年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
     

一覧表に戻る


 
  イグアナくんのおじゃまな毎日
  【中公文庫】
  佐藤多佳子
  本体648円
  2000/11
  ISBN-4122037476
 

 
  石井 千湖
  評価:A
  スポーツバッグの中で「イゴイゴ」と動くイグアナはうろんな客。徳田のジジイ(すごく嫌なやつ)におしつけられたのだ。朝の6時に起きて専用豪華サラダをこしらえたり部屋の温度を25度以上40度以下に保ったりやたらと手がかかるし金もかかる。小学生の樹里に世話を強要して両親は毎日ケンカばかり。ヤダモンと名づけられた傍若無人な爬虫類に人々はふりまわされる。樹里が良い子すぎないフツウの子供なのがいい。大好きな日高クンを<思いがけない>男の子と表現するセンスも最高。この日高クン、小学生なのにいい男なので私も惚れた。ヤダモンは不気味だけどなんだかいじらしくて、だんだん可愛く思えてくるから不思議だ。トカゲ嫌いに効く本。

 
  内山 沙貴
  評価:C
  人の不幸が楽しいのは、その不幸は、自分ならどうやったって切り抜けられる不幸である、と思うからじゃないだろうか。イグアナなんて飼いたくなければペットショップにでも売ればいいじゃないか?ええ?理事長が怖いって?理事長が文句いうなら、ここは男だ、ビシッと辞表、突きつけてやればいいじゃないか。なーんて思いません?人のしがらみはとびきりの毒気のシェイク。いくらでもジョークのネタになってしまうからこわい。オセロを返すようにパタパタと現実を非現実的な笑い話にすりかえる。他人の不幸が愉快でたまんない、という人は必読です。極彩色のイグアナくんが大きな不幸をボタボタ落としながら、暖かな午睡に誘ってくれます。

 
  大場 義行
  評価:C
  誕生日にイグアナを貰った女の子と、家族の奮戦記、しかもイラスト付。間違いなくこれがイチオシになるだろうと予感していたのだが、蓋を開ければこの評価。児童文学は好きだし、動物飼育奮戦記も好きなのに。主人公とクールボーイの仲が気になったかと思えば、イグアナが暴れていたり、父母が喧嘩しまくってたりと確かに読ませる。しかも挿画や造本も楽しい。全部クリアしているはずなのに、なぜか物足りない。これは色々混ぜ過ぎて、しかも全ての話が完結しているワケではないからだろう。クールボーイとどうなるのか、イグアナは巨大化したのか、おとーちゃんは本当に大丈夫なんかいと、この話の後が気になりすぎる。

 
  操上 恭子
  評価:A
  今、私の日本の一押し作家は佐藤多佳子だ。前作『しゃべれどもしゃべれども』も良かったが、最新作『神様がくれた指』ではまってしまった。で、今回イグアナである。これは当たりかはずれか、読む前の方がドキドキした。結果は大当たりだった。不自然な点がないわけではない。「いくら改築してサンルームを作ったからといって普通の御家庭で全長2mにもなるグリーンイグアナを飼えるのか」とか「クソジジイの無理難題に従うくらいなら資格があるのだからとっと転職すればいいじゃないか」とか気にはなった。でも、動物を愛したことがある人なら、きっとこの物語に深い共感を覚えることだろう。最初は、嫌々仕方なくイグアナの世話をはじめた5年生の樹里は、次第にイグアナに対して責任を感じ、好きになり大事に思うようになっていく。そして、イグアナが人間とは別の価値観を持った生き物であることに気づく。ペットを子供のおもちゃだとしか思っていない人達にこそ、是非読んでいただきたい。

 
  小久保 哲也
  評価:A
  突然家にやってきたイグアナを巡って巻き起こるさまざまな騒動を、少女の視点からユーモラスに描いている。その語り口が、実に自然でかわいらしい。でも、それだけじゃない。たとえば、主人公の少女が風邪を引いたときに、イグアナの「ヤダモン」をお腹に乗せ、眠りながら見た「緑の夢」。豊かな大自然に包まれて、体一杯に自然の温もりを受け止めるその夢は、とても懐かしい気持ちを思い出させる。少女の感じた温もりが、ストレートに伝わってくる。そして同じように、本書を読み終わると、気持ちがゆったりと、ホカホカしてくる。そんな、優しい本。

 
  佐久間 素子
  評価:A
  再読。小動物が苦手なので、ペット本は敬遠しがちなのだが、イグアナだしな、と手がのびた。これが佐藤多佳子初体験。ふっと心が楽になった。読んでよかったと思った。緑の夢をおすそわけしてほしくて、イグアナ絵はがきを買ってみた。今も時々飾っている。手間がかかるくせに、ちっとも愛情が返ってこないイグアナもいいが、あたりまえにして思いがけない男の子・日高くんがものすごくいい。キツネとヒラメに似ているという顔も好みな気がする(関係ないか)。彼の人目を気にしない正直さを、樹里はクールでかっこいいと評するが、小学生にしてけっこうな男性観である。見習いたいものだ。大人向きでも子供向きでもどっちでもいい。甘さと甘くなさのさじ加減が絶妙なこんなおはなしをもっと書いてほしい。

 
  山田 岳
  評価:B
  え”ー、イグアナなんて、毎日くたーってしてるだけやん。観察日記になれへんでー、と思っていたら、主人公の樹里ちゃんは新しいえさづくりに挑戦しはって、脱皮を観察しはって、お風呂にまでいれたげはって、ママに見つかってものすごい悲鳴をあげられはって(笑)。毎日が「うっひゃあ!」の連続やねんなあ。いっしょになって「うっひゃあ!」言うてたら、なんや硬い大人の殻から抜け出した気イしてん。

戻る