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   ライオンハート
  【新潮社】
  恩田陸
  本体 1,700円
  2000/12
  ISBN-4103971037
 

 
  今井 義男
  評価:A
  私は了見の狭い人間であるが、許容できるジャンルの間口はそれ以上に狭い。時空を越えたラヴ・ストーリーというだけでもうお手上げだ。その上に登場するのが異邦人エドワードとエリザベス‥‥覇権主義の象徴みたいな名前である。悪趣味だ。げんなりする。そこで深呼吸をし、これまでに新刊採点を通じてさんざん思い知らされた食わず嫌いの愚かさを反芻しつつ我慢して読み続けたら、半端ではない面白さの小説なのだった。雨に打たれながら一人の少女が群集をかき分ける。ふいに呼びかけられてとまどう青年。最初の出会いと別れの場面はあまりに唐突ではかなく、私の雑念を吹き飛ばすに十分だった。美しい映像が湧くように後追いをする色彩豊かな文章と、えもいわれぬ既視感にひとたび身をゆだねると、たちまち物語の螺旋に吸い寄せられた。各章の扉に配された絵画とその時代背景も効果的で味わい深く、余韻を残したラストも申し分ない。

 
  原平 随了
  評価:B
  まるで、寄せ木細工のように組み立てられた、タイムトラベル・ラブストーリー(という言葉が適切かどうか自信が無いけど)の傑作。幾重にも張り巡らされた伏線と、綾なす構成のその見事さ。この作品は、ロバート・ネイサンの『ジェニーの肖像』への個人的オマージュとして書かれたのだそうだが、元ネタを凌駕して、恩田陸にしか書けないオリジナルな物語になっている。特に、中の一編『イヴァンチッツェの思い出』は、ミステリーの要素も加味されて、実に味わい深い。また、装丁も凝っていて、各章の頭に置かれた絵はなかなか効果的だ。恩田陸作品には、これまでにも、ゼナ・ヘンダーソンの〈ピープル・シリーズ〉や、ジャック・フィニィの『盗まれた町』などの名作へのオマージュとして書かれたものが何作かあって、そういった作品には、二重の楽しさ、二重のおもしろさがあるのだが、しかし、できれば、次回作は、誰に捧げられたオマージュなのか判然としない、SFにもミステリーにもファンタジーにも分類不能の、古風で甘美な〈物語〉を、ぜひぜひ、書いてもらいたいものだ。


 
  小園江 和之
  評価:B
  時の流れの中で何度も出会いを繰り返す男女。しかもその出会いは一瞬で、別れては次の機会をひたすら待ち続ける。というと、作者も書いてるけど『ジェニーの肖像』(ロバート・ネイサン/早川文庫その他)ですわな。じゃあ、これが単なる二番煎じかというかと決してそんなことはなくて、巧みな構成と読みやすい文章で楽しめます。主な舞台がヨーロッパなんで、たとえばこの趣向で翻訳物だったら、読み取りにかなりのエネルギーを割かれてしまい、本来の味を十分に楽しめないんじゃないかと思います。あっちの読者には説明不要の歴史事項でもこっちにゃさっぱり、ってこともありますしね。ファンタジックメロドラマが読みたいなら不見転で買っても外れないでしょう。たぶん。

 
  松本 真美
  評価:C
  受信トレイが気になってしょっちゅう覗くくせに、いっぱい受信したらしたで、「もう!私だっていつもヒマじゃないんだよな」と嬉し迷惑顔で言ったりして、でも一番の本命からはなかなか来ない…そんな私のEメールライフ。これって、私にとっての恩田陸の現状と似てる。最近の新刊ラッシュ、ファンとしてはうれしいけど、読むのが追いつかない。ところで、常野方面はどうなってるのかなあ。早く読みてえ!相変わらず凝った世界。それが持ち味なのでしょうが、もっとシンプルでもいい気がしました。壮大なスケールのタイムトラベル輪廻転生ラビリンス話、という感じ。「魂は全てを凌駕する。時はつねに我々の内側にある」---というのはすごく好みの解釈なのですが、前半の期待感に後半が応え切れてない感じで残念でした。でも、これからも恩田トレイはしょっちゅう覗くと思います。本命よろしくネ!

 
  石井 英和
  評価:C
  携帯をすりゃ−い−じゃね−か!の一言によってこの世から駆逐された(?)「すれ違いメロドラマ」をSFの姿を借りて再生させたもの。遙かなる時間と空間を越えて、切なくすれ違う愛の姿、と言う事なんだろうけど・・・ゴメン、それを、「人生の様々な局面に現れる、得体の知れない美女の幻影・・・こんなのに取りつかれたらノイロ−ゼだなあ」と思ってしまったり、「永遠の幻の恋人」を待ち続ける兵士の独白を読みながら「さぞ美しい幻なんだろうけど、でも、せっかくの人生、他にもやる事あるだろう?」とか呟いてしまう私である。が、そんな野暮な私の心の琴線も、例えば温室のある家における老夫婦のエピソ−ド等には震えないでもなかった。余り壮大なイメ−ジを広げず、この辺で手を打っておくのがメロドラマにふさわしい物語のサイズだったのでは。

 
  中川 大一
  評価:B
  「会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ」。こんなセリフ、舞台が現代日本じゃ無理だけど、このSF的設定だとOK。各章のトップに一幅の絵画が掲げられ、作者がそこから得たイメージを、あるいは絵画のシーンそのものを文中に取り込んでいる。そういや以前、『マティス・ストーリーズ』(A.S.バイアット)という本を読んだっけ。あっちはアンリ・マティスの絵画に触発された小説集で、やっぱカラー口絵が入ってた。同様の発想だけど、センスは本書の方がいい。ただ、会えぬほどに思いは高まり、ってのは確かに恋愛の真理だろうけど、それだけじゃここまで二人が惹かれ合う理由としちゃ弱いと思う。好きだったから好きなんだ、では堂々巡りの感あり。そもそもそういう話ではあるけど。

 
  唐木 幸子
  評価:B
  日本人がエリザベスだのエドワードだのと言った登場人物で外国を舞台に書いた小説には、どこかに無理を感じるのだが、本作にはそういう不自然さが殆ど感じられない。日本人作家が書いたとは思えないような異国の写実性が冒頭から漂う。すごいぞ、恩田陸。夢の中で出会い、時空を超えてその邂逅を求め合う男女の心情が連作で語られる。それぞれの作品で時代も書かれ方も異なるが、『イヴァンチッツエの思い出』は推理サスペンスにも溢れて素晴らしい出来だ。『ライオンハート』とは何のことかとリーダーズ英和辞典で調べたら、【勇猛豪胆な人】【イングランド王リチャード一世】と出ていた。ふーむ。詳しくは書けないが、くれぐれもSMAPファンが題名に惹かれて買わないように。あの曲とは何の関係もない。

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