年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
     
 
   穢れしものに祝福を 
  【角川文庫】
  デニス・レヘイン
  本体740円
  2000/12
  ISBN-4042791034
 

 
  石井 千湖
  評価:B
  ハードボイルドが嫌いだ。食わず嫌いというやつでタフでストイックな探偵とか気のきいたセリフとスタイリッシュな文体、謎の美女と翻弄される男のロマンなどを勝手にイメージしてしまう。たいてい期待しないで読むからか意外と面白かったりして。『穢れしものに祝福を』も凝った文体の一人称ではじまるのであまり気乗りがしなかった。謎の美女出てくるし。ところが失踪した富豪の娘を追ううちに予想外の方向にどんどん展開していく物語にいつしかのめりこんでしまった。脇役では怪物ブッパがものすごくいい。主人公のパトリックはそれほど不快じゃないし、相棒のアンジーもなかなかカッコイイ。ただシリーズ三作目なので前作のネタバレ部分あり。注意!

 
  内山 沙貴
  評価:C
  この小説の世界には善や悪は存在しない。代わりに忠実な利害関係と人の感情がある。巣に群がるはたら蜂の大群のように、みんなてんでばらばらに動き回る。ぶつからないように気を付けながら。あるとき、彼ら眺めていた大きな手が何かをかすめ取っていく。蜂はその埋め合わせに他の蜂を攻撃したり、他の巣から蜂を連れて来たりする。彼ら二人もそんな蜂だった。そして最高にクールでかっこいい蜂だった。誰からも信用されて、頼りになり、評判はよく、最後まで自分たちのやり方を通す。大きな手が何かを彼らからさらっていった時、彼らは容赦情け無く他の蜂を攻撃した。たとえ他の蜂が一匹もいなくなり、巣もめちゃめちゃに壊されても、この二人はやっていけるだろう。侘しいような落ち着くようなそんなおかしな気持ちを起こさせる作品だった。

 
  大場 義行
  評価:AA
  「ウルフムーンの夜」の主人公アレックスもタフだったが、こちらの主人公パトリックとアンジーはさらにタフ。それだけでなく、取り柄の一つが「情け容赦がないこと」というのが個人的にはぐっとくる。誰が嘘をついているのか、誰が一番悪い奴なのか、それともみんな悪い奴なのか、さっぱり判らないまま物語が進行していくワケだが、こいつ悪い奴と判断するやいなや容赦のない男女探偵。娘を捜してくれと云う依頼人、その娘、娘を捜しにいったまま姿を消した名探偵、仲間のギャングども、「絶望の癒しの会」の奴、登場人物がひとくせもふたくせもあり、面白すぎ。というか、冷静に考えれば、登場人物のほとんどが悪党で、主人公ですら正義を振りかざす悪党どもという作品はなかなかないのでは。いい人はすぐ死んじゃうし。まさしく穢れしものどもの饗宴。そくこのシリーズの購入を決定しました。

 
  操上 恭子
  評価:B+
  ハード・ボイルドと呼んでいいのだろう。ただし、このシリーズの語り手である、探偵のパトリックは完全には孤独でも非情でもない。彼にはアンジーという心から信頼でき、一心同体といってもいいパートナーがいる。それでも、その「パートナー以外誰も信じることができない」というぎりぎりの追い詰められた状況の中で、情け容赦なく徹底的に謎を解決する。何ごとも中途半端にはせず、借りはきっちりと返す。まさにハードボイルドの真骨頂。読者を本当に楽しませてくれる。暗い話だが、読後感は爽やかだ。それでもAをつけなかったのは、「パトリック&アンジー」のシリーズが面白いのは当然だということ。それに、前作でどん底まで落とされた二人なのだから、今作で立ち直るのは読む前からわかり切っていたということがあったからだ。それから、ブッバがあまり活躍しないのでブッバファンの方には物足りないかも。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  私立探偵アンジーとパトリックが物語開始早々誘拐され、しかも、仕事を依頼してくるのが、その誘拐犯という、呆然としてしまう出だしにあっという間に引き込まれる。まったく話の展開が読めないうちにストーリーは二転三転。ちょっと待ってと言いたくなるほど、文章のテンポがとても良く、早い。描写と会話のバランスがとれていて、リズムがあるので、読んでいて疲れない。本作品はシリーズ三作目だが、シリーズ物を途中から読むというのは、やっぱりどうしても気持ちが悪い。面白くない本だと、前作を読む気がしなくなるし、面白い本だと、前作を読んでいないことが、果てしなく悔しい。もちろん、この作品は後者である。まずは一作目からぐぐっと行きたいものだ。

 
  佐久間 素子
  評価:B
  あとがきに「人間の心の闇をのぞきこむ」とあるが、そこまでしんどくない。余韻を残すエンターテイメントといったところか。シリーズ物だが、起承転結がきちんと用意されているので、本書だけでも満足できる。せつないのは、主人公とかつての師ジェイ、かつての上司エヴェレットとの人間関係だ。美学のくずれていくかなしさ、信頼も理解もしているのに歯車が狂っていく無力感がたまらない。主人公も語り口も饒舌だが、ウンチクたれではないので読みやすい。ただし、随所にみられる「しゃれた言い回し」の3割が意味不明。翻訳物はこのあたりがつらい。

 
  山田 岳
  評価:D
  ああ、またかいな(ため息)。ちかごろのアメリカの探偵はんは、こそ泥とよう区別がつけへんようなことを平気でしはる。どないなってんねん、あの国は。じぶんの目的のためには、なにしてもええのんか? 好き勝手、やりたい放題は、ハリウッドの映画の中だけにしてほ’しいわ、ホンマに。小説が映画の影響をもろにうけて、どないすんねん。200ページ近こ読んでも、ぜんぜん感情移入でけへんかったわ。

戻る