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勝手に目利き
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   ハドリアヌスの長城 
  【文春文庫】
  ロバート・ドレイパー
  本体819円
  2000/12
  ISBN-4167527634
 

 
  内山 沙貴
  評価:B
  二人の男がいる。背の高い木立の中を進む、年季の入った泥だらけの四駆。フロントから見える景色は、ライトによって照らし出された木の影と、夜の影でこの先は永遠に続くようなあぜ道があるだけ。彼の隣に立つ男の道は素晴らしい。灰色の空のした、均整のとれた灰色の建物が立ち並ぶ中を燻したピンク色の車が走る。道路には黄色いラインが引かれ、信号のない交差点を抜けていく。だが共に、無機質で、人の気配がない道だ。二人とも、一人だけの大きな世界を抱えて、走行を続けなくてはいけない。何百、何千とあったはずのチャンスを捨てて今、二人は、全く無意味な人生としてここにいる。この無意味さを、無価値なものにしないで欲しい。私は、こういう無価値に見える人生を送る人々や、それを描いたものを、もっと評価してほしいと思う。この作品は地味だけど、そんな事を思わせる作品だった。

 
  大場 義行
  評価:C
  脱獄犯の話なのに、たいして脱獄シーンは出てこないし、しかも主人公が魅力的ではない。でも、過去の話、現在の苦境を地味ながら重ねて、最後に一気に晴れ渡らせるという荒技の為、脱出という言葉が読了後に浮かんだ。あまりに地味な展開で、何度も挫折しかけたが、この最後のシーンのために、全部それが吹き飛ぶ。霧がさっと消えたかのような素晴らしいラストだった。ただ、この本の開放感を味わうには、そうとうな忍耐力が必要だとは思う。

 
  操上 恭子
  評価:B
  舞台はアメリカ、テキサスの片田舎。語り手でもある主人公は、殺人犯の脱走囚。物語は、主人公が特赦を受け、生まれ故郷の刑務所の町に戻ってくるところから始まる。どう考えてもミステリーの設定だ。文章もミステリーの文法で書かれている。ところが、どんな事件が起こるのかと期待しながら読みすすめても、何も起こらない。この作品は、ミステリではないのだ。じゃあ何なのか、と聞かれて答えてしまうと、読む楽しみを奪ってしまうことになりそうだ。是非御自分で読んでいただきたい。前半は退屈で、読みすすめるのが苦痛かもしれないが、最後には大きな感動が待っていることだろう。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  絶え間なく流れて行く文章から立ち上がる情景に身を委ねたい、と思うときには、この本は最適だ。幾重にも積み重ねられて行く描写は、隅々まで描き込まれた絵画を見るようで、とても味わい深い小説である。ただ物語が現在と過去を行き来するとき、分かり難いので最初は戸惑う。気が付くと、過去の風景に囲まれてしまっていたりするので、混乱する。けれどもその分かり難さが、慣れてしまうと逆に嬉しかったりするのだから、不思議だ。活字中毒には、ちょうどよい分量と内容の作品。

 
  佐久間 素子
  評価:A
  大穴だった。何度、途中で読むのをやめようと思ったことか。アメリカ南部の小説によくある、乾いたくらーい感じも、ぼんやりした主人公も、うっとうしいし、脇役の名前と職業が難しくて判別ができない。話もちっとも進まない。しかし、やめてはいけない。この読みにくさもある種の伏線と考えてほしい。過去が明らかになるにつれ、徐々に断片がつながりはじめる。すべてに理由がつけられる。卑屈になる主人公に妹が怒りを爆発させるシーンでまず涙。失った時間の重さを感じさせるエピソード(一々泣ける)の分、ラストシーンがすばらしい。自我をとりもどす長い長い闘いの物語であり、また、変形してそれとはわからない程かすかな友情物語である。

 
  山田 岳
  評価:E
  わっからへん。アメリカの、南部の、15歳の少年の考えてはることは。いや、お’となも・・・。夏目漱石みたいにこ’まかいこ’まかい描写をつみかさねてはるのやけど、なんや、かんじんのことは落としてはるのとちゃいますか?それは最後のおたのしみ、なんて言わはるのやったら、あかんわ。評者は、もう人生折り返してんねん。そないにのんきな話には、つきあってられへん。長城だけに、話もめちゃめちゃな’がい?しゃれにもなれへんで。

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