた篠田節子の新作かと思うと、百年の恋も一気に醒めてしまったような気分である。
【朝日新聞社】
篠田節子
本体 1500円
2000/12
ISBN-4022575573
 

「心では重すぎる」
評価:A
鮫島さんよりも、佐久間公の方にずっと親しみを覚えるのは、〈佐久間公〉シリーズで大沢在昌にハマったから……。ということもあるにはあるが、しかし何よりも、〈佐久間公〉シリーズは正統派のハードボイルドであり、失踪人を捜すという過程の中で、時代の病巣が最も残酷な形で現れる瞬間に常に立ち会ってきた、一人の無力な男の物語であるからだ。今回、佐久間公が捜すのは失踪したマンガ家である。西村繁男:著「さらば わが青春の『少年ジャンプ』」(幻冬舎文庫)を参考にしたのではないかと思われるマンガ界の過酷な内情や、新興宗教の裏側、渋谷を根城に、クスリに溺れる若者達や憎悪のみを誇りとする少女などが、痛み無しで読めぬほど繊細に描かれている。そしてまた、触れられたくない人の心の内に踏み込まざるを得ず、なぜ探偵を続けるのかと自問する佐久間公の迷い込んだ闇は限りなく深い。 
【文藝春秋】
大沢在昌
本体 2000円
2000/11
ISBN-4163197303
 

「冥府の虜」
評価:E
高速増殖炉の完成が間近な近未来の日本を舞台に、ロシアン・マフィアによるプルトニウム強奪計画を描いているのだが、思わせぶりなだけで、その実、さっぱり盛り上がらない近未来サスペンス。 キャラクターの造形が未熟なのは、まだ、ガマンできるとしても、展開がひどく間延びしていて、物語の整合性もうまく取れておらず、お約束通り、ラストには激しい銃撃戦が用意されてはいるものの、活劇の醍醐味など少しも感じさせてくれない。しかも、高速増殖炉の必要性が作中でしつこく言及されていて、作者の原発への思い入ればかりが目立つ、何とも困ってしまう一冊だ。
【祥伝社】
高嶋哲夫
本体 1900円
2000/12
ISBN-4396631820
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「ダイブ2」
評価:B
『DIVE!!』第一巻の〈新刊採点〉で、第二巻が待ち遠しくてならないと書いたのだが、第二巻である本書は、第一巻と比較して、物語の運び、キャラクター共に、ちょっと生彩がないように感じた。 最も気になったのは、主役が交替したという点である。当然、全体の構成を睨んでのことだろうから、ということは、何と!『DIVE!!』は、各巻で主役の交替する群像劇だったのか(……たぶん)。それが作者の意図なら、それはそれでもちろん構わないのだけれど、しかし、全巻をまとめて読むことができない以上、結果として、読み手の心情移入はぶつぶつ断ち切られてしまう。だとすれば、こうゆう形の出版方法には、少々、疑問が残るのだが……。 ともかく、主役交替のせいもあって、前半、ややかったるい流れも、今回の主役である沖津飛沫が故郷に帰ってからの後半部分では、魅力的な新キャラクターなども登場し、それなりに勢いを盛り返すし、ダイビングというスポーツを、別の観点から捉えようとする試みもあり、今後、本作がどのように展開するのか、まだまだ期待は残っている。ということで、第三巻が待ち遠しい……(と、一応、書いておこう)。
【講談社】
森絵都
本体 950円
2000/12
ISBN-4062105209
 

「終極の標的」
評価:D
偶然、目の前に落っこちてきた(文字通り、落っこちてきた)二千万ドルを、偽札と気づかず、親友と二人でネコババしてしまった米国特殊部隊の元隊員が、CIAやら、シークレット・サービスやらに追われることになる。出だしはなかなか快調だ。が、その後の展開は実にシンプル、あっけらかんとした痛快娯楽アクションである。親友が殺され、男は、親友の妹(これがまた、元麻薬取締局局員のタフな女で)と共に敵討ちに立ち上がるのだが、親友を失った心の痛みとか、そんな、活劇を停滞させるような描写は一切無し。敵もまた、派手なアクションに奉仕するためだけのような存在だ。男女二人が主役なのに、恋愛の気配がまったくないというのも、これまた徹底している。というわけで、とりあえず楽しめる一冊であることは確かなのだが……。
【早川書房】
J・C・ポロック
本体 1800円
2000/12
ISBN-4152083212
 

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