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   ぶらんこ乗り
  【理論社】
  いしいしんじ
  本体 1,500円
  2000/12
  ISBN-4652071922
 

 
  今井 義男
  評価:AA
  ある日、祖母が差し出したのは弟の書き溜めたノートだった。弟は幼い頃、喉を雹に打たれて以来、人前で声を発することをやめ、樹上のぶらんこで寝起きするようになった。夜な夜な訪う動物たちの不思議な聞き書きを綴ったのがそのノートである。姉の<私>から見れば果てしなく非日常の世界に弟は生きていた。弟の内面を見つめていたつもりの姉の視線がようやく真の焦点を結んだとき、ぶらんこに乗った弟は手の届かない場所まで舞い上がっていた。砂糖菓子のように危なっかしく、ガラス細工のように透き通った佳品である。毅然とした祖母の生き方にも強く共感した。この本は最後までとっておいた。タイトルの響きがそうさせたのだ。児童文学に向き合うのはこわい。自身の磨耗した感性をさらけ出されるのではないか、という強迫観念にかられる。今日まで無為に歳を重ねた付けを清算させられるような焦りをも伴う。読むと敗北感に苛まれるのが常である。でも、こんないい本が読めてよかった。

 
  原平 随了
  評価:E
  困ってしまった。この物語、何がおもしろいのか、さっぱり解らないのだ。何とか、物語の中に入り込んで、その流れに身を任せたいと思うのだが、目が字づらを滑っていくだけで、つまらなかったのかどうかさえ判然としないほど、このお話はボクの読解力の限界を越えてしまっている。もちろん、これは〈児童文学〉であるから、難しい内容であるはずがない(たぶん)。どうやら、幼くして亡くなった(あるいは、単に消えてしまったのか?)、作り話の得意な天才少年のお話のようだ。姉の心に深く刻まれた少年の思い出と、その思い出とシンクロして、少年の作った童話が交互に語られるのだが……。それ以上、お話の意味を読み取ろうとしたり、作者の意図を推し量ろうとしたりするのは間違い? それって、古い読み方? この作家、多彩な活躍をしている、近頃評判の人だそうだし、解る人には解るんだろう、きっと。でも、別に、解らない人でちっとも構わないや。ボクは、ただ、おもしろい〈物語〉を読みたいだけなんだから。


 
  小園江 和之
  評価:A
  以前から、いしいしんじは良い、とひそかに思っていた私にとって、本作の登場はうれしい。天才でぶらんこ乗り名人の弟が、ある事件を契機にいろいろな「ほんとう」を聴き取れるようになり、それをノートに書き綴っていく。そこには「コアラはユーカリの葉でぶっとんでいる」なあんて、誰も知らない秘密のことが書いてあったりして、むふふな気分にさせられてしまう。それと、身体半分に毛の無い犬が登場するんだけど、これがなんとなく初期の作品『アムステルダムの犬』(講談社/出版社/品切れ・重版未定)のパトラッシュを彷彿とさせて笑ってしまう。でも最後のほうでは、この毛半分犬にうるうるさせられたけどね。泣かせとか笑わせとか、小説の「ウリ」にはいろいろあるんだろうけど、この作品はどれにも寄り掛かっていない。なのに心地よい感覚がじいいんと脳味噌のシワに染み込んでくる。こういうのって物語制作技術以前の問題なんだろうな、きっと。

 
  松本 真美
  評価:C
  せつなくて苦しくて儚くて暖かい物語。けど好きになれなかった…と書くのは、自分の心が汚れていることをカミングアウトするみたいでつらいっす。すごいとは思うの。痛くて同時に心地よくて泣きそうにもなったの。でもね、言葉が、 世界が、あまりに「いまだ錆びついていない感性を持ってると自覚している大人が、見え過ぎる子どもの世界の愛しさと哀しさを見事に描き」過ぎてる気がしたの。お話がきれいごとだけではないわりに…っていうか、かなり残酷だからこそ、昔、ぼおっとしてただけだった子ども(私ね)には、美しい解釈しか許されないような妙な圧迫感を感じるの。それって、今、しょぼくてひねくれた大人(これも私ね)には、俯瞰されてるみたいでどっかうさんくさいの。ヘンな被害者意識でしょうか。この本を読んだら、以前、図書館で児童書担当をしていたとき、自分の選定本がいつも他の職員から微妙に、というか明らかに浮いていたことを思い出しました。

 
  石井 英和
  評価:C
  童話の体裁をしつつ、実は「童話を読む趣味のある大人」を対象にした書のようだ。漢字にもルビはあまり振られていないし、なにより、帯の惹句には「若者に熱狂的な支持を受け続けている著者の」とある。実は大人しか食べていないお子様ランチ。もちろん、皆、それは承知の上でのゲ−ムなのだろうが。そして読者は「子供の頃のピュアな心を大切に」とか言いつつ、この書を手に取る・・・そのゲ−ムに乗るか乗らないかは、趣味の問題だ。ところでなぜ、主人公は「天才少年」に設定されねばならなかったのだろう?それが、声を失うという形の聖痕を受け、その見返りのように、動物たちと心を交わす能力を身につける。「飛び級」で、12歳で大学に入り、そして神秘の失踪を遂げ・・・ああ、いつか帰ってきた時に、彼がジョナサンとか尊師とかになっていませんように。

 
  中川 大一
  評価:C
  今日、息子が通う保育園で作品展があって、行ってきたところ。0歳児から5歳児まで、120人分のお絵かきが展示されてて壮観だった。0歳の時は直線のぐちゃぐちゃだけど、1歳になって手の動きに変化が加わると、円を描けるようになるんだ。ちょうど、本書203頁のイラストのように。2〜3歳では人物を描いたりするけど、「頭足人」って言って、頭に手足が生えてるんだね、つまり胴体がない。ちょうど、13頁のイラストみたい。そして、もう少し大きくなると、116頁にあるような胴体のある人物を描き出すわけだ。イラストはすべて著者の手によるもので、子どもの絵という想定のやつは、ほんとそれらしい。よく観察してる。ああっ、文章について触れるスペースがないっ。ま、いっかヽ(^0^)ノ、他採点員の欄参照。

 
  唐木 幸子
  評価:C
  帯の文句に、「いなくなってしまった天才少年、、、」等とあるので、これはきっとこの賢い可愛い天使のような弟は死んでしまうんだ、なんてことだ、、、とうなだれつつ読んでいたら、そういう気配は話が進むにつれて薄れていく一方。なんで帯にこういう読者を惑わすようなことを書くかなあ。確かにテーマが何なのか、掴みにくい小説ではある。家族のありようも互いに愛情があるようでいて生活感がない。でもこういう小説に意味や実感を求めたってしょうがない、と私は悟りつつあり、読後どこか印象に残る面白い部分があれば、私はCをつけることに決めたのだ。で、本作で最も興味深かったのは、聞くだけで誰もが倒れ伏して吐いてしまうような強烈な悪声ってどんなんだろう、ということなのであった。

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