年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
操上 恭子の<<書評>>
文庫本 Queen

「穢れしものに祝福を 」
評価:B+
ハード・ボイルドと呼んでいいのだろう。ただし、このシリーズの語り手である、探偵のパトリックは完全には孤独でも非情でもない。彼にはアンジーという心から信頼でき、一心同体といってもいいパートナーがいる。それでも、その「パートナー以外誰も信じることができない」というぎりぎりの追い詰められた状況の中で、情け容赦なく徹底的に謎を解決する。何ごとも中途半端にはせず、借りはきっちりと返す。まさにハードボイルドの真骨頂。読者を本当に楽しませてくれる。暗い話だが、読後感は爽やかだ。それでもAをつけなかったのは、「パトリック&アンジー」のシリーズが面白いのは当然だということ。それに、前作でどん底まで落とされた二人なのだから、今作で立ち直るのは読む前からわかり切っていたということがあったからだ。それから、ブッバがあまり活躍しないのでブッバファンの方には物足りないかも。

【角川文庫】
デニス・レヘイン
本体 952円
2000/12
ISBN-4042791034
●課題図書一覧

「私家版」
評価:C
ストーリーとしては、とても面白かった。解説にもあるとおり、英米ミステリーを読み慣れた者にとっては、結末はちょっと??で、読了直後には物足りなさもあったが、少し時間が経つとしみじみと面白さがわかってくる。映画化された理由もよくわかる。救いのないほど陰湿で暗い話でもあるのだが、いい歳をしたおっさんたちが、思春期の青年のように自分の自意識に振り回されているのが妙に滑稽だ。ただし、とても読みにくい作品でもあった。たった200ページちょっとを読むのに1週間近くもかかってしまった。前にも感じたことがあるのだが、ヨーッロッパの作品というのは何故だか読みにくい。元々の言語の問題なのか、純文学だからなのか、文化の違いなのか。
【創元推理文庫】
J=J・フィシュテル
本体 560円
2000/12
ISBN-4488208029
●課題図書一覧

「密約 物書同心居眠り紋蔵」
評価:B
時代小説や捕物帳といったものにまったく馴染みがないし、テレビもあまり見ないので、同心といわれると子供の頃に見た『必殺』シリーズのイメージくらいしか浮かんでこないのだが、どうやらこの「居眠り同心」シリーズもテレビドラマ化されていたらしい。読んでみると、なるほどテレビ向けの話だ。眠り病の同心というだけで、何となく絵になる。捕物帳として優れているのかどうかという判断は他を知らないのでできないが、マンガのように気楽に読むのにはいいと思った。ただ、この『密約』はシリーズの3作目にあたるのだが、登場人物に関する説明があまりなく、「これはいったい誰だろう」と思うことが多かった。
【講談社文庫】
佐藤雅美
本体 629円
2001/1
ISBN-4062730707
●課題図書一覧

「六番目の小夜子」
評価:D-
私の好きな漫画家、吉田秋生の作品に『吉祥天女』(昭和58年)というのがあるが、この「六番目の小夜子」は明らかに吉田秋生の『吉祥天女』をモチーフにしている。「地方の高校に転校生としてやってきた謎めいた美女。長い髪を風になびかせた彼女は、あまりパッとしない女主人公と親友になる。そして……」と、まったく同じ文章で紹介できる。しかも、名前まで同じ小夜子だ。まあ、ストーリーはまったく違うのだけれども。で、結局オリジナルを超えることはできなかった、ということだろうか。『吉祥天女』も吉田秋生のベストの作品にはほど遠いのだが。少なくとも、ホラーと銘打っているからには怖い話であって欲しかった。
【新潮文庫】
恩田陸
本体 514円
2001/2
ISBN-4101234132
●課題図書一覧

