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   絶海の訪問者 
  【扶桑社ミステリー】
  チャールズ・ウィリアムズ
  本体705円
  2000/10
  ISBN-4594030009
 

 
  石井 千湖
  評価:C
  水の上は不安定だ。ましてや見渡す限りの海の真ん中でトラブルが起きたら?考えるだけでも恐ろしい。イングラムと妻のレイはヨットでの新婚旅行の途中、とんでもない災難に巻き込まれる。おまけにふたりは別々に困難と闘うことになってしまう。イングラムの超人的な能力とレイの頭のよさに感心。イングラムは「陸の生活につきもののストレスや不快感に悩まされることのない」海を賛美しているのだが、愛する海も彼の敵になってしまう。極限状況におかれたときの人間の醜さ。楽しいはずのハネムーンでこんなめに遭うなんてお気の毒。登場人物はたった六人。二隻のヨットのうち一隻は沈みかけている。スリル満点なのだが不思議とあとに何も残らない。

 
  内山 沙貴
  評価:C
  本物の絶望は、荒れ狂う海、激しく打ち砕ける波、全方向から刺すような豪雨、轟音の中襲ってくるのではなく、一瞬の空白、凪が完全に停止した瞬間、頭脳の中をよぎる白光の光、雨は止まり雲は固まり耳は音を感知しなくなった静態のときに、からだの中からふって湧いてくるものだということに気づいた。開けちゃいけない堅い扉を開けてしまった後に見た、深い、青緑の色をした絶望。しかしこの主人公は、そんな絶望をトントンと飛びこえてしまったなぁ。あ、どろぬまに落ちた奴もいたか。本書の魅力は、最初に仕掛けてあった爆薬が見事にパーフェクトに爆発して、最後まで一気に読ませてくれるところだろう。40年前に書かれたとは思えないほど新鮮な、エンターテイメントな一冊だった。

 
  大場 義行
  評価:A
  幻の作家による、幻の作品らしいのだが、今まで何をしていたのだ、馬鹿野郎といいたい。ここまで先が読めず、緊張感を持続させる物語が63年に書かれていたとは。確かに一瞬昔の映画を見ているような錯覚に捕らわれる。舞台は海の真っ只中のヨット二隻のみ。登場人物はたったの6人。と、今のエンターテイメント小説では考えられないほどスリムな設定。タイトル通り突然の訪問者によってハネムーンを台無しにされた主人公夫婦が、とんでもない事に巻き込まれ、悪戦苦闘の航海を続けるのだ。或る意味密室劇だからこそ緊迫感が生まれるのだろうが、ここまでとは。この読了後の、昔の名画を見終わったような充実感。なかなか味わえるもんじゃない。あとがきを読んでみると、まだまだ未訳があるではないか。じゃかじゃか出してくれえ。読み足りない!と叫びたくなる。

 
  操上 恭子
  評価:B
  漂流もの(本書は正確には漂流ものではなく海洋冒険サスペンスだが)の大きな特徴の一つは、登場人物が極端に限定されるということだが、本書の場合も登場人物が5人しかいない。登場人物が少ないと、読む方としてはいちいち「こいつは前にも出ていた気がするけどどういう人間だったかな」とか「あれを言ったのは誰だったろう」などと悩まずにすむので、一気に読める。そして、本書には一気に読ませるスピード感とスリルがある。なにも気にすることなく、ハラハラドキドキに浸ることができる。終盤はちょっと御都合主義的でなくはないが、気持ちよく楽しめる小説である。

 
  小久保 哲也
  評価:A
  最初から最後まで、目が離せないハラハラしどうしの作品。登場人物に、一時代前のワンパターンを感じるところもあるけれど、でもそれが逆に、プロットのスリリングさを一層浮かびあがらせている。まさに、「どうだこれでもか」のサスペンス直球勝負。こういうストレートな作品は、たまに読むと本当にはまります。場面描写も、さながら映画を観ているような気にさせるほどヴィジュアルだし、登場人物の描写も思った以上にしっかりとしていて◎。敢えて難を言うなら、カバー・イラストになんだかとても違和感を感じてしまう。せっかく作品がヴィジュアルなのだから、せめて作中のワンシーンを連想させるイラストにして欲しかった。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  沈みかけたヨットにとりのこされた夫と、若くて頑健な狂人にヨットをのっとられた妻。愛する者を助けるため、離れゆく二つの船上で戦いが始まる。シンプルでよみやすいが、スリラーとうたっている割には幾分のどかな印象だ。風のない晴天のじりじりした焦燥感、夫妻の孤独な戦い、状況は十分スリリングなのだが、「訪問者」ヒューイーがあまり怖くない。性格、過去、狂人という設定に対する説得力、どれも弱い。でもそれは、60年代に書かれたこの本のせいではないのだろう。世紀末の小説に出てくる異常者が怖すぎるのだ。また、それに慣れた読み手側の問題である。それにしても、絶海って・・・。訳はいいのに、これまたひどいタイトルだ。

 
  山田 岳
  評価:AA
  絶海の波間に浮き沈みして見’えるヨット。そこから手こぎのボートで必死になって来はる人。あかん。これだけで、も、もう、こ’わい!!あとはじぶんで読みなはれ。ぜぇったい、ぬけだせへんでぇ。

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