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勝手に目利き
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内山 沙貴の<<書評>>
文庫本 Queen

「猫背の王子 」
評価:C
明るい闇夜に響く、背徳でポジティヴな旋律。人はいつだって目標に向かって突っ走ることはできない。そんなに単純じゃない。人の気持ちだってカオスなのだ。でも他人からは、その複雑さはわからなかったりする。主観は対象を歪ませる。やわらかなヴェールを透かして対象をみる。演劇は、一度はまると溺れてしまう。ドボドボと沈んでいく。自分の演技に鳥肌立てて、書いた脚本に陶酔して、演出しながら痺れちゃって、その場でもう、死んでもいいって本気で思う。この主人公もそうなのだろうなぁと思う。ヴェールをはずした舞台のライトの中で、自分の本質と出会い理解して、フタをして決別する。この主人公は破綻直前なのになぜか前向きな匂いがする。ちょっとイイ感じだった。

【集英社文庫】
中山可穂
本体 419円
2000/11
ISBN-408747268X
 

「イグアナくんのおじゃまな毎日」
評価:C
人の不幸が楽しいのは、その不幸は、自分ならどうやったって切り抜けられる不幸である、と思うからじゃないだろうか。イグアナなんて飼いたくなければペットショップにでも売ればいいじゃないか?ええ?理事長が怖いって?理事長が文句いうなら、ここは男だ、ビシッと辞表、突きつけてやればいいじゃないか。なーんて思いません?人のしがらみはとびきりの毒気のシェイク。いくらでもジョークのネタになってしまうからこわい。オセロを返すようにパタパタと現実を非現実的な笑い話にすりかえる。他人の不幸が愉快でたまんない、という人は必読です。極彩色のイグアナくんが大きな不幸をボタボタ落としながら、暖かな午睡に誘ってくれます。
【中公文庫】
佐藤多佳子
本体 648円
2000/11
ISBN-4122037476
 

「競作 五十円玉二十枚の謎」
評価:A
普通の一般人が(普通じゃない一般人って?)毎週50円玉を20枚集めるというのは難しいですよねぇ、やっぱり。お買い物をしてお釣りを貰うときにも10円や100円が4枚ということはあるけど、50円玉が2枚とか3枚とかっていうのはありえない。しかも「毎週土曜に必ず50円玉を20枚」と、枚数指定に曜日指定まである。これがまさにこの本で提出された"謎"であるわけです。……しかし、本当に重大なのか、くだらないのかわからないきわどい一線をゆくこんな謎に対して、たくさんの作家さんや作家以外の方々が、ぬーんぬーんと頭を絞ってなかなかに素晴らしく微笑ましいストーリーを創出してくれたものです。「ああ、これが正解か!」と目ぇキラキラさせてうなずけるような解答はなかったけれど、「あー、それもイイかもねー」といった感じのほのぼのしさはありました。もうすぐ春だなぁっと思わせる一冊でした。(いや、まだまだ冬ですか。)
【創元推理文庫】
若竹七海ほか
本体 740円
2000/11
ISBN-4488400523
 

「炎都」
評価:D
文章が臭い。漫画をそのまま小説にした感じだ。開いた本をにぎりしめながら百歩後ろに引いてしまった。文字で書かれた文章には映像とリズムがある。文を読んでいるときに頭の中にわいてくるイメージが"映像"で、単語や文、文章から匂い立つ、音声を離れた"リズム"は映像に対して"香り"かな。文章からつくりだす、頭の中の想像と、文章そのものの、目を飛ばした先々から受ける印象と。この「炎都」という物語、内容というか、映像としてとらえるには悪くない。ケド、文章がヤダ。鳥肌が立つ。リズムが最悪。セリフにセンスがない。とまあ綺麗なリズムが大好きな私なので散散に罵倒してしまうけれど、でもね「炎都」は読む価値がある。話の内容や良いところは他の採点員さんの書評を参考にしてね、気になる人は読んでみてくださいね。
【徳間文庫】
柴田よしき
本体 648円
2000/11
ISBN-4198914060
 

「スタンド・アローン」
評価:C
決して感情を表さない、お高くとまったじゃじゃ馬みたいな横顔の写真。私が水なら君は油。君は黄色いドレスを全身にまとって、つかもうとする手からするりと滑り落ち、君は遠くの景色をじっと見ている、私の気も知らないで。という訳で、シリーズ三作目である本書を読んで、始めて主人公の名を知った私には、とてもとっつきにくい作品だった。ただ、淡白に感じた中にもしっかりとした芯があることは分かったし、話の結末は全く予想がつかなかった。ものすごい量の賞をとっているようだし、それもすごいことだと思う。ミステリばんざい。読み終えた後、大切だった偉大な友人が、ふと、自分とは別の道に歩もうとしていることに気づいた時のような、うれしいような、少し切ないような、そんな気持ちになった。
【ハヤカワ文庫】
ローラー・リップマン
本体 800円
2000/11
ISBN-415171653X
 

「絶海の訪問者」
評価:C
本物の絶望は、荒れ狂う海、激しく打ち砕ける波、全方向から刺すような豪雨、轟音の中襲ってくるのではなく、一瞬の空白、凪が完全に停止した瞬間、頭脳の中をよぎる白光の光、雨は止まり雲は固まり耳は音を感知しなくなった静態のときに、からだの中からふって湧いてくるものだということに気づいた。開けちゃいけない堅い扉を開けてしまった後に見た、深い、青緑の色をした絶望。しかしこの主人公は、そんな絶望をトントンと飛びこえてしまったなぁ。あ、どろぬまに落ちた奴もいたか。本書の魅力は、最初に仕掛けてあった爆薬が見事にパーフェクトに爆発して、最後まで一気に読ませてくれるところだろう。40年前に書かれたとは思えないほど新鮮な、エンターテイメントな一冊だった。
【扶桑社ミステリー】
チャールズ・ウィリアムズ
本体 705円
2000/10
ISBN-4594030009
 

「泣きの銀次」
評価:D
エサを求めて水面ギリギリをいく水鳥みたいに、水面をパシッパシッとかすめていくような話だ。話自体はおもしろいと思うのだが、それは部分部分で区切ったときにそう思うのであって、全体を眺めてみるとどうもおかしな景色が残る。朝、居間に降りてみると、裏返されたお面があり、「ああ、これは昨日見た、やけに表情の生々しいお面だな」と思って裏返す。するとそれは違うお面で、やけに真に迫った恐ろしい顔が描かれていて、ちょっとびっくりする。信じていた何気ないことが、そこにはなかった。そんな感じだ。話の始まりから終わりまでの間にいろんな事件が起るのに、主人公の銀次が精神的に全く不動であるため、そんな不自然さを感じるのかもしれない。おもしろいけどおかしな話だった。
【講談社文庫】
宇江佐真理
本体 590円
2000/12
ISBN-4062730375
 

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