「ウルフ・ムーンの夜」
評価:B
主人公のアレックス・マクナイトは、元マイナーリーグのキャッチャーで元警察官の 私立探偵。警官だった頃に撃たれた銃弾が今でも心臓の横に残っている。48歳、独身。中年のおっさんだ。ところが、おっとビックリの肉体派ぶりをみせてくれる。なにしろこの話の冒頭ではアイスホッケーのキーパーをやっているのだから。その後も、次から次へと肉体を酷使した活躍(?)をする。精神の方もタフで、「何もそこまでしなくてもいいのに」と思う程、一度自分が関わった事件にどこまでも執着する。カッコウのいいオヤジだ。今月の文庫班はシリーズ物が多い。この『ウルフ・ムーンの夜』も評判の良かった『氷の闇を超えて』の続編だが、これに関しては前作を読んでいなくても十分に楽しめる。
【ハヤカワ文庫】
スティーヴ・ハミルトン
本体 700円
2001/1
ISBN-4151718524
●課題図書一覧


「天才伝説 横山やすし」
評価:E
横山やすしはもっとずっとおっさんなのだと思っていた。亡くなった時まだ51歳で、あの漫才ブームの頃にやっと30台半ば、たけしとたった3つしか違わなかったということをこの本を読んで初めて知った。まあ、私に常識がないというだけのことかも知れないが。で、この本である。タイトルや帯や裏表紙を見ると、横山やすしの評伝のような物かと思うが、さにあらず。小説「唐獅子株式会社」の映画化の顛末を中心に、筆者・小林信彦が横山やすしにどうかかわったかを書いている。そして、この映画化の際のあれこれに、筆者はよほど罪悪感を覚えているらしく、贖罪というより言い訳に満ち満ちた1冊である。
【文春文庫】
小林信彦
本体 476円
2001/1
ISBN-416725610X
●課題図書一覧


「不機嫌な果実」
評価:E
林真理子は、エッセイは面白いんだけどなぁ。なんで小説になると、こんなに読むのが苦痛なんだろう? その理由を考えてみた。エッセイならば、どんなことが書いてあろうと「まあこんな人もいるかも知れないよな」と納得することができる。それにエッセイを書いている林真理子は、ワガママで思い込みも激しいが、ちゃんと自立した人間に見える。それなのに、なぜ林真理子の小説に出てくる女は、どんな夫や恋人を持つかということだけが自分の価値基準だと思っているのか。なぜ自分の足で立とうとしないのか。 実際に私のまわりには、そんな女は一人もいない。渡辺淳一の描く女性像なら、まだ「おっさんの妄想」として理解することもできる。だが、林真理子のは……
【文春文庫】
林真理子
本体 476円
2001/1
ISBN-4167476215
●課題図書一覧



「ハドリアヌスの長城」
評価:B
舞台はアメリカ、テキサスの片田舎。語り手でもある主人公は、殺人犯の脱走囚。物語は、主人公が特赦を受け、生まれ故郷の刑務所の町に戻ってくるところから始まる。どう考えてもミステリーの設定だ。文章もミステリーの文法で書かれている。ところが、どんな事件が起こるのかと期待しながら読みすすめても、何も起こらない。この作品は、ミステリではないのだ。じゃあ何なのか、と聞かれて答えてしまうと、読む楽しみを奪ってしまうことになりそうだ。是非御自分で読んでいただきたい。前半は退屈で、読みすすめるのが苦痛かもしれないが、最後には大きな感動が待っていることだろう。
【文春文庫】
ロバート・ドレイパー
本体 819円
2000/12
ISBN-4167527634
●課題図書一覧

「火の接吻」
評価:B‐
一見、謎は明確なように見える。始めから三分の一くらいの所で、事件はすべて解決したように思える。そして、四分の三くらいの所では、今度こそ完全に終わったような気がする。ところが……。入れ子細工の箱のように、どんどんと奥が深くなっていく。それにしても、消防士が主人公だったと信じていたんだけどなあ。連続放火事件を題材にしたミステリーだが、一番不思議だったのは、軒先きに置いたダンボールに火をつけたくらいで、そう簡単に家が燃えるのかということ。舞台になっているのは昭和60年ころだから、建材は今とそんなに変わらないはず。私は小火かビル火災しか見たことがないんだけどな。と、気になっていたんだけど……
【扶桑社文庫】
戸川昌子
本体 667円
2000/12
ISBN-4594030270
●課題図書一覧


戻る