年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
     
 
  六番目の小夜子
  【新潮文庫】
  恩田陸
  本体514円
  2001/2
  ISBN-4101234132
 

 
  石井 千湖
  評価:A
  こっくりさん、怪談、心霊写真、口裂け女。奇妙な噂話を根拠もなく信じていたころが懐かしい。『六番目の小夜子』は誰にでもあるこのテの感傷をつく。ホラーと言われているがバケモノも血みどろのサイコキラーも出てこない。生徒のあいだで理屈なく受け継がれている「サヨコ」のゲーム。そして少年少女の集団の不気味さと学校という閉じられた空間、なにより<言葉>が怖い。読後の余韻は美しいが。なんってたって伝説のデビュー作である。私は一部の作家や批評家が評価しだしてから恩田陸という作家の存在を知り、作品を読んですっかりはまってしまった。『小夜子』は遅れてきたファンにとってはなかなか手に入らなかった作品で二年前再刊されたときには狂喜乱舞したものだ。ついに新潮文庫に戻って来た、というのは感慨深い。普遍性のある物語の強さだと思う。

 
  内山 沙貴
  評価:C
  どこまでも続くような青く澄んだ空の下に桜が満開の花を見せる、そんなほのぼのとした春の第一章に、不吉な影が、真紅の蝶が、闇を率いて舞い降りる。蝶は黒い地の上をヒラリヒラリと不気味に飛び、人の心に恐怖を生む。色彩鮮やかな光のもやはやがてどす黒い闇に取って代わり、抵抗も虚しく、闇の狭間で光を見失った心は薄い玻璃のようにパリンと割れる。だが、それでも人の命は続けられる。ある日突然、天の彼方から現れた一抹のオレンジの炎がすべてを覆い焼きつくして、空色と春の光のもやも、闇に落とされた一点の紅も、すべて現実だと錯覚した幻だったことを知らせてくれる。が、しかし……今年消えたはずのこの幻は来年もまた、繰り返される。そして新しい春、浮かれた気分の心の中に活けられる不吉な印象の赤いバラ。

 
  大場 義行
  評価:B
  バラバラで手のつけられないジグソーパズルと、それに関する始めのルールを最初に提示してある、という造りの為に、いきなりどっぷり本の中にひきずり込まれた。しかも、学園ものなのか、それともホラーなのかすらも判らず、手探りの状態の為にとんでもなく読ませる。ちなみに、サヨコ上演のシーンの迫力は、凄まじく、コワすぎ。学園ホラーものの定石のようなラストの為に、なんだか納得がいかない気もしないでもないが、とにかくこれぞ小説という感じで楽しめた。

 
  操上 恭子
  評価:D-
  私の好きな漫画家、吉田秋生の作品に『吉祥天女』(昭和58年)というのがあるが、この「六番目の小夜子」は明らかに吉田秋生の『吉祥天女』をモチーフにしている。「地方の高校に転校生としてやってきた謎めいた美女。長い髪を風になびかせた彼女は、あまりパッとしない女主人公と親友になる。そして……」と、まったく同じ文章で紹介できる。しかも、名前まで同じ小夜子だ。まあ、ストーリーはまったく違うのだけれども。で、結局オリジナルを超えることはできなかった、ということだろうか。『吉祥天女』も吉田秋生のベストの作品にはほど遠いのだが。少なくとも、ホラーと銘打っているからには怖い話であって欲しかった。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  作品のところどころに挟まれた『彼女』をめぐる挿話は、物語をホラーにしきれずに終わっている。緊迫感もいまひとつ無い。しかし、ホラーだと思わなければ、とても清々しい読後感のある作品である。その理由は、この物語が高校3年生の一年間を大切に追っていることにある。読みながら、ひとつ、またひとつと、自分の高校時代の思い出と似た風景に出会ってしまうのだ。校舎に残響する生徒達の笑い声や、夕日が差し込む教室、他愛の無いおしゃべりや、恋人と歩いた帰り道、そうしたいろいろな風景を思い出させてくれる。読んでいて、昔中学生の時に読んだ筒井康隆の「時をかける少女」を思い出した。どこが似ているというわけではないが、たぶんこの作品を中学生のときに読んだら、同じようにハマルかもしれないなと、そんな気がした。

 
  佐久間 素子
  評価:B
  あれだけ盛り上がらせておいて、何だその宙ぶらりんなオチは!!と、しばし怒りに我を忘れる。この中途半端加減が、不安であっけなくて、本書にふさわしいのかも、と冷静になってから考え直してみるも、やっぱり弱い。というわけでA評価にはしないが、本書にはとても魅力があって、正直、好きでたまらないので、一押しとさせていただく。私も地方の進学校に通っていたクチなので、著者の書く高校生活がとてもリアルに感じられる。そんなに思い入れもないくせに、懐かしく、痛いようなきもちまで思い出す。それ以上に、というよりここがまさに魅力なのだが、あてどない不安がまざまざとよみがえる。学校の怪談が怖いのは、それを怖がっていた小学生の自分を思い出すからだ。それと同じ。将来への不安、自分への不安、そうした不安を思い出すから、学園祭の場面がこんなにも怖い。そして、登場人物がたまらなくいとおしい。恩田陸未経験の方、要チェックです。

 
  山田 岳
  評価:A
  な、なんでやろ? 読みはじめたとたんに、すうっとじぶんの気持ちまで高校生にもどってもうた。あとはラストまで一気や。あとがきに「NHK少年ドラマシリーズへのオマージュ」と書いてはったんで納得。わし’も、あのドラマシリーズのファンやったさかいな。そーゆー意味では、あのシリーズの「時をかける少女」(筒井康隆原作)と双璧やね、わし’の中では(関係あれへんけど、NHKでは「続・時をかける少女」まであったんやで)。その時代を知らへん人には、どな’いやろ?なぞの転校生、沙世子の登場のしかたが、めちゃめちゃこ’わいのは確かやけどね。

戻